ゲームブック(十七頁目)

「クソ、どこまでも付いて来やがる」


俺の目には何も見えないが、ハイゴブリンが付かず離れず、付いて来ているらしい。ひょこひょこと肩を借りながら逃げるように歩いていくが、出口(上階段)はおろか奴らから逃げ切ることも叶わない。


暗い暗い、洞窟のような土壁を横目に歩き続けた。後ろから追いかけられているという事実が心を急き立てる。玉のような汗が、額から滲み出た。


ぼぅっと柔らかな光が、遥か前方に見えた。それは点いたり消えたり、ゆらゆらとか細い光だった。俺はその光に希望を抱いたが、ノブはそうではないようだ。

空いている方の手で、汗を拭いながら言った。


「あれは敵だ、このままだと挟み撃ちになる」


ずしりと、その言葉が重くのしかかった。

母親に手を引かれる童のような気持ちで問うた。


「どうしよう?」


「考えてる、少し静かにしてくれ」


ぴしゃりと言い放たれた言葉に閉口する。見ると彼の手が細かに震えている、事態を恐れているのだろう。長い通路を挟んで敵に囲まれた、これがあいつらの作戦か。


ふと足を止め、ノブが首を回して辺りを伺う。ちょっと、と言いながら俺から離れて、近くの壁面を触って何かを探っている。


「おい、ここに隠し扉がある」


グッと押すとそこからぴしりと縦に割れ、黒い隙間を見せた。聞けば、からくり屋敷のようにくるりと回るのだと言う。


「おそらくこれは、一方通行だな」


こちらからは通れるが、向こうから戻る事は出来ない仕掛けである。さあ、どうすべきだろう。


「行くしかないよな」


「そうだな」


そう決まっている。すでに絶体絶命の状況下だ。この先に何が待ち構えているとしても、まさかこれ以上悪い事は起こらないだろう。

がこんという音と共に、隠し扉の中に滑り込む。その先は、大きな部屋になっていた。辺りは薄暗く、どれほどの広さなのか把握できない。


「ノブ?」


一歩踏み出そうとした時、ノブの足が止まる。


「あー……、ちょっと待ってくれ」


彼はふぅと一つ大きな息を吐きながら、片手で側頭部をガリガリ掻き毟る。


「大丈夫か?」


「あぁ。酒が切れて、ちょっとな」


その時、四方からぼっと炎の点火する音。突如ばらばらと松明の炎に囲まれた。そのオレンジ色の灯りに照らし出されたのは、無数のハイゴブリンだ。大きく裂けた口は笑みを浮かべている。


完全に周囲を全て囲まれている上、驚く事に盛り上がった土に格子状に杭を打ち込み、陣地としている。


「おい……これは?」


「クソッ!完全に罠だ、誘い込まれた」


ノブが魔物が陣地を作成するなんて聞いた事ないぞ、と一人文句を言っている。

まるで地獄のすりばちの真ん中だ。突破できる箇所は無いかと、ぐるりと見渡すがどこもかしこも尖った杭と、ハイゴブリンだらけ。2、30匹は居る上に、槍のようなモノを突き出して待ち構えている。


「グゲゲゲッ!」


ぴゅうんと音を立てて、何かが飛ぶ音。頰を掠めたのは、石だ。見れば、ひゅんひゅんと投石紐を振り回して、石を投げてくるモノが何体か居る。


「おい!ハイゴブリン頭良いじゃないか!?」


「耳元で怒鳴るなって!」


闇雲に突撃しても、柵に阻まれた上、合間から槍を食らうのは目に見えている。しかし、じっとしていても飛び交う投石に当たって消耗するだけだ!


「どうする?」


「何もかも俺に聞くなよ!あぁー、ストロングマックス呑みてえ!」


「ほら、他に隠しているスキルとか?」


「ねえよ!」



あぁ、最悪だ。

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