第十一章 革命軍と残された〈獣仁志・創神〉の仲間達 第一話 〈創神〉の返還と新たなる勢力の存在
「いらっしゃいませー、御主人様!メリアさん、注文を聞いて!」
「分かったー、ご注文を伺いまぁーす!」
サファイアルさんとの戦いから三ヶ月の時が過ぎた。あれから特にトラブルもなく、平穏な生活を…送れる訳もなかった。何で命令主であるサファイアルさんが死んだのに、まだ店で働く時にお客さんに「御主人様」って言わなきゃいけねぇんだよ!?これを知り合いにでも見られたら黒歴史以外の何物でもねぇよ!
「よぉよぉ、セイバーちゃん?」
「お、おじさん…今日も来てくれたんですね?」
「おじさんじゃねぇ、まだまだ若いお兄ちゃんだぜ?」
「フフッ…」
(セイバー、ローブを整える)
「セイバーちゃん?そのローブはどうしたんだ?」
「あ、あぁ…今は亡き大切な人の形見です。この人に出会えたから…俺はこんなにもたくさんの仲間に出会えて…ここまで強くなれて…そして、その身を盾に俺を強くする糧となってくれた…やってしまった事は許されるべき事じゃないけど、それでも…俺にとっては大切な唯一の師匠だったんです」
「そうか…セイバーちゃんは大事な人を失ったんだな?………でも、生きていれば希望にきっと巡り会える!そんな水臭い顔してねぇで、前を向いて生きるんだよ!」
「は…はい、ありがとう…ございます…」
おじさんからそう言われた俺だったが、やはりこの感情から抜け出す事は出来ない。仕方のない事だったとはいえ、俺は恩人をこの手で殺めたのだ。この罪は永遠に消えない…あの人のやった事は決して許される事じゃない…だから死ぬのも当然とも思うが、でも…俺は言い換えれば俺を愛していた人を拒絶し、更に激情のまま殺した…………クソッ、あの感覚が未だに忘れられない…俺は…人殺しだ…この事実は何があっても変わらない…俺は…ずっとこの傷を抱えながら生きていくしか出来ないのか?俺は…もっと幸せな終わり方を選択するべきだったんじゃないのか?…俺は…俺は…俺は…!!
「セイバーちゃん?顔色がどんどん悪くなっているけど、大丈夫かい?」
「え…えぇ……………大丈…夫…です…」
(セイバー、倒れる)
俺は気が付くと地面が顔に近付いて、そのまま強く床に顔を叩き付けながら倒れていた。
「セイバーちゃん!?医者は…医者は居ないか!」
「セイバー!?大丈夫!?」
「おぉ…顔色が葡萄より真っ青だぜ!?」
お客さん…申し訳ない…仮にも俺はこの店の店長なのに…こんな無様な姿を晒す事になろうとは…そう思う隙もなく、俺の意識は薄れていき、そのままパタリと消えてしまった。
……………ここは……………ミリアさんの居る世界……………?
「おはよう、セイバー君?」
俺はミリアさんに声を掛けられると思っていたが、今は…
(見覚えのない青年がセイバーの目の前に立っている)
全く見覚えのない…赤髮の青年が俺に話し掛けて来た。
「貴方は…誰です?」
「俺?……………あぁ、簡単に言うと…『世界を約束を守る事が出来る者だけにする事を目的とする』人、『アレン・ルリラルラ』だ。よろしくな、セイバー・クラニカル君?」
「アレン…さん?貴方が見ず知らずの俺に何用ですか?」
俺が彼にそう問うと、彼は俺の目を見つめながらこう答えてきた。
「君は…あの伝説のサファイアルに勝利を捥ぎ取ったと聞いている…それだけ君は強いという事、だから…」
(アレン、セイバーの首を小突きながら言葉を続ける)
「君を是非…我が〈革命軍〉の仲間にしたい!どうだ、待遇は保証しよう!」
「ち、ちょっと待ってください!いきなり初対面の相手に勧誘されてすぐにOKを出せる訳がないでしょう!?」
「いいや、君には是非…俺の仲間になってもらう!」
「駄目だこの人、話が全く通じない…!?」
「ちょっと待ったぁー!」
俺がアレンさんに詰め寄られていると、奥の方からミリアさんが走って来た。
「私の世界に勝手に干渉するとは…貴方は死にたいんですか!?」
「おぉっと、絶対神ミリア様がお怒りだ!仕方ない、今回はここで帰ってやる…でも、次は君を必ず手に入れてみせる!」
アレンさんはそう言うと、転移魔法で俺の目の前から居なくなってしまった。
「えぇっ!?転移魔法…ですって!?」
「ここで転移魔法は使えないのか?」
「えぇ、この世界の管理者である私以外の存在がその魔法は普通は使えません。しかし、あの男…洋々と転移魔法を使って私の追跡から逃れましたね…」
な…何かよく分からんが、これで…あの勧誘からは逃れる事が出来たのかな?
「そうそう、セイバーさん…」
「はい?」
ミリアさんはそう言うと、俺の右腕にあるマジックアイテムを装備させた。
「こ…これは?」
「サファイアルの善の心を籠めた召喚アイテムです」
メリアさんの使い魔といい、俺は二つも召喚アイテムを所持してて良いのか?しかも、今回の対象は伝説の〈獣仁志・創神〉だぞ?そんな敬うべき存在を支配下に置いて大丈夫なのだろうか?
「まず、ここで一回召喚してみましょう」
「え…こうですか?」
俺が右腕を正面に出すと、右腕から煙が出て来た。そして、煙の中から見た事のある人物が現れた。
「…………?」
「サファイアル……さん?」
「セイバー君…迷惑をおかけしてすみません…」
「えぇっと…俺の方こそ、貴方を殺すしか止める手段を考える事が出来なくて…」
「いいえ、私には…謝る資格もありません…君に恋してしまったとはいえ、それを理由に世界を滅亡させるという暴挙に出た罪…………一生掛けても償いきれません…」
「サファイアルさん…」
俺は悲観するサファイアルさんの頬を叩いた。
「…っ!?」
「償えない罪は存在しない…それに、例えどんなに大きな罪を抱えていても認めてくれる人は居る…それを忘れるんじゃねぇ!それに、アンタは俺を好きなんじゃないのか?だったら、その好きな奴を悲しませる事を言うんじゃねぇ…俺はアンタを殺す事でしか救えなかった弱者だぞ!そいつをさらに悲しませる事なんかするんじゃねぇよ!それに、俺はアンタを殺した事を未だに悔やんでいる…死に際のアンタの台詞が、アンタを斬った時の鈍い感触が…未だ忘れられねぇんだよ!」
「うっ…うぅっ…ヒグッ…」
「アンタは許されない罪を犯した…でも、だからって…一人で悩み抱えるんじゃねぇ!俺達は仲間だろ?アンタの罪を償う事くらい、俺達だったら協力する!」
「でも…私は…君の心を傷付けた…恋人失格です…」
(セイバー、サファイアルの襟を掴む)
「だからって、孤独に戦う事は…償いにもならねぇぞ!アンタを産んでくれた神様だって、そんな可哀想な事をさせる為に産んでくれた訳じゃねぇ!罪を償う事くらい俺達も一緒に手伝ってやるさ?アンタは俺にとって大切な師匠…いいや、恋人なんだろ?」
「フフッ…君は馬鹿野郎ですね…?」
サファイアルさんはそう言うと、俺を抱き倒した。そして…
(サファイアル、セイバーに口付けをする)
「ううっ…はむっ…ヒグッ…」
「馬鹿野郎はお互い様です…」
「フフッ…サファイアルを見事に手懐けてしまいましたね?」
「あははっ…くすぐったい…!?」
「くやーん♡」
「それに…俺を命を張って助ける程に大切に思っている人達が居る様に、貴方にもそんな人達は居る…人間一人じゃ生きていけません、貴方は独りじゃない…」
俺はサファイアルさんをあやしていた…のかな?それにしても、サファイアルさん…貴方は甘えん坊モードに入ると、こんなにも犬みたいになるんですね?
(ミリア、怒りのオーラを放っている)
あれ?ミリアさん?なんか怒りのオーラがビシバシと伝わってくるんですけど?
「サファイアル…?」
「ひぃぃっ!?」
(サファイアル、セイバーの背後に隠れる)
「私以外の男にそんなに甘えて…私の息子がもう我慢出来ないみたいですよ?」
え……え……えぇっ!?俺はここで驚愕の事実に気付いてしまった。
「ミリアさん……貴方さっき、『私以外の男にそんなに甘えて』って言ってましたけど…もしかして…貴方男なんですか!?」
「えぇ、私はこれでも立派な男の娘です!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
やばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああんんんんんん!?
「心の中で相当追い詰められているみたいですね?そんなに認めたくないのなら見せてあげますよ?」
(ミリア、自身の息子をセイバーに見せる)
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁーっ!!??」
「ほら?貴方の数倍の大きさの息子ですよぉ?」
「そんな大事な物を衆前で晒すんじゃない!男の象徴だぞ、それは!」
「えぇ~?良いじゃないですかぁ~…だってぇ~…こうでもしないとサファイアルが私を見てくれませんしぃ~?」
「俺の身の回りの女は全員変態なのか、おい?」
ま…まぁ、俺の傷の払拭も、サファイアルさんの気分もすっきりしたから良いけど…
「あ、そうでした!セイバーさんに一つ言わなくてはならない事があるんでした!」
「言わなくてはならない事?なんですか?」
俺がそう問うと、ミリアさんは顔色を変えて俺にこう警告して来た。
「貴方は一度世界を救った…その感傷に浸かるのも良いですが、また暫くしないうちに脅威が現れるでしょう…」
「脅威…ですか?」
「その脅威の正体は〈革命軍〉…先程私の世界に干渉して来たアレンという男が総長を務めている危険な思考を掲げている…規模は10万人の暴力軍団です」
「じ…10万!?」
「もう少ししたらその軍団が貴方達に干渉してくるはずです…理由は…〈獣仁志・創神〉を討ち倒し、世界滅亡の危機を救った英雄だから…強力な仲間に成り得るから…です」
「で…でも、俺達がサファイアルさんを討ち倒した事は俺を含めて数十人しか知らないはずだが?」
「恐らく、その情報をリークした人物…若しくは元から〈革命軍〉のスパイとして潜入していたか…可能性はこの二つでしょうね?」
「…!!」
なるほど…災厄の再臨か…ふざけるのもいい加減にしてもらいたい所だよ、全く。せっかく皆が幸せな生活に戻る事が出来たのに、それをまた壊す真似をする輩が現れるとは…今はまだ動きは見られないが、いつ戦争状態になるか分からない以上…厳重̪視するしかあるまい。
「さて、今回はここまでにしましょう。サファイアルを貴方に手渡す事も出来ましたし、次なる災厄を知らせる事も出来ましたし…」
「じゃあ、また次回お会いしましょう!」
「くやーん♡」
「貴方はいつまで甘えているつもりですか?」
さて、また一難ありそうだ。俺は意識をその世界から手放して、元の世界へと旅立った。
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