第一話 目にはさやかに見えねども-15
「本来、あの程度の物の怪に
道真は手を伸ばすと、行夜の胸を指先で突く。
「想いは心の血肉だ。花野殿にとって、櫛はすべてを懸けた恋心そのものなんだろうよ。そこまでの深手には
「櫛の必要性はわかりましたが……それでも、明日までに見つけ出すなんて。いくらなんでも無茶が過ぎます」
「は? 何を言っている? まさか、おまえ。櫛の在り処がわかっていないのか?」
「えっ……」
仰天する行夜の表情から確信を得たのか、道真はにんまりと笑う。
「へえー、ほうほう。そうかそうか。行夜はわかっていないのか。まあ、背丈が大きくなったところで中身はまだまだ子供だもんなあ。やむなしやむなし」
ばんばんと行夜の肩を
最近なにかと反抗的になってきた義子を、久方ぶりに完全保護下に置けそうな事態がうれしくて
「なになに。心配は要らないぞ。俺がちゃんと面倒をみて――」
「結構です! 道真殿の助けは受けません!」
行夜は道真の手をはらいのけ、キッと目を
「この件、私がひとりで解決してみせます。そのかわり、明日の
ぽかんと口を開け、道真はいきり立つ行夜を眺める。
騒ぐ声を
「あの、どうかされまして……?」
「いやいや、どうもこうも――」
「何も問題ありません。夕星殿、
一方的ながら、行夜は戦いの火ぶたを切って落とす。
絶対に見つけてやると胸の内で息巻きながら、行夜は常に懐中に忍ばせている木札の束をにぎり締める。この木札を使った占いは行夜の特技のひとつで、
ひとりで成し遂げてみせる。もはや、行夜の頭の中にはこの一念しかなかった。
**********
行夜がはじめて件の木札を手にしたのは数えで七つだった頃のこと。
鬼王丸という、母方の祖父譲りだという幼名で呼ばれていた行夜は失意のどん底にあった。
何も見たくない、聞きたくない。何処にも行きたくない、誰とも会いたくない。心の中で幾度となく繰り返しながら、行夜は部屋の隅で
そんなある日。新しい
「……どうやって遊ぶのですか?」
方形の盤に置かれた木札の一枚を手に取り、裏に表に返しながら行夜は尋ねる。薄い木札は表も裏も削り出したままで、波紋に似た木目以外に絵も文字もない。
「ただの木片に見えるだろ。でもな、そうじゃない。これにはな、俺の神力がこめられている」
「
「ああ。だから、俺が神力で呼びかければ、木札は答えてくれる。たとえばそうだな……鬼王丸が一番好きな花は何か?」
問いかけながら、道真は木札の一枚に触れる。
ほんの一瞬、札が
「竜胆。どうだ? 当たっているか?」
道真に問いかけられ、行夜は興奮気味に何度もうなずく。
「はい! すごいです!」
「そうかそうか。じゃあ、鬼王丸もやってみろ」
喜びから一転。道真から木札を渡され、行夜は戸惑う。
行夜は鬼火を
成長していくにつれ、行夜は徐々に力を制御できるようになっていった。闇雲に鬼火を熾すことがほぼなくなると、道真は散歩と称して行夜を神域の外、人の世にちょくちょく連れ出すようになっていった。
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