第二話 闇はあやなし-1
菅原道真が藤原時平とはじめて出会ったのは
当時、まだ人として生きていた道真は、朝廷の第一人者である藤原
様々な頼み事に交えて、基経はしばしば道真を私的な
その日、大きく造り変えた庭の披露に招かれ、道真は基経の屋敷に足を運んだ。
普段は
一通り見物が済めば、お決まりのように次は酒宴となる。酒が進み、皆が酔っ払ってきたことを確かめると、道真はこっそり抜け出し、梅園へ足を運んだ。
想像通り、
道真はうっとりと息を吐き、
頭の中で一句、二句と漢詩を
しばし、道真は星のように輝く梅花を夢中で眺め回っていたが、ひときわ大きな紅梅にふと目を留めた。
木の根元で、何かがごそごそと動いている。紛れ込んだ野犬か、それともまさか
注意深く眺めるうちに、それが童であるのが見えてきた。危険な存在ではなかったことに
「そこで何をしている?」
優しく問いかけたつもりであったが、童は大いに驚いたらしい。慌ててこちらをふり仰ぎ、立ち上がる。その際、童が懐中に何かを隠したが、道真はあえてそこには触れず、ゆっくりと近づいていった。
「篝火があるとはいえ、暗くなってから庭に出るのは危ないぞ。万が一、池に落ちたりすれば一大事だ」
距離を詰めるごとに細かなところが見えてくる。まだ
「俺は菅原道真と申す。今宵、基経様の宴に招かれ、ここに参った」
道真は童の前で立ち止まると、その場に
「基経様の子息とお見受けするが?」
童は半ばにらみつけるように道真を見返していたが、やがてうなずく。
「藤原基経が嫡男、
「手古……ああ、お父上と同じ幼名だな」
基経から聞いた話の中に、そんなくだりがあったことを思い出しながら、道真は手古に笑いかける。
「では、手古殿。ひとりでおるにはそれなりに事情もあるのだろうが、先も言ったように夜の庭は危険だ。せめて誰か供を――」
「……菅原道真。その名、父上から何度も聞いておる。学識に
手古は道真の言葉を遮り、強い口調で話し出す。
いきなりのことに瞬く道真を
「父上はいつもおっしゃる。どれほど努めたところで、おまえは精々人並み、道真のように才知で他を圧倒できる器ではない、と」
思いも寄らない言葉を投げつけられて、道真はただただ驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます