第一話 目にはさやかに見えねども-11
屋敷は小さくも
おとないを入れると、ほどなく
女にしては身の丈が高いが、黒髪が添う首はほっそりとなまめかしい。藤の花を思わせる美女は
しかし、すぐさま何事もなかったようにほほえんだ。
「どうしましょう。陰陽寮の方と聞いたので、てっきり吉昌様かと」
困ったわ、などとささやきながらも、美女は
「お初にお目にかかります。私は三条の上様にお仕えする女房、
夕星は慎ましく手をつき、頭を下げる。
このような場に
一方で
「俺のことは道真と呼んでくだされ。どうか、以後お見知りおきを。さて、本日は吉昌殿の名代で参上しました。吉昌殿より預かった文がございますので、まずはそちらをお確かめください」
道真の言葉に、行夜はやや慌てながら夕星に
「拝見いたします」
夕星はにこりと笑むと、枝を取り、解いた文をするすると広げる。
しばし、夕星は文を目で追っていたが、読み終えると同時に苦笑をこぼした。
「吉昌様ときたら。本当に困った御方だこと」
夕星は独りごちると、道真と行夜に視線を戻す。
「此度のこと、おふたりにはとんだ災難であったかと。まずはお
「災難など、滅相もない。夕星殿という天女と
道真の軽々しい物言いに、行夜が苦々しく口を曲げる。
一方で、夕星は
「天女などと、お世辞でも
「いやいや、真実を口にしたまで」
「嬉しいこと。ですが、私などより、お連れ様の方が余程お可愛らしい」
夕星から
何と答えるか以前に、何を言われているのか理解ができず、行夜はひたすらたじろぐしかなかった。
「檜垣行夜様、ですわね。吉昌様の文に、大層優秀な学生でいらっしゃると書いてありましたわ。
夕星にそんなつもりはないだろうが、行夜にすればそのひと言は追い打ちに等しい。
適当な代理を寄越したと、夕星の不興を買いたくなかったのだろう。吉昌の保身のための盛大な空追従に行夜はいっそう顔を引きつらせる。
しかし、困惑する行夜を
「そうでしょうそうでしょう。いや、育ての親の身で言うのもなんですが、行夜は容色に優れているだけでなく、なかなかに結構な才もありまして」
「道真様が行夜様を? 驚きですわ、それほどお歳が離れているようには見えませんのに」
「そこは諸事情がありまして。ですが、偽りなく行夜は俺が育てました。
「まあ、そこまで細やかなお世話を」
「幼き頃は泣き虫かつ甘えん坊で、それはもう愛らしい限りでした。大きくなってからはこのように突っ張ってばかりおりますが、これはこれでまた別の可愛げが――」
「道真殿! 関係ない話はやめてください!」
「道真様といい吉昌様といい、行夜様は愛されていらっしゃるのね」
「ですから、そういう訳ではなくっ……」
「まわりの愛情とご自身の才能をお疑いになるものではないわ。お会いして間もないとはいえ、道真様が誠実な方というのはわかります。吉昌様も手の施しようのないほどお
「……はあ」
夕星の取り成しに、行夜は不承不承ながらもうなずく。割合に
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