第一話 目にはさやかに見えねども-16
人を装う道真に手を引かれながら、行夜はおっかなびっくり新しい世界を眺めた。
はじめのうちは、静かな神域とはまるで異なる、
次はどんな〈新しい〉が待ち受けているのか。そんな風に期待ばかりを感じるようになっていたある日、道真は遊ぶ童たちに声をかけ、行夜も加えてくれと頼んだ。
これまで遠くから眺めることはあっても、外の者たちと関わるどころか、
あっちこっちと引っ張り回され、はじめは目が回る思いだったが、次第に慣れて楽しめるようになった。はしゃぐ行夜の姿に、少し離れた場所で見守っていた道真も大層
子たちのひとりから、「あれはおまえの父ちゃんか?」と聞かれたことが発端だった。
行夜はどう答えたものかと迷ったが、とりあえずうなずいた。すると、その子は目を丸くして、あんな風にぶらぶらして、働いていないのかと問うてきた。
行夜は返答に窮した。道真の仕事をどう話せばいいのか。ぐずぐずと戸惑う様子に子供たちのからかいの虫がうずいたらしい。次々にあれやこれやと騒ぎはじめた。
なんだ、のらくら者か。じゃあ、こいつはのらくら者の
自分が馬鹿にされるのも
やめろ、黙れ、取り消せ……次第に頭の中が白くなっていき、中心に
自覚などなかった。右腕が熱い、そう感じた瞬間。
道真の声が耳を突き、うしろから抱え込まれ――……そのあとのことは、何年経とうが決して後悔が消えることのない、忌まわしき思い出だ。
「……私が力を使ったら」
行夜は恐々と木片をにぎり、屋敷を囲むように広がる野原に目をやる。
日に日に秋が深まっていく。
道真の神域には人の世の多くが写し取られている。鳥獣が住む山野、魚が泳ぐ川、虫がさざめく草原。一帯にはちゃんと四季があり、寒暖の移ろいに従って折々の花や野草が順繰りに咲き乱れる。
梅に桜、
神域の環境は主神の気分次第でいくらでも変えられる。過ごしやすい時節に
元が人間だけに、そうでなければ落ち着かないというのもあるだろう。風雅を好む性格も一因に違いない。だが、一番は自分のためであることを行夜は承知している。
半人半鬼、半端者の養い子が人間たちと交わって生きていけるように、道真は心を砕いてくれている。咲いては枯れ、また芽吹く木々や草花は道真の思い遣やりの表れなのだ。
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