第二話 闇はあやなし-14
くだらない言い争いをするうちに、いつの間にか目的地にたどり着いていた。
朱雀大路の南端に位置し、京の玄関としてそびえ立つ巨大な楼門、
その門前で、黒い鬼火が
ちり、りりり……黒炎が長い尾を引きながら揺らめき、楼門に不気味な陰影を浮かび上がらせる。
黒炎の渦の中央には、いっそう
距離を詰めていくにつれ、影の正体が明らかになってくる。小柄で
「鬼というか、幽鬼ですね」
「どっちでも構わん。
行夜の言葉に、吉平が素っ気なく答える。
幽鬼とは肉体を失い、魂だけの状態で鬼になった存在を指す。時に他に
「
「おそらくはただの
最後まで言わずに、吉平は舌を打つ。
身なりから察するに、唐人と
吉平の苛立ちの原因はそれ――幽鬼が引きずっている
「
行夜の懸念に、吉平は興薄く鼻を鳴らす。
「十中せ九、偶然じゃない。大方、例の
吉平は苛立たしげに吐き捨てると、ずいと幽鬼に詰め寄る。
「おまえ、どこから来た? 何故、ここに居つく?」
幽鬼はうつむき加減であった顔を上げ、濁った沼のような
「…………」
幽鬼と思しき男は確かに声を発した。
ただし、何と言ったかわからない。
「えっと」
「……漢語だ」
吉平は再び舌を打ち、半ばにらむように行夜を見やる。
「おまえ、漢語はどうだ?」
「どうと言われましても……単語や簡単な
「はああ? おまえ、十一で漢詩を作った男に育てられたんだろ」
「親が
「触れてわかれば苦労はあるかっ。そもそも、俺は書なぞほとんど読まん!」
なんともみっともない責任の押し付け合いを繰り広げる両者に対し、幽鬼がさらに漢語で話しかけてくる。
「……っ。…………!」
幽鬼の語気がだんだんと荒くなっていく。だが、内容はさっぱりわからない。異国語という厚き壁の前に、行夜と吉平は立ち尽くす。
「要求はわかりませんが……さもなくば、こいつを殺すと
「勝手にしろと、言ってやれないのが残念だ」
「ちょっと待ってください。まさか、見殺しにしたりしませんよね?」
「さてな。親父に鬼を祓えとは言われたが、阿呆な法師を助けろとは聞いてない」
「吉平様!」
いっこうに話が通じない事態に苛立ちが頂点に達したか、幽鬼が
すると、貧相だった幽鬼の体がぐわりと
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