第一話 目にはさやかに見えねども-12
「それにつけても、吉昌様は何に
夕星の声は朗らかで、未練や虚勢といった湿り気は
何とも言えない気持ちで、行夜は黙りこくる。
経験がないため共感はまるでわかないが、それでも吉昌に同情めいた
「吉昌様の
夕星は立ち上がると、軽やかに袿の裾を翻す。
「詳しい話は奥で。ご案内いたします」
しゃなりと涼やかな
「な? 女人は一筋縄ではいかんだろう?」
「……そのようで」
行夜と道真はそろって立ち上がり、夕星のあとに続いた。
夕星に誘われるまま簀子縁を渡り、行夜たちは殿舎の奥へ踏み入った。
元より気が張っていたが、一歩、二歩と進むうちに、行夜の心身はさらなる緊張に尖とがりはじめていく。
奥の暗がりから、異様な気配が漂ってくる。
決して強くはない。けれど、足を運ぶごとに
行夜がそっと
間違いない。この屋敷には物の怪がいる。行夜が確信を抱く中、夕星は角の|御
「さ、こちらに」
促され、道真と行夜は身を
じんわりと、物の怪の気配が増したが、やはり弱い。
だが、油断は禁物。きゅっと、行夜は
踏み入った
火のない高灯台、
そして、もうひとり。奥に敷かれた
「よくおいでくださいました」
老女が一言、愛想のない声音で告げてくる。
じっと注がれてくる視線もまた冷たい。得体の知れない来訪者に対する
「
「筑紫様。こちらが陰陽寮よりお越しの道真様と行夜様です」
道真と行夜は入ってすぐの床に並んで座り、頭を下げる。
しばらく、筑紫は無言で男たちを眺めていたが、やがて苦々しい息を吐く。
「率直に申し上げます。このたびやむなく、あなた方を殿舎に招き入れることを、私は快くは思っておりません。なれど、三条の上様のご意志であるが故、心ならずも許しを与えました」
「筑紫様、それは――」
「おだまり。そなたは控えておれ」
にべもなく夕星を制し、筑紫は横たわる女人に目をやる。
倣って、行夜もそちらに目を向ける。
二十歳をいくつか過ごしたくらいだろうか。若干やつれてはいるものの、整った容姿をしていた。
「この者の名は
筑紫の声を聞きながら、行夜は
別に、不思議なことではない。
人の世に
しかし、力を持つ行夜には
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