外伝 夢を喰らう少女と夢を失った少年 終の話 幸せが壊れる音
ある日の夜…アタシは鏡の前で私自身を見ていた。理由は一つ…
「アタシはアレンの許嫁として相応しいのかしら…?」
そう、数ヶ月前に許嫁宣言をしたけど…アレンと生活を重ねていくうちに自分自身に対する自信がなくなっていった。でも、可愛い耳と大きくて可愛い尻尾があるから大丈夫よね…?……って言ったら嘘になるわね?正直今のアタシには「エロい」以外に取り得がない。だからアレンが今のアタシを見ても「エロくて可愛い女の子」としか見られないわね?……はぁ…女として魅力を上げなくてはいけないわね…しかし、アタシはまだあのセリフを忘れていない。そう、初めて会った時にアレンが放った…「アンタに殺してもらう為だよ!」と言う台詞だ。あの時のアレンは正直可哀想過ぎて放ってはおけなかった…でも、時々こう思うのよね…アレンがこの森に来た目的が「殺される為」じゃなくて「アタシを娶りに来た為」だったら良かったのに…前からもそうだけど、時々こうして口に出てしまうのよね…
「アレンがこの森に来た理由が「死ぬ為」じゃなくて「アタシを娶りに来た為」だったら良かったのに…」
「じゃあ、そうするか?」
「にゃあぁぁぁーっ!?」
聞かれた聞かれたぁー!?一番聞かれたらマズい奴に聞かれちゃったぁー!?か、勘違いをされない為にも弁明を…!
「ち、違うのよ…」
「いや、もう許嫁宣言してるのに今更なに恥ずかしがっているんだ?」
「そ、そうだけど!……でも、アタシは皆から忌み嫌われる者…アンタみたいな善人と結ばれて良いはずがないわ…」
「俺も忌み嫌われる者だけど?」
「で…でもアタシ…自信がないの…」
「なんで自信がないんだ?」
「アタシは…アレンに甘えてばかり…だから、アレンを支える相棒にはなれな…」
アタシがそう弱音を吐いていると、アレンがアタシの手を取ってこう語り掛けてくれた。
「甘えてばかりでも良い…自信がなくても良い…それがお前だろう?」
「え…?」
「それに、俺はお前としか結婚する気がないからな?他の人間と結婚するのは少し怖い…ほら、俺だって他の人間と関わる自信がないんだ、だから気にするな…どんな壁も二人で越えようじゃないか!それに、俺は何があってもお前の味方だ、がっはっはっはっ…!」
アタシはその言葉を聞いて感動が抑えられず、アレンに抱き付いて口付けした。
「んんっ…♡」
「ングゥッ!?よしよし…」
アタシはそのままアレンをベッドに押し倒して、身包みを剥がしてアレンを襲った。
「ど…どうした?いつもより発情の様子が激しいな…んっ!?」
「アタシの事を結婚対象として見てくれた…運命の人なんだもん…んんっ…だから、アレンだけに見せる…アタシの特別な本性よ…覚悟してね…?」
「あ…あぁ……どんとこい!」
その日の夜はずっとアレンを満足するまで愛し尽くした。例え気持ち良過ぎてアレンが止めてと言っても、アレンが痙攣しても、アタシは愛する事を止めなかった。だって、アレンはアタシの唯一の…許嫁だもん!
そんな感じで一週間に3回程アレンを襲う生活を続けて一ヶ月の時が流れた。今日はお預けの日、ムラムラやウズウズを抑えながらその日の夜を過ごしていた。
「したいけど我慢…我慢我慢我慢…!!」
でも、明日にはまた出せるから良しとして…
「(作者)いや気持ち悪過ぎるんですけどぉー!?恐らく初だよ、こんなに気持ち悪い思考回路を持ち合わせているキャラはぁー!!」
けど、一つ気になる事があるとしたら…森の様子がいつもと違う…動物達がいつもより騒がしいみたい…気になるわね、そう思ったアタシはその場所へと向かった。
その場へ向かったアタシを待ち受けていたのは、凄惨な虐殺だった。
「え…?何で動物達を殺すの?」
「あぁん、お前が『獰猛たる夢喰い』か?〈獣仁志・破壊神〉様の名に懸けてお前を討伐しに来た!」
「と…討伐…?」
「ミネラルア、下がれ!」
アタシが呆然としていると、アレンがアタシを庇って賊達と交戦した。
「…チッ、んだよあんちゃん?」
「俺等の邪魔をすんのか?」
「当たり前だ…この森の動物達を殺した事も許せねぇが、俺の婚約者に刃を向けた事は…もっと許せねぇんだよ!」
「アレン!」
「大丈夫だミネラルア、俺はお前の許嫁、ここで死ぬ訳がねぇよ!」
すると、その台詞を聞いた賊達が笑い出す。
「あひゃひぁひゃ…お前正気かぁ?」
「この化け物の婚約者ぁ?冗談はよしてくれよ、なぁ?」
「冗談…だと?」
「そうさ、コイツは人の夢を喰らう事しか出来ねぇ無能だ!」
「そうだ、存在しているだけでも有害な害獣…殺すのは正当行為だろうが!」
「人の夢を喰らう事しか出来ない…?存在しているだけでも有害な害獣…?」
「「死ねぇー!!」」
台詞を言おうとするアレンに賊達は刃を向けて襲い掛かった。しかし、アレンはその行動を先読みしていたみたいだ。全員の攻撃を回避し、そして、台詞を吐き捨てて首を刎ねた。
「それは何も知らねぇお前等の感想だろうが…コイツが夢しか喰らわなくなったのも、害獣扱いされたのも…お前等みたいな人の事を考えない人間が生み出した産物に過ぎねぇだろうが?それを…自らを正当化して、偽善を気取って殺すなんて…これだから人間は嫌いなんだよ…」
アタシはアレンの元へと走ろうとした…けど、それは叶わなかった。何故なら…アレンの目の前に現れたのは…
「いやいやぁ~…困りますぜ?僕っちの仲間を皆殺しにするなんてぇ…それでも人間なんですかい?」
「あぁん、誰だアンタは?」
だ…誰なのかは分からないけど、物凄いオーラを感じる…ただの戦士ではないのかは確定ね?
「僕っちはノーレル・ノクターン、これでも一応〈獣仁志・破壊神〉の名を持つ戦士ですぜ?」
じ…〈獣仁志〉!?あの伝説の〈獣仁志〉が何でこんな所に!?
「〈獣仁志・破壊神〉ねぇ…俺は生まれた頃から憎まれてばかりだったからその名前を告白されてもさっぱり分からん…」
「そうですかい…あ、一つ忠告しておきますぜ?」
「何だ?」
「大人しく『獰猛たる夢喰い』を差し出せ、さもないと君も殺しまっせ?」
「あぁん、俺を殺す?言っとくが、俺はもうただの人間は卒業済みなんだよ!」
アレンはそう言うと、〈獣仁志・破壊神〉に攻撃を仕掛けた。
「へぇ…僕っちが〈獣仁志・破壊神〉であるのに怯まないとは…後悔しても知らないっすよ!」
「後悔するのはてめぇだ!!この下種野郎!」
アレンと〈獣仁志・破壊神〉の激しい戦いが続く。それはアタシの目でも全く追い付けない代物だった。アレンの奴、いつの間にあんな力を手に入れたの…?
「へぇ…僕っちの完全魔法を全て防ぐとは…」
「下種の魔法なんかこの俺には通用しない、そして、お前はここで殺す!」
その時、一瞬姿が見えたアレンにアタシはこう叫んだ。
「アレーン!!」
「んっ!?」
「アタシが『獰猛たる夢喰い』になったのは〈獣仁志〉のせいなの!〈獣仁志〉に奪われ続けたから、アタシはあんな人生を送るしかなかったの!」
「ミネラルア…」
すると、アタシの叫びに気付いた〈獣仁志・破壊神〉が笑いながらこう言い放った。
「そうですぜ…その子は忌み嫌われる為に生まれたんですぜ?だからそれ相応の待遇をしてあげただけですぜ?それの何が悪いんですかい?」
「何だと…この野郎…?」
その時、アレンのオーラが一気に大きくなった。それはまるで、アタシの受けた責め苦を許せない代物だった。
「さぁ、そんな事はどうでも良いんですぜ…戦いの続きと行きましょうぜ?」
「そんな事はどうでも良いだと…この害獣が…!」
今の彼ならアイツを殺せる…アタシはそう直感して戦うアレンにこう叫んだ。
「アタシの許嫁なら何でも言う事を聞いてくれるんでしょ!だったら、最初のお願いよ!」
「なんだ?」
「ソイツを…いいや、〈獣仁志〉を一人残らず殺して!」
「了解…可愛い許嫁のお願いだ…最初の約束として認定するぜ…行くぜ、害獣駆除!」
そう言うと、また目で追えない速さでアレンと〈獣仁志・破壊神〉が戦闘を始めた。お願い…アイツを倒してアタシを守って…!
(アレンの左眼が潰れる)
「ぐぅぅっ…!?」
「あはははは!!」
「調子に乗るんじゃねぇよ…下種代表が!!」
(アレン、ノーレルの両腕を切断する)
「よし…これで攻撃が収ま…!?」
アレンは確かに〈獣仁志・破壊神〉の両腕を斬り飛ばした…でも、奴の両腕は即座に再生した!
「どうしたんですかい?もしかして、僕っちの腕を斬ったら再生しないとでも思ったんですかい?」
「何だと…!?」
「隙ありぃぃ!!」
アレンが動揺している隙に〈獣仁志・破壊神〉はアレンの右脚を斬り飛ばした。
「ぐぅぅっ…!?」
「もう…戦局は決まった…さぁ、最期の言葉を聞いてあげますぜ?」
「フッ…油断したな、下種が!」
そう言うと、アレンの体が赤い光で包まれた。まさか、「超級魔法」!?
「最後の悪足掻きですかい…面白い、受けてみせますぜ?」
「その言葉…後悔させてやる!!」
アレンは左脚だけで〈獣仁志・破壊神〉に突っ込んだ。そして、両腕にありったけの力を籠める!!
「『オリジナル構築魔法・炎の息吹・究極奥義・終の技〈灯火【ともしび】〉』!!」
「あはははははは!!」
次の瞬間、二人の攻撃により周囲が大爆発に包まれた。
「アレーン!!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」
暫く砂埃のせいでアレンの姿が見えなかった。しかし、暫くするとアレンの姿が見えてきた。アタシはアレンが勝つ事を期待していたけど…現実は甘くはなかった。アタシの目に入って来たのは─
(アレン、ノーレルに腹を貫かれる)
「がはぁぁっ…!?」
「僕っちの勝ちですぜ…さぁ、後は貴方を殺す…」
アレンを蹴り飛ばして〈獣仁志・破壊神〉はアタシを殺さんと近付いて来た。しかし、ここで思わぬ助っ人が入る。
(森の動物達、ノーレルに襲い掛かる)
「皆!?」
「何ですかい…鬱陶しい…消えろ!」
(森の動物達、ノーレルに殺される)
「あぁ…!?」
「さぁ、これで邪魔者は居なくなった…」
「ありがとうな…皆!」
次の瞬間、全身から血を流すアレンが〈獣仁志・破壊神」の右脚を斬り飛ばした後に、奴の首に刃を当てた。
「なにっ…!?何故動けるんですかい!?」
「人間…舐めるなよぉ…はぁぁぁぁ!!」
少しずつ〈獣仁志・破壊神〉の首がアレンの剣によって斬られていく…しかし、奴も黙って斬られる訳ではない…アレンに反撃せんとする…しかし─
(ノーレル、アレンを魔法で攻撃する)
(アレン、その攻撃をノーダメージで受ける)
『何ですって…!?僕っちの攻撃をノーダメージで受けきった…だと!?内臓を貫通されている体で何故こんな動きが出来る…!?』
『諦めるものか・・・!!』
『早くコイツを殺さなければ…はっ!?朝日が見え始めている…つまり、ミリアが現れる…!逃げないとまずいですぜ…って!?』
(アレン、ノーレルを束縛魔法で身動き不能にする)
『束縛魔法…!?この少年、こんな深手で剣で首を斬りながら魔法を使うなんて…いやいや、感心している場合じゃないですぜ!早く逃げなくては…逃げなくては…!!』
『死んでも逃がさない!ここで相討ちにしてくれるわ!!』
「邪魔ですよ!雑魚の分際で僕っちの邪魔をするんじゃない!」
「誰が雑魚だって…今その雑魚に殺されようとしているというのに…勘違いも甚だしいぞ、下種が!!」
「いきがるのも大概にしろぉー!」
「ぬぅおぉぉぉぉー!!」
アタシは瞬時に気付いた。ここでアタシが動かなければアレンは確実に死ぬ!脳が命令を出す前にアタシの体は動いていた。
「アレェーン!!」
しかし、アタシがアレンの元に辿り着く前に〈獣仁志・破壊神〉はアレンから離れた。しかも、束縛魔法から無理矢理逃れたせいで衣服がズタズタだ。
「待てぇーっ!!」
『今回は殺しきれませんでしたが、次は必ず殺しに来ますからね…「獰猛たる夢喰い」!』
次の瞬間、〈獣仁志・破壊神〉の姿は消えてしまっていた。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…うぅっ…!?」
「アレン!?」
アタシは力尽きたアレンを抱き抱えた。もしかしたらまだ死なないかもしれない、そう思って手当てをしようとしたが─
(アレンの胸部から血が溢れ出す)
「ごぱあぁぁっ!?」
「アレン!?」
「……………ミネラルア…どうやら俺は…死ぬ…みたい…だな?」
「そんな事言わないで…もっとアタシを甘やかしてよ…?」
「最期に謝らないといけない事がある…」
「何…?」
「さっき…『〈獣仁志〉を一人残らず殺して』と約束したよな…?」
「……うん…」
「ゴメンな…約束…守れなかった……ゴフッ…!?」
「良いのよ…そんな約束…そんな事より…」
「そんな事より…か。でもな…」
すると、アレンはアタシの肩を軽く叩いて最後の力を振り絞ってこうアタシに喋った。
「どんな当たり前の約束でも…俺にとっては…大事で大切なものなんだ…俺に生き甲斐をくれたお前の頼み事は特にそう思っている…そして、最後に俺を助けようと走ってくれたよな…」
「うん…」
「嬉しかったよ…こんな俺を…」
アレンは本当はもっと生きたかったのか、泣きながら言葉を続けた。
「嫌悪される俺を…助けようとしてくれて…ありがとうな、ミネラルア…!」
「良いのよ、だから…ここで死なないで…アタシの許嫁なんでしょ、だったら…はっ!?」
アタシがその台詞を言いきる前にアレンは事切れていた。そして、彼の閉じた目から最後の涙が零れた。
(ミネラルア、アレンの体を抱き締める)
「馬鹿…最後まで言わせなさいよ…」
この日、アタシは運命の許嫁を失った…
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
─ 一年後 ─
「アレン…これから外の世界に一緒に行くわよ…楽しみね?」
アタシは小瓶に入れたアレンの遺骨をバッグに入れて長年暮らした家を離れた。アレン…アンタがアタシにくれた勇気、希望…全部、全部。アンタのお陰よ…アンタがアタシに色々教えてくれたから…アタシは外の世界に行く覚悟が出来た!
「さぁ、新生活の…始まりよ!」
この出来事から数日である王都で5人目のS級冒険者が誕生したと云われている。その冒険者は、栗鼠の耳と尻尾を有しており、首には謎の小瓶を掛けているという。
─ 完 ─
獣仁志 かつらぎ未来人 @enomotorizu
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