ゲームブック(十六頁目)

「フラム……ベルジュ!」


ばっと辺りが黄色く照らし出された、魔法の炎で紡ぎ出された光の剣。それを、がむしゃらに振り回す。


「はぁぁっ!」


がぁんという音と共に、スケルトンがバラバラに砕け散った。負傷した脚を庇いながらの戦闘だ、何一つ手を抜けるものではない。


「はぁっ……はぁっ……」


「おい、大丈夫かよ」


元から存在しなかったかのように光の剣が搔き消える。それを確認するとノブがぱっと駆け寄って、肩を貸してくれた。だらりとした右足は力が入らないし、感覚もない。

不思議なもので、脚が使えないと重さのある実体剣は思うように振るう事が出来ず、止む無くフラムベルジュ一本で凌いでいる。しかし、残るMPも風前の灯だ。


「正直もう限界だ、魔法剣も後1、2回が限度かな」


「厳しいな」


ちらりとノブの腰に目をやる。以前購入した短剣が、しっかりと腰に収められている。新品同然である。

そういえばなぜノブは戦わないのか?この状況でも、短剣を抜かないのは何故だろう。あれが活躍したのは固いカンズメを開けるのに使った意外に見た事が無いぞ。いや、倒れたゴブリンゾンビの首も切っていたか。


「……」


その視線気がついたノブが、口を開いた。


「あぁー……うん、俺、武器を上手く扱えないんだよな」


「どういう事?」


「俺は弱いんだよ、戦闘用のスキル一個しかねぇし」


「へぇそうなのか、レベル高いのにな。そのスキルってどんなの?」


「……」


「え?」


はぁぁと、大袈裟な溜息をついてからノブは口を開いた。


「あんまりスキルを披露したくねぇんだけど、状況が状況だからな。わかったよ、俺も戦う」


所持スキルを隠してどんなメリットがあるのか分からないし、特に詮索するつもりは無かったが、それでも一緒に戦ってくれるという言葉は嬉しかった。


「ありがとう」


「いや、その、礼は要らねえよ。クソ。パーティだろ」


「そっか。協力して脱出しよう」


「ああ、出し惜しみ無しだ」


酒の入った水筒を開けながら、ぶっきらぼうに言い放った。心強い。なんだか今、本当のパーティになれた気がする。



……



「後ろからずっと、気配が付いてきている。ハイゴブリンだろうな。かなりの数だ」


ノブがぼそぼそと、俺にだけ聞こえるように耳打ちをする。


「魔物の気配を回避しながら進行ルートを選んでいるが。一向に逃げ切れないし、追いついても来ない、これはまるで……」


そう言いかけて止まる。そうだ、足を引きずりながら歩いている者に追いつかない筈が無い。


「何かの作戦?」


「いや、そこまでハイゴブリンが頭を使うなんて聞いた事がないが。しかし何か誘われている気がするな」


うむぅ、と二人して唸ったが、その理由が分かるわけもなく、解決法を思いつく事もなかった。そうした時に正面の扉が突如開かれ、にわかに何者かが飛び出してきた!


「うぉあ!?」


「!」


どうやらノブも気配を感じなかったようだ、黒ずくめの人影から青白い光の筋が放たれ、それが目にも留まらぬスピードで眼前を横切った!

すとんと軽い音を立てて、背後の土壁に突き立つ。両刃の黒く短い刃物、それは所謂クナイである。


「忍者!?」


そう、目の前に現れたのは忍者風のナニモノかであった。深いフードに覆われた目元は怪しく光り、人間では無い事を物語っている。

ニンジャかよと隣で呟く声が聞こえるので、どうやらソコはそうらしい。

手強いぞと言いながら、ぞろり俺の剣を鞘から抜き放つノブ。いよいよ戦う時が来たか。


「ん?」


なぜ俺の剣を使うのか。


「あぁ、借りるぞ。二人掛かりだ隙を狙え」


「それは良いけど……」


コソコソ話をしているのを邪魔するように忍者が飛びかかってきた。それを間髪入れず打ちはらうノブ。カッと火花を散らしながら、剣と刀が交差した。


動けない俺を庇うように片手剣一本で器用に打ち合う。片手をフリーにして、隙を狙うあの動きは、あれはまさに魔法剣士の剣術である。


「これが俺の切り札、見よう見まねの一つイミテーション・ワン。武器の記憶を辿り、持ち主の動きを再現する」


魔法剣士というより、まさに俺の動きにそっくりな体捌きで、忍者の剣撃を受け、逸らして凌いでいく。


「次で崩すから、止めを頼むぞ」


忍者の上からの斬り下ろしに、武器の頑丈さに頼って剣をぶつける。カォーンと甲高い音とともに、両者のバランスがぐらりと崩れた。


「いま、いけ!」


「分かってる!フラムッ!」


なけなしのMPと引き換えに、放たれた炎の矢が一直線に忍者の胸に突き立った!


ドンッ!


ゆらりと後ろに仰け反り一呼吸置いた後、ぼぉっと炎が溢れ出した。黒い装束の内部から焼かれた衝撃ゆえか、刀を取り落とし、両手を天にかざしながら膝から崩れ落ちた。


後に残るのは黒く焦げた装束の一部と、一枚の金貨のみだった。


「お疲れさん」


そう言って彼は、俺の鞘に剣を戻した。



……



※固有スキル

見よう見まねの一つイミテーション・ワン

他人の武器を手にした時、その持ち主の技術を模倣する事ができる。ただし、必要筋力値を満たしていない場合、ダイスロールによる失敗判定がある。

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