第一話 目にはさやかに見えねども-18
行夜は三条の屋敷を辞すと、足早に陰陽寮に戻り、立て
古びた箱や調度類が山と積まれた物置部屋に座り込み、行夜は真剣な面持ちで方形の盤上に並べた木札と向き合う。
陰陽寮で用いられているものとはまるで違う。道真が手ずから作ってくれた、行夜だけの特別な
料紙の中には花野の髪が入っている。
じっと意識を凝らし、行夜は伏せて置いた木札の一枚を返す。
だが、意気込みも
「くそっ……!」
行夜は舌を打ち、少々荒っぽい手つきで木札を盤の上に伏せる。
これでもう八度目の失敗だ。失意にまみれながら行夜は床の上に
格子窓の隙間から
室内は空よりさらに暗いが、人外の力のおかげで行夜は大層夜目が利く。そのため、このままでも不自由はないが、木札をつぶさに確認するにはやはり
他の目があれば
すると、ボッと
呪いに等しく魂に刻まれ、一時は心底憎んだ力だが、こういう時は便利なものだ。行夜は
二の腕の上部をぐるりと巡る、
鬼火で道真を傷つけてしまったあの日、行夜は泣きに泣いた。
悲しみは次第に己に対する怒りに変わり、そして程なく両親へ移っていった。
怨嗟を継がせると知りながら、どうして両親は自分を産んだりしたのか。こんな呪いを一生背負うくらいなら、いっそ生まれてこなければ良かった。
過去に思いを巡らしながら、行夜はしばし刻印を眺めていたが、やがて視線を外すと、寝転がったままの姿勢で右手を伸ばし、木札の一枚を取る。
十年近く使い込んでいるため、角が
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