外伝 夢を喰らう少女と夢を失った少年 第二話 新生活と愛の告白(失敗)

アタシがアレンと生活を共にして2ヶ月が経った。アタシはアレンに色々尽くしているけど、そのアレンはというと…


(アレン、物陰に隠れてミネラルアを見ている)


こんな感じである。はぁ…お姉さんがこんなに面倒を見てやっているというのに、あんなに警戒されては…いや、仕方ないか…彼が今まで受けてきた仕打ちを考えればこの展開は妥当か…でも、やっぱり我慢出来ない!


(ミネラルア、アレンに飛び付く)




「ひぃぃっ!?」


「にゃーん♡」


「こうなるから嫌だったんだよ!」




(アレン、ミネラルアの飛び付きを回避する)




「な…何で避けるの?」


「そりゃ毎日何時間も抱き付かれていれば嫌でも避けたくなるわ、節度と言うものを弁えろ!」


「えぇ…?アタシの事…嫌い(泣)?」


「可愛子振ったって今日はハグ禁止、昨日15時間もハグしたじゃん?」


「たった15時間じゃ~ん?」


「いや、一日の62.5%が抱擁で埋め尽くされたんだよ?その分鍛錬の時間を充てられたはずだし、俺…他人に抱き付かれるの苦手だし…」


「でも……………やっぱり我慢出来なぁ~い!」




(ミネラルア、アレンに抱き付く)




「はぁ~ん♡」


「…………まぁ、コイツが落ち着いてくれればこれで良いか…」


『いや良くないんですけどぉー!?童貞代表の俺からしたら怒髪天を突き抜ける程に妬ましいんですけどぉー!?てか、また昼間だよね?何でミネラルアはこんなに発情してる訳!?……………まぁ、良いか。最後にはあんなバッドエンドを迎える訳だし…』




という訳で、今日も愛しのアレンに抱き付きながら一日を終わりました。




 今日という今日もアレンを抱擁するだけで終わらせようとしたけど、今日はアレンに根負けした。




「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」


「ふーん…アタシを守れる存在になる為に鍛錬するとは…」




アレンは一日中大きな岩に拳をぶつけていた。見るだけで手が痛くなりそうね?でも、アレンの手は真っ赤に染まる事はなかった。




「ねぇ、アレン?」


「何だ?」


「その岩…見るからにゴツゴツしてるけど、普通それを殴ったら手から血が溢れ出て来るはずよ?何でアンタの手は殴る前のままなのよ?」


「あぁ、俺の固有スキル『根気』の賜物さ?」


「『固有スキル』…?ナニソレ?」


「あぁ…簡単に言うと、そいつが生まれた時から持っている『能力』だよ?たぶんミネラルアにも一つ以上『固有スキル』があるはずだぜ?」


「へぇー…そうか、『固有スキル』…か」




この世界にはまだアタシが知らない事がたくさんあるのね…いいや、アタシはこの森に留まっているから何も知らないのは仕方がないか…そんなアタシにアレンはたくさんの知識を教えてくれた。人との関わり方やコミュニケーションの取り方、この島の歴史に「固有スキル」の事…まだ出会って数日しか経ってないけど、この数日でアレンはアタシにたくさんのプレゼントを渡してくれた。お陰様で毎日が楽しいわ…ありがとうね、アレン…


(ミネラルア、アレンを後ろから抱擁する)


でも、アレンの放つこの良い匂いは何回嗅いでも癖になるわね…でも、一つ文句は言いたいわね…アタシが勝手に許嫁に成れと言ったけど、きっとアレンはアタシの事を恋愛対象として見ていない…出来損ないの自分を受け入れてくれた恩人としか見ていない。でも、きっといつか振り返させてみせる!恋に支配された乙女は簡単に諦めたりしないわ!




 夜。アタシはアレンを連れてアタシのお気に入りのスポットへと案内した。この森ははっきり言って異常過ぎる。木々は異常な生え方をしているし、草達は赤や青色等普通の色をしていないのよ。そのせいでこの森の中には殆ど動物は居ない…でも、この場所だけにはたくさんの動物や植物達が住んでいる。そう、ここだけは普通の森みたいに…いいや、普通の森なんか比べ物にならないくらい美しい光景が広がっているのよ?これを見たら流石のアレンも驚きが頂点に達するに決まってるわ!




「おぉ…さっきまでの凄惨な光景とは打って変わって温かい雰囲気を持っている光景になったな?」


「どうよ、ここがアタシが守り続けている聖地よ!」


「うん…死んでいった愛人と見たあの森の雰囲気を思い出すよ…まぁ、その森ももうないんだけどな?」


「初めて見る光景じゃなかったのね、てか、『愛人と見たあの森の雰囲気を思い出す』ってどういう事なの?」


「あぁ、話していなかったな…俺は村の中でも家の中でも嫌われ者だった。毎日が絶望と恐怖で満ち足りていた…そんな子供時代だったんだ」


「まぁ、白髪の子供なんて珍しいから受け入れきれなかったかもね?でも、それだけで除け者にする挙句に弾圧するなんて…人間ってやっぱり下種な生き物なのね?」


「でも、そんな俺の人生に一筋の光が現れたんだ。それが、俺の愛人になるはずだった運命の人だったんだ」


「理解者が居たのね…良かったわ」


「彼女は嫌われ者だった俺に人一倍愛情を与えてくれた…彼女が現れなかったら俺は今頃死んでいた。俺の生き甲斐は村から出て彼女を幸せにする事だったんだ…けど…」


「けど…?」


「今から数週間前の話だ…その日、俺は彼女と村を出ようとした。荷作りが終わって、彼女を呼ぼうとしたんだけど…」




─ アレンの脳内回想 ─


「止めてっ…止めてぇーっ!?」


「お前はアイツを愛した…死ぬ理由はそれだけだ!」


「あぁ……あぁあぁあぁ…!?」




俺がそう声を漏らす前に彼女は俺の目の前で首を切断されてしまった。




「ひゃひゃひゃひゃっ…」


「これでこの世の悪を取り除けた…」


「……なんで?」


「おぉん?出来損ないか、お前の頼みの綱も切れてしま…」




俺は言葉を出す前に実行犯の男達を撲殺してしまっていた。




「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」




騒ぎを聞き付けたのか、他の村人達も集まって来た。




「きゃぁぁーっ!?」


「こりゃ酷い…」


「おい、出来損ない!何でこんな事をしたんだ!」


「もう我慢の限界だ…ここで確実に殺す!」




老若男女問わず村人全員が俺に襲い掛かった。しかし、その時の俺は怒りと己の無力さに対する悲しみで包まれていた為、いつもの様に攻撃を受ける気はなかった。




「我慢の限界…?それは俺の台詞だ…」




俺はそう吐き捨てるとさっきと同じ様に全員撲殺せんとした…が、結末は想像と違う形になって迎えた。


(村人全員、アレンから出た衝撃波で切り刻まれる)


なんと俺の体から謎の衝撃波が出て、それに村人全員が斬り殺されてしまったのだ。




「こ…これで…良かったのかな?」




その時の俺は呪縛から解放されて清々しかった。だが、その快感もすぐに終わりを迎える事になる。


(謎の神が現れる)




「お前は悪い事をした…」


「だ…誰だ…?」


「お前は一生うばわれるために生まれたんだ、その責務から逃げてどうする?」


「な…何を言っているんだ?」


「良いか、お前は…」




俺は口が動く前に謎の神みたいな男の首を刎ねていた。




「がはぁっ!?」




(謎の神、倒れる)




「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…これで…諸悪の根源は断ち切れたのか…?……さぁ、これであの人の元へ逝ける…」




そう、俺は情状酌量の余地があるとはいえ、たくさんの人の命を奪った。これは、後々ツケを払わねばならないだろうな…




─ 現在に戻る ─


「そんなこんなで、俺はこの森に行き着いたという訳だ」


「そうなのね、アンタも散々な目に遭ってきた人生を歩んで来てたとは…」


「けど、ミネラルア…お前と出会って少しは俺の人生も良い方向に進んだ気がする。逝ってしまった彼女もキーマンだけど、お前も俺の人生の大切なキーマンだよ?」


「嬉しい事言うわね…今夜も特別な夜に…♪」


「それはもう結構だ」


「えぇ~?お預けはもう懲り懲りだよぉ~…」


「それはそれとして、俺をここに連れて来たからまだ何か見せたい物があるんだろ?」


「えぇ…皆、アレンを持ち上げて!」




アタシがそう命令すると、大きな熊達がアレンを持ち上げた。




「なになに!?『異世界版〈獣の巨人〉プレイ』なの、コレ!?」




アレンはその事実に驚きを隠せないでいるみたい…さっきのお預けの罰はこれで受けてもらったし、後は大きな鳥達に掴み上げてもらって…そう、これはアタシが練りに練り上げたプレゼント企画なのよ!今までアレンからは貰ってばかりだったから、たまにはお返しもしなくちゃね?




「ず…随分高い所まで持ち上げられたな…お?」


「驚いたでしょ?アタシからのプレゼントよ!」




そう、アタシが送ったアレンへのプレゼントは…森一面に書いた「愛してにゃん」…え?「愛してにゃん」?え!?ミスったぁー!?完全にやらかしたわ、コレ!アタシの人生史上一二を争うやらかしだわ、このミスはぁーッッ!!




「あ…『愛してにゃん』??」


「ち、違うのよアレン!アタシが伝えたい事は…」


「分かってるさ、俺にもっと甘えたいんだろう?」


「え?」


「頼りにしてくれる人が生きている限り俺は死なない、だから…」




そう言うと、アレンは着地してアタシの目を見てこう宣言した。




「絶対に俺の目の前で死ぬなよ?」


「え?」


「その……勝手に『許嫁宣言』されてるし、それに…」




アレンが大事な事を言っている…それなのに、アタシの意識は薄れていく…




「……って、顔が真っ赤だぞ!?大丈夫か!?」




あれ…?もしかして動物達を使役するのに魔力を使い過ぎたかな…?アタシはそのままアレンに返事も出来ないまま意識を手放した。




「……………ったく、切ないな…せっかく伝えようとしたのに、気絶するなんてズルいよ…でも、いつか伝えてみせる…今日もミネラルアは俺に必死で伝えようとしたんだ。ここで逃げるなんて男がする事じゃない…」


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