ゲームブック(十八頁目)
一方、その頃。
二階に取り残された山本とさやは、助けを求めるべく、来た道を急いで駆け戻っていた。
「はぁっはぁっ。ああーもう!最悪!ユウ君の馬鹿」
「ちょっと気が抜けていましたね」
飛んでいきそうな大きな帽子を手で押さえながら、全速力で走り抜ける。彼女の自己ベストは100mを21秒だ。遥か昔、中学生の時に体育の時間で測った公式タイムである。そんな彼女の速度に合わせるように、少し前を山本が走る。
しばらく駆けたところで、彼はぴたりと立ち止まった。さやにも止まるよう合図する。
「おかしいですよ、何か」
「はぁーはぁー、ふぅーっ。え?なに?」
さやは両膝の上に手を置いて、肩で息をしながら聞き返した。彼女がこんなに走ったのはいつ以来だろうか。
「同じような、いや。同じ道を何度も通っている」
「なにそれ」
「罠、でしょうか。偵察者が居ないので、はっきりしないですね」
「ううーん」
そう、ダンジョン探索では偵察者は必須クラスであると言える。罠にかかっていたとしても、大多数の人間はそれに気付く事すら出来ないのだから。
そうして立ち止まっているうちに、ぞろりと岩陰から大きな狼が出てきた。
「お客さんですね、さやさんは戦えますか?」
「ええっと、山本さんお願い!」
わかりました、と言うなり抜刀し、狼目掛けにわかに斬りかかった。彼の信条は先手必勝なのだ。
「キエエエエェイアァァイ!!」
大きな怒号と共に、一直線に狼目掛けて刀を振り下ろした。一瞬驚き、動きが止まったそれの頭蓋に大きな衝撃が走る。
ごんっ!
大きな音を立てて、刀が脳天に直撃した狼は、フラフラと数歩歩き、その場に倒れた。山本は泡を吹いて動かなくなったそれをしっかり確認した後、納刀した。
「ゴン?」
いつもの如く、すっぱり切れるものと思っていた彼女は肩透かしを食らったようだ。
「峰打ち?」
「いえ、実はこの刀。呪われているんです」
山本の刀は、人間型に特攻がある。しかしそれ以外の魔物は斬れない呪いがかけられているのだ。
「ダメじゃん」
まさかの呪いのアイテムにダメ出しをする。
「安かったので……。さあ気を取り直して、出口を探しましょう」
彼女はこくりと頷き、今度は走らずに歩いて出口まで向かう事にする。走っていては注意散漫になるという理由と、何より体力がもう続かないのだ。
……
「うーっ!なんで戻って来るかな!?」
彼女は、そんなに大きな声を出す方ではないが、ガラにもなくイラつきを隠さずに叫んだ。気が焦っているのだろう。
すかさず、まぁまぁと侍が姫のご機嫌を取る。
「しかし、これでは無限ループですね」
こうなったら魔法で……などとブツブツ言っている彼女を尻目に、山本は水筒の水を飲み一息付いた。
「わかった、二手に別れよう!」
ぶっ!と飲みかけた水を吹き出す。
「いやそれはさすがに、無謀ですよ」
「ああーもう!じゃあどうしろって!?」
「とにかく、一旦落ち着いて」
完全に頭に来ているさやを「どうどう」と、なだめながら近くの岩場に案内して腰掛けるように提案する。
「座りましょう」
彼が誘導して腰掛けようとした時、足元がパカっと割れて、大きな穴が口を開いた。
「「あっ」」
短くそう声が出たが、もう遅い。二人仲良く、奈落の底へ吸い込まれて行ったのだった。
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