ゲームブック(十三頁目)
あれから数週間。
ガリオスが魔術師組合の所業に怒り、抗議をしに行ったり、まぁ細かなイベントはあったが穏やかに過ぎていった。
なので俺たちは、自分達の力を試しながら1階の探索を進めることができた。
さて、その間に、いくらか分かったことがある。
まずMPの回復について、これは一晩明かすと全て回復すると考えていたのだが、そうでも無いらしい。
自然回復は時間経過によって起こる。起きていても時間によって回復するのだ。しかし睡眠時の方が自然回復のスピードが早いようである。長期探索になると頭に入れておいた方が良いかもしれない。
あとは経験点とレベルアップの仕組みだ。どうやら魔物にも内部的にレベルが決まっていて、彼我のレベル差で手に入る経験点が減衰するようだ。つまり、弱い魔物ばかり数をこなしてもレベルは上がらないのだ。
俺のレベルはあれから一つ上がって4になったが、ノブとさやは変わりなしだ。一階では4が限界なのかも知れない。
それで何故、こんな事を調べていたかと言うと……。
「やはり二階に行くとなると、継戦能力が足りないぜ。お前たちは揃って超短期決戦型だからなぁ」
グラスから口を離したノブがそう答えた。
今日は迷宮探索はお休みにしよう、と決めるなり昼間から呑み始めたのだ。
いや、彼は迷宮の中でも呑んでいるんだが。
「MPはほら、自然回復で」
「そりゃ無理だ、現実的じゃない。待ってる間に敵が来たらどうするんだ?」
「でもレベル上げたいしねぇー」
さやが口を挟む。
そう俺は一応、迷宮を攻略するつもりでいる。そうすると、レベルを上げながら先に進めないといけないのだが。
「何にせよ、三人じゃ限界だぜ。攻略組は六人のパーティが多いし、やっぱりそれくらいが丁度良い人数なんだろうな」
へぇなんて相槌を打ちながら考える。二階以降を探索するとなると、泊りがけでの遠征になる事も多いだろう。長期戦を考えれば、確かに回復魔法を使える賢者や、MPが無くても戦える戦士は魅力的だ。
さやの第三魔法もそうだし、俺の魔法剣も殆ど全てのMPを使う。一回だけの切り札だ。
つまり……バランスが悪い!
「よし、わかった!仲間を増やそう!」
そう声を上げて立ち上がる。
そのまま黙って座った。ちょっと恥ずかしい。
「……で、ノブさん賢者を仲間にしたい時はどうしたら良いのかな?」
「うーん、賢者ねぇ、賢者」
「……」
「あいつらの溜まり場が、あるんだけど行ってみるか?」
「お!それは話が早い、行こう!」
職業柄、賢者はパーティを組んで迷宮に潜る事が殆どなのだ。なので、その手助けになるようにパーティの斡旋をしているそうだ。
……
それで、賢者の溜まり場になっている、とある酒場に来た訳だが。
「……」
「なんか視線が怖くない?」
俺の裾を引っ張って、さやがそう小声で話しかけてくる。
「確かに、なんだろうコレ。初対面なんだけど」
大きなテーブルで、一番偉そうなオーラが出ている女賢者にノブが話しかける。
明るい茶色でショートボブ、キリッと仕事の出来そうな感じの女の子である。
「よう。パーティを探してる賢者は居ないか?」
「いないわ」
取りつくしまがない。ぴしゃりと会話を打ち切られた。
怖っ!
どうして、こんなに怒っているのだろうか。
「いやいや、居るだろ?若い子がさ、三期生も来ているようだし……」
ちらりとノブがとなりのテーブルに目をやるが、そこに居た全ての人が目を逸らす。
「はぁ……あなたに紹介する賢者は、いないわ。それに二度と此処に来ないでって言ったよね?」
「んー?そうだったかなぁ、いやでもリーダーがさぁ」
そう言ってこっちにノブが話を振る、何でこんなに険悪なんだよ。
「あの、賢者を探していて」
そう告げると、彼女は一瞬考えた後に答えた。
「ごめんね、あの男のパーティには派遣できないの。アイツが抜けたら改めて来てね」
「えっ、その」
「……まだ何か?」
「いえ、すみませんでした」
有無を言わさぬ迫力に、思わず引き下がってしまった。超怖いんですけど。
大人しく酒場を後にした。
……
とぼとぼと歩きながら話し合う。
「ノブさん、あの賢者の人に何したんですか?」
「えー?いや別に。仲良かったんだぜ?」
「そうは見えなかったけどねぇー」
うーんと腕を組んで、大袈裟に思い出すようなポーズをするノブ。
「なんか突然キレて、家を追い出されてさ。酔っててあんまり覚えてないんだけど」
なるほど、一緒に暮らしていたのか。仲が良かったというのは本当らしい。
「いや待てよ、アイツの後輩を二人食ったのがバレたからか……?それともメイスを売って飲み代にしたのが悪かったからかな?いや、コレは謝ったら許してくれたしなぁ……」
ブツブツと何か原因を思い出しているようだが、ロクでもない言葉ばかり並んでいるので、ノブが悪いんだろう。
「そうですか、もう良いです」
とりあえず、賢者の紹介をしてもらうのは、不可能だと言う事が分かった。違うプランを考えないと。
「どうするー?」
さやが顔を覗き込んでくる。この人はいつも
「うーん、戦士はどうだろう?」
ちらりとノブの顔を見る。賢者は一旦諦めて、そちらの方から攻めて行こう。
「あぁ、戦士って騎士団と仲のいい奴が多いんだよな。クラスに必要な施設が騎士団の中にあるとかでさ。アロロに聞いてみるか」
「あっ!アロロさんならこの間の件もあるし、話しやすいですね」
「よし、じゃあいこー!」
気を取り直して、元気よく歩き始めた。
……
「おぉ、よく来てくれたな。勇者達よ」
ゴブリン事件で出席したのが好印象だったのか、騎士アロロは両手を広げて歓迎してくれた。
騎士団の本拠地には初めて来たが、普通のお屋敷である。彼の家なのだろうか。
「アロロさん、戦士をパーティに加えたいんだが、誰かフリーのやつを知らないか?」
遠慮なく絨毯を土足で踏みながら、ノブが質問する。
「それならそこに、ちょうど二人居るが」
そう言って視線を向けた先には……。
サムライと小さな女の子が居た。
サムライは以前も見た、刀を使う
こちらに気がつくと、ぺこりと頭を下げた。表情は笑っているが、目は笑っていない。怖い。
女の子は10歳位だろうか、白いワンピースを着ている。見たことはないが本当に戦士なのか?じっと見ているとクレームが来た。
「ジロジロこっちみんなっ!……です」
「あっ、ごめんね」
妙な喋り方をする子だ。それを見て、くっくっくと笑うノブ。どうやら彼女の事は知っているようだが。
「ヤバい奴しか残ってないんじゃない?」
小声で囁く、さや。
確かにそうなのかも。
さてどちらに声をかけようか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます