第一話 目にはさやかに見えねども-1
ひとたび港に
夜こそ
目立たないようにしているが、髪の結い方や身なりを
風向きの加減か、時折は管弦の音や
しかも、
水郷である江口には川が幾つも入り組んでおり、この小路の脇にもせせらぎが流
れている。娘は流水の音を追うように進み、川をまたぐ簡素な橋を渡る。
すると、闇の向こうに何か見つけたのか、どこかぼんやりとしていた娘の顔が明るい歓喜に輝いた。
「お坊様っ……」
娘の声と視線の先に立っていたのは僧形の若い男。
何故、このような時刻、場所に僧がいるのか。奇妙ではあるが、娘は
「お約束通り、参りました。さあ、どうか私を
娘は青年僧の足下に伏し、かたわらに松明を置くと、両手を合わせる。
青年僧は無言のまま、娘を見下ろす。
端整な顔に浮かぶ表情は穏やかで、
しばしの沈黙を置いて、青年僧は微笑すると、おもむろに地面に膝をつく。
そして、白い両手を伸ばし、うつむく娘の
「よくぞ申した。これより我らは一心同体。共に世の穢れを
「ええ、ええっ……何処までも共にっ」
娘は陶然とした表情で青年僧を見つめる。その
娘の信頼に応えるように、青年僧がにこりと笑みを深める。
だが、次の瞬間、澄み切っていた目が深紅に濁り、清廉な笑みが
「ひっ、がっ……!」
突如として様変わりした青年僧の形相を恐れる暇もないまま、娘は全身を引きつらせ、呻き声を上げる。
陸に
まさに死に物狂いの
しかし、抵抗もそこまで。あれほど
そこに至ってようやく、青年僧が手を放す。
見るも無惨な姿になった娘は音もなく地面に崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます