第二話 闇はあやなし-9
陰陽寮で幾度も居所を問われていた道真だが、では何処にいるかといえばここ、かねて示し合わせていた男と共に江口を訪れていた。
湾を臨む江口には水路が多数入り組んでいる。
連れの男に導かれ、道真が足を運んだのもそんな江口らしい建物、小舟で桟橋に
謡いや楽器で客の気を
「お待たせしました」
連れと並んで
現れたのは、妙にひんやりとした空気と磨き抜かれた
道真にすれば懐かしい装いの女は足音ひとつたてずに進み、膝をつく。滑るような仕草に添い、肩にまとった
「遅くなって、申し訳ありません。少しばかり客が立て込んでおりましたので」
「構わん。妓女として潜伏している以上、そちらの務めも大事だ」
連れの男が女に答える。
首元で束ねられた男の髪は
「滅相もありません。私は
女から恭しく名を呼ばれ、男――安倍晴明はうなずく。
これが噂の陰陽師だと聞けば、驚く者が多いに違いない。とにかく、その
「さて、早速だが話をはじめるとしよう。道真、この者は
晴明の言葉に応じ、睡蓮は道真に膝を向けると、改めて
「睡蓮と申します。以後、お見知りおきを」
「ああ、こちらこそよろしくな」
「睡蓮は水の精、いわゆる
「なるほど、それで足音がしないのか」
道真の言葉に、睡蓮が含むように笑う。
その際、睡蓮の口元から
行夜は
自分が陰陽師になりたいと言い出したから、道真が口利きのために晴明と
道真はずっと、己の名を
そして、京を
にもかかわらず、
京を逃げおおせた怨霊が鳴りを潜めてからも、晴明は何十年も
「国中を旅して回っている俺の
道真の話に、晴明はうなずく。
「鵺はともかく、干からびた骸はかつての祟りの際と同じだな。まず、件の怨霊の仕業とみていいだろう」
晴明の言う〈かつて〉とは、
各種の天変地異に続き、道真の
検非違使の調べによると、目立った傷がないにもかかわらず、骸はどれも血がそっくり抜かれていたという。検非違使たちも力を尽くしたようだが、結局すべて解決できなかった。
「自分の神域以外を
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