第二話 闇はあやなし-10
干からびた骸が江口で上がったのは五日前。江口に潜伏していた晴明の式神はその情報と共に、「怨霊を見た」と
まさに、事態を動かす大きな一報だった。件の怨霊は幾度も祟りを為したが、その姿を目にした者は誰もいない。煙のごとく消え
だが、半世紀近くを経て、ようやく怨霊の姿を
「江口の町衆は、死人が出たことを隠そうと躍起になっております。鵺の話が広く出回っているのは、隠れ
人外にとって、人は種族を
「痛ましいことだ……しかし、町衆が日々の糧を守ろうとするのは仕方がない。ひとたび噂になれば、たちまち客足は遠のく。風聞ってのはいつだって厄介だ」
少し前の三条の屋敷の一件を思い出しながら、道真は嘆息する。
悪いことを隠そうとするのは世の常だ。事情があれば
「俺の名を騙る怨霊は、かつて数々の災いを起こし、仕上げとばかりに清涼殿に巨大な
「件の怨霊が京に戻るのはわかっておった。そのための包囲網よ」
「それにしたって、京の入り口にあたる要所すべてに式神を配置するとはな」
噂は耳にしていたが、まさかここまで絶大な力の持ち主であったとは。安倍晴明という存在のすさまじさに、道真は
「そうまでしても、我は件の怨霊を
口調も表情も静かなことが、
「それにつけても、
晴明の
「有り難いお言葉……ですが、私は
睡蓮は切々と苦い胸の内を語る。
「まこと恐ろしき
「そのとき、姿を見たのだな?」
「はい。江口の水流に乗じ、なんとか追いつきました。ですが、あまりの力の前に為す
「敵の凶悪さを思えば、やむを得まい。姿を捉えられただけで上々としよう。して、件の怨霊はどんな姿をしておった?」
晴明の問いに、睡蓮は一拍の緊張を置いて、朱の唇を開いた。
「若い僧でした」
「僧……?」
問い返す道真の声はどこか
「ええ。見目だけは怨霊とは思えぬほど清らかで……途方もなく
道真は黙り込む。
その表情には困惑がありありと浮かび出ていた。
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