第二話 闇はあやなし-4
手古は不機嫌そうに
しかし、数歩進んだところで、手古は足を止めた。
「菅原道真っ。手古はおぬしの甘言に惑わされたりはしない! だがっ……鶯の弔いには感謝する。今後、庭の梅が咲いたら、菅原の屋敷に向かって手を合わす」
道真に返事をする間を与えず、手古は性急に言葉を継いでいく。
「これからも手古は修練に励み、父上のような立派な
背を向けたまま、手古は宵闇に向かって言い放つ。
それは道真というより、むしろ己に言い聞かせているように感じられた。
一方的な宣戦布告を終えると、手古は足早に去っていく。
暗中に消えていく
一応、官職に就いてはいるが、道真の現職は
官人即ち公卿と考えるあたりは、やはり藤原の御曹司の
「覚悟せよ、か」
実際のところ、成長すれば手古は出自と家柄で必ず朝廷の重職に就く。そのとき、自分はどんな立場にあり、何を志しているのか。
官職に就こうとも、己の本分は学者だ。常に学び、そしてそれを伝える。その原点を忘れたことはない。けれど、実際に
頭の中の理想など、
「明日、
今後、手古と自分の人生が交わることがあるのかどうか、それはわからない。だが、それでも幼き日に負けぬと誓った相手が、こんなつまらないものだったのか、などとがっかりされたくない。
道真は決意を確かめるように懐中に触れ、
そろそろ、宴もお開きになる頃合いだ。
これより二十年のち、時平となった手古と道真は左右の大臣として朝廷に並び立つ。
そして、時平によって道真は大宰府に追いやられ、非業の死を遂げる。
先に待ち受ける運命など知る由もないまま、道真は梅の香満ちる庭をあとにした。
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