ゲームブック(十九頁目)
最悪だ、そう思って天井を見上げる。
このハイゴブリンの包囲、これを打破する起死回生の妙案は無いものか。
その時、天が割れた。真っ暗なそこが、真っ二つになって光が溢れる。
そこから二つの影が降ってきた。天使かと思ったが、おじさんと女の子だった。
見知った顔。そう、山本さんとさやだ!
「あっ!どいてえぇぇーー!」
「ぬぅぁーーっ!?」
どおんと、砂埃をあげて二人が墜落する。着地というより、墜落だった。その突然の来客に、ゴブリンも「ゲゲゲッ!?」と驚いている。そりゃそうだ、獲物の四方八方を囲んだと思ったら天井から人間が降って来たんだからな。
「ごほっごほっ」
咳き込みながら人影を見ていると、もくもくと煙る砂埃が晴れた。うつ伏せに倒れた山本さんの上にさやが、ちょこんと座っている。
さやは無傷だが、山本さんは白目を剥いて意識がない。
「あ、良かった!無事だった!?」
「……うん、まぁ」
「おい、大丈夫かよ」
ノブと顔を見合わせた後、彼女の足元を見る。無事では済んでいない者が、一人いるのだが。俺たちに続いて目線を落とした彼女が小さく言った。
「あっ!ごめん!」
そう言ってぴょこんと横に退いたが、山本さんはピクリとも動かない。そこに風を着る音がひゅんと聞こえた。茶番は止めろとばかりに、石の投擲が再開されたのだ。
「えー……ちょっと、ヤバイ状況?」
状況を把握したさやが尋ねた。
「うん、魔法でいけるか?」
「MPは大丈夫、時間を稼いで」
「わかった、ノブはどうだ?」
「俺は……駄目だ」
そう言って、自分の手のひらを見つめている。それは小刻みに震えていた。
「酒が、酒が無いとダメなんだよ。仕事にならねえ」
震える手を上から握りしめる。
「大丈夫だ、できる。頼むよ」
じっと目を見る。働いて貰わないと困る。
「……あぁ!もう知らねえぞ」
「よし、じゃあ武器を……交換しよう」
俺の片手剣をノブに、ノブの短剣を俺が使う。片足が使えなくても、これくらいの剣なら扱えそうだ。
ギャアギャアと、槍を持ったモノが何匹か柵を乗り越えて突進してくる。魔法使いを止めようという事だろう。
防衛しなければ!
「
ノブのぷるぷると震える手が、ぴたりと止まる。瞬間、俺の動きを模倣した剣術で、接近するゴブリンの懐に入り、その手を斬りとばした!
ふらふらと、両手を失ったゴブリンが俺の方へ走ってくる。ペタりと胸の装甲に腕の切断面をくっつけた。
「ご苦労さん」
短剣を走らせ、ゴブリンの首を掻っ切る。パッと血が吹き出して、仰け反り倒れた。
ノブに向かって叫ぶように声をかける。
「ほら、できるじゃないか!酒なんて無くても!」
「あぁ!喋ってないで戦えよ!」
次々とゴブリンが突進してくる。
しゃあんと、槍を短剣で受け流した。負傷した右足に負担がかかり、傷口が開く。
歯を食いしばり、体ごとぶつかるように短剣を突き刺した。
しかし、リーチの差。これほど厄介なんて!
ハイゴブリンとは言え、技術は大した事は無いようだが。しかしあの長い槍が、本当にやりにくい。
どうしても先に向こうの攻撃が届くし、多数で押し寄せると捌きようがない。
「ええい、これは!」
ノブもじわりじわりと押されている。いくらか負傷もしているようだ。
「一匹、抜けた!」
「そっち、危ないっ!」
一匹のゴブリンが、魔法陣作成中の無防備なさやの方へ抜けて行った。その槍が、しゃがみ込んでいる彼女に向かって……。
ずばん!
あわや直撃かというところで。ゴブリンの両足が吹き飛び、その場で転ける。
ゆらりと陽炎のように立ち上がったのは、刀を握った山本さんだ。自然な流れで、足を切り飛ばされて転がっているソレにとどめを刺した。
「いや、少し寝坊したようです。私も戦いましょう」
「山本さんっ!?」
声をかけると、にやりと口元を歪めた。いつもの目は笑っていないアレだ。
「おい、また来るぞ!」
「さやには近づけさせない」
「キェェェエエエ!」
彼女を中心に囲むように三角形を組み、剣を構え直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます