第一話 目にはさやかに見えねども-9
講師役も務める陰陽得業生ともなれば、小さいながらも自室が与えられる。
渡殿にある吉昌の部屋は文台に
「お、ホントに美味いな」
吉昌の親切には大抵裏がある。何事か
「でしょう。ほら、行夜も食べるがいい」
「……結構です。腹が減っておりませんので」
努めて目を
楊梅の実は少し酸味があるものの、
吉昌が自慢するだけあって、器に盛られた赤い干楊梅の実は
「行夜。ここまできたら
「わかっておいでなら、最初から誘いに乗らないでくださいっ」
「こいつは仮にもおまえの上役だ。恩を売って損はない」
「そんな
「……本人を前に、それだけ言ってのける方も結構な肚だと思うが?」
吉昌は底が読めない笑みを浮かべたまま、干楊梅を一粒つまむと、向かいに座る行夜の口に押し込める。
「へぐっ……!」
「余計なことは言わぬが花。それにしても、ほとほと惜しい。肚の具合も顔と同じ様だったらば。さぞ
目を白黒させる行夜の前で、吉昌はゆったりと口元をほころばす。なんとも美しいほほえみだが、裏側を知っている者には空恐ろしく映るばかりだ。
吉昌は
名高き陰陽師である晴明の子息であることも
「おい、吉昌。行夜をいじめるなら帰るぞ」
「大甘な義父殿にかわり、世渡りを教えてやっているだけですよ。さりとて、道真殿に
吉昌の語るところによれば、その知り合いというのは
行夜はげんなりと息を吐く。
吉昌の恋模様は容姿と同様に華やかで、学生たちの間でも
「失せ物以外にも、奇怪な点がいくつかあり、もしかしたら物の
「だから、かわりに行けって?」
道真は問いかけついでに新たな干楊梅を口に放り込む。余程腹が減っているのか、一向に食べる手を止めようとしない。
「先にも言った通り、いまはなかなか多忙なのですよ。それに私の得手は天文道。兄とは違って、
陰陽と天文、両道で無双を誇る父の才を二分して生まれてきた。
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