ゲームブック(十二頁目)

「痛っててて……」


「あ、気がついた?」


さやから声がかけられる。

しばらく地面に寝転がっていたようで、身体が痛い。


「うん、どうなった?」


「んー?勝ったみたいだけどね。ゴブリンは全滅」


今はガチャガチャと撤収作業をしているみたいだ。ゴブリンは灰になり、影の王は役割を果たして消えていた。


「おっ、気がついたか。生きてて良かったな」


そう言ってノブがズカズカと近づいてきた。


「どうなったんです?」


「どうなったも何も、戦は勝ちだよ。被害も大きいけどな。死者が5、負傷者が7。半分は痛めつけられたな」


「そうですか……あの魔法剣士も?」


「あぁ、ダメだったな」


「……」


そうか、戦友の名前も聞いてなかったな。

目頭が熱くなる。安らかに眠れよ。


「蘇生費用はアロロに持って貰おうぜ」


「えっ生き返るの?」


拍子抜けだ、感動を返してくれ。


「あぁ、知らなかったのか。教会で費用を払えば、蘇生して貰えるのさ。ただ死の代償経験点の損失はあるし、蘇生失敗もあり得る」


ぐっと真剣な表情になり、それに、と続ける。


「死体の損傷が大きかったり、ゲームブックが失われた場合は蘇生出来ない。完全なる死ロストだ。良いか、この本はお前が思っているより重要だ。単なる身分証では無いんだぜ」


しっかり持っておけよ、そう言ってノブは俺の胸にしまっている本を、鎧の上からトントンと叩いた。


初耳だ、これが無いと……つまり、それは己の命より優先すべき時もあるという事だ。


北門を見てくる、と言ってノブは去って行った。



ズズズズ……


十分な経験点を得た君はレベルアップする事ができた。レベルが3に上昇する。

そして新たな魔法を得られる可能性がある、ダイスを一度振る。



「おっ!」


ついにレベルアップだ。ワクワクしながらダイスを振る。


出目は……5だ。


良いんじゃないか?本を確認する。

フラムの魔法が強化され、フラムがLv2となった。



「うん」


いや嬉しいけど、嬉しいけど、新しい魔法欲しかった!


どうだった?なんて覗き込んでくるさや。

彼女のレベルも4に上がったようだ、しかしそちらも新魔法は無い様子。

作為的なものを感じるぞ。



……



「良くやってくれた勇敢な勇者達よ!諸君らの活躍で街の危機は去った!」


教会前の広場で、死体と怪我人が並ぶ中にアロロの声が響き渡った。

日はとっぷりと暮れ、大きな月が出ている。


月明かりも大きいし、松明を焚いているのもあり、十分な明るさだ。


北門のゴブリンは、騎士団と魔法剣士が受け持ったが、しばらく交戦すると早々に引き上げたそうだ。なんらかの方法で、地下の軍勢が討たれたのを知ったのだろうか。


やたらとテンションの高い騎士団の面々は、ウォォォと雄叫びを上げたり、騒いだりしている。

俺たちプレイヤー は疲労困憊の様子でばらばらと地面に座っていた。ノブの姿が見えないが、先に酒盛りでも初めているのかな。


「今回の治癒の費用と、蘇生の費用は騎士団から出させて貰う!教会に話は通してあるので、必要な者は傷を癒して行くといい!」


アロロの口振りでは、教会で治癒を受けられるみたいだ。


さやは無傷のようだが、俺はわりと重傷である、お腹が痛い。彼女に、教会に行くので先に宿屋に戻っているよう伝え、ここで別れた。



「神のご加護を」


ふわりと優しい光が身体を包み、痛みは消えた。回復魔法ってすごいな、是非賢者がパーティに欲しくなった。


「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げ教会を後にする。


視界の端で、死者の復活を行なっているのが見えた。ゲームブックを開きダイスを振ると、緑色の強い光が輝いた。

どうやら彼らもげんきになったようだ。



……



「骨折り損のくたびれ儲けじゃん!」


ぷはぁーっと、グラスから勢いよく口を離して叫んだ。


そう、ご機嫌斜めなのはさやだ。月白の葡萄亭に戻ると、彼女とノブがすでに酒盛りを始めていた。

珍しく出来上がっている、察するに何かのお酒をオレンジジュースで割って呑んでいるらしい。ノブは分からないが、麦色の何かを頂いているようである。


「うーん、まぁなぁ」


そう、街を守る為に戦ったが、特に報酬などが貰える訳でもない。召喚されたゴブリン達からは何も手に入らなかったし。


消耗品などの事を考えれば、赤字である。

割とレアなポーションを使ってしまったからな。


「いつもこんな感じなんですか?」


「まぁこんなのは何度もある事じゃないが、騎士団に手を貸しても基本的に無報酬だな。今回は人為的なテロでドロップアイテムが無いから特にそう感じるかもな」


経験点は得られたが、これでは不満を持つものもいるんじゃないか。いや、だから騎士団の呼びかけに答えたのは三期生ばかりだったのだろうか。

今から考えると、攻略組が出払っていたにしても、集まった人数が少なかった気がする。


冒険者プレイヤー もいろいろ居るんだよ」


「俺が戦ったネクロマンサーも、冒険者プレイヤー ですよね」


「あぁルル、リリ姉妹だな。四六時中仮面を被ってるから、どちらが来たのかは分からないけどな。二人共、死体を弄る実験ばかりしているサイコ野郎さ」


吐き捨てるようにそう言った。

ノブはルル、リリと呼ぶネクロマンサーに対して、あまり良い印象は無いようだ。


「まぁレベル2で、ルルリリを追い詰めたとなれば大金星だぜ。どこからかスカウトが来るかもな」


ニヤリと白い歯を見せた。


「スカウト?」


「いろいろ居るって言ったろ、派閥があるんだよ。攻略組に魔術師組合、錬金術師組合や反騎士団の集団なんかもあるらしいな」


こんな所でも派閥争いか。


「ふぅーん、私の方が活躍したと思うけどなぁー」


横から出てきてアピールするさや。

活躍度合いで言うと、それはそうだろう。第三魔法は戦況を覆したのだ。


「うん、まぁそうだよね。俺に来るんだったら、さやさんの方へスカウト来るかも」


「でしょー?ふへへ」


がやがやと彼女と騒ぐ、ずいぶん打ち解けて来た気がする。


「何にせよ、自分の立ち位置ははっきりしておく方が良いぜ。何に与するのか。力を持つと、何もかも無関係とは行かないからな……」


ぐびぐびと酒をあおりながら、ノブがそんな事を小さく呟く。俺達に言っているのか、それとも何か自分にも思うところがあるのだろうか。



その日は、遅くまで三人で盛り上がったのだった。

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