第九章 〈奇跡の子〉の力と〈哀〉の愛 第三話 命とは
まさか、力を手に入れたばかりの時にもう来てしまうとは…しかし、前回のアリアンと同等レベルと考えるなら…
「フクツーゲリさぁーん、大人しく死んでくださぁーい!」
「誰がフクツーゲリだ…って!?」
「ほいっと!」
俺はツーゲリを右アッパーでワンパンした。そうすると、彼の体は宙を舞い、すぐに動かなくなった。ていうかさ、前回のアリアンといい今回のツーゲリといい…噛ませ犬感が半端ないな、おい?前回と同レベルなら、と考えて軽く攻撃しただけなのだが…まさかの二連続ワンパンフィニッシュ…俺、最強なの?俺がそんな事を考えていると、ツーゲリの遺体から光が溢れ…
「久し振りですね、セイバー君…」
またサファイアルさんが現れた。しかも、前回より心をだいぶ拗らせているみたいだ…
「あぁ…素敵なセイバー君…また君に会えるなんて…光栄ですぅっ…!」
前回の時よりメンヘラ度が上がってないか?メンタル面で心配しか感じないんですけど?いやいや、それも大事だが…
「もうこんな事止めましょう、貴方の部下の命が勿体ない!」
「こんな事…ですって?」
「マズい…セイバー君!伏せろ!」
(サファイアル、強烈な斬撃を放つ)
「危なっ…!?」
おいおい、一時は度を共にした仲間に容赦なく攻撃して来たぞこの人…
「こんな事とは何です?私は真剣なんです、君を手に入れる事だけで頭がいっぱいなんです!どうして君は…私の気持ちを分かってくれないんですか?私は君の事しか…ずっと考えていないのに…」
「あぁ、分からないさ…」
「何ですって…?」
俺はサファイアルさんに気持ちが届く様にこう答えてやった。
「アンタみたいに命を軽く扱う人間の気持ちなんか…分かる訳がねぇだろ!アンタの部下だったアリアンとツーゲリはアンタの為に命を燃やした、この行為についてどう思う?」
「そんなの当たり前でしょ?私の為に死ぬ事なんか当たり前過ぎて草が生えますよ?」
「そう思っている時点でアンタの心なんか分かんないって言ってんだよ?命を何だと思ってんだ…アンタの為に死んだ二人にも、それ以外のアンタの部下達にも、帰りを待つ家族や友人が居るのに…わざわざその人達を使って俺を手に入れるんじゃなくて、アンタが直々に俺の所の来れば良いだけの話だろ?それを、悪戯に命を無駄にして…それを当たり前だと愚弄する…アンタは人間じゃねぇ、人間の皮を被った…害獣だ!」
「交渉決裂…力尽くで手に入れる必要がありますね?」
はぁ…今回も心に響かなかったか…つまり、今回も武力交渉という訳ですね?バカヤロー!
「アリアン?ツーゲリ?誰の事なのか全く分かりませんね?」
「アンタ本当に人間か?アンタの為に死んでいった人の事を何も考えていないんだな?」
「えぇ、そうですよ?私は君の事しか考えていませんから!」
(サファイアルとセイバー、剣で攻撃し合う)
「はぁぁぁぁぁ!!」
「ぬぅおおおお!!」
俺とサファイアルさんの攻防が続く、そして、その衝撃は近くにある王都ライアナにも伝わっていた。
「サファイアルさん…もうこんな意味のない戦いは止めましょうよ!」
「いいえ、止める訳にはいきません…全ては、君を手に入れる為に!!」
クソッ…やはり心が拗れ過ぎて話を聞いてくれないか…仕方ない、初使用だけど…これを使うしかない!
(セイバー、右眼と左眼に力を籠める)
「はぁぁぁぁぁ…!!」
「何をするつもりですか…?」
「この技で…アンタを倒す!」
俺は右側に黒い魔王を、左側に白い神のオーラを纏った。なるほど、体が軋み出している…これが〈奇跡の子〉の力が覚醒した力か…!この攻撃なら、サファイアルさんを止められる!
「『超・神級魔法〈暗黒波動砲〉』&『超・神級魔法〈白衣波動砲〉』!!」
「んなっ…!?この技は…」
(セイバーの技がサファイアルに命中する)
「かはぁっ…!?」
「よし…ダメージを…んなっ!?」
俺は確実にサファイアルさんを仕留めたかと思ったが、彼は今度はツーゲリの体を身代わりにまた居なくなってしまった。
「クソッ…また逃げられた…!」
ツーゲリ…貴方も可哀想な人生でしたね?神と崇高していた者から散々な仕打ちに遭うなんて…ご冥福を…おや?
「カハッ…助け…!」
まだ息がある。情報収集の為に…いや、人命救助の為に助けなくては!!俺は「超級」レベルの回復魔法でツーゲリのダメージを癒した。すると、治療の甲斐あって、ツーゲリは目を覚ました。
「…………ぼ、僕は一体何を…?」
「貴方は害獣に操られていたんですよ?しかも、身代わりという口実で殺そうとしたんです…」
「サファイアル様が…僕を身代わりに…僕を殺そうと…!?」
「えぇ、アリアンさんも似た様な方法で殺されました…貴方は偶然にも息があったので治療しました」
「何故僕を助けた…僕は君達の敵なんだぞ?敵に塩を送るとは…命知らずにも程があるぞ?」
そう言って警戒するツーゲリに俺はこう言葉を掛けた。
「敵味方なんか関係ないさ?助けを求める奴が居るなら助ける、それだけだ。それに、貴方はただ言いなりになっていただけ…確かに貴方は俺を殺そうとした。でも、逆らえなかったんでしょ?乗り気じゃなかったんでしょ?だったら助ける…敵味方関係なく、救える命は救う。だって、そうしないと命が勿体ないでしょ?」
「君は戦いに向いていない性格をしているね…でも、アリアンは殺したんだろ?それはどう説明するんだ?」
「あぁ、彼は死に際に俺を撃とうとしたから殺した…本当は殺したくはなかったけど、そうするしか選択肢がなかった…」
「まぁ、別に僕達を殺そうが殺さまいが変わらない…僕達は…」
(セイバー、ツーゲリの裾を掴む)
「変わらない訳がないだろ!人形だろうが人間だろうが関係ねぇ、同じ命である事に何も変わりはない!サファイアルさんといい、貴方といい、命を何だと思っているんだ!命は、言葉では語れないくらいに大事で貴重な代物なんだぞ!それを捨てるのが当たり前みたいな事言ってんじゃねぇ、そういう事をするのは強者でも何でもない、弱くて卑劣な奴がやる事だ!」
「君は僕にとって何なんだい?何故そんなに僕を擁護する?」
「貴方とはここで初めて出会ったばかりだ…でもな?だからってどうでも良い存在とは思わない…敵であっても、味方であっても、同じ命である事に変わりはないんだ!貴方の人生は大きく壊されたのかもしれない、でも…今からでもまた立ち直れる!諦めないでください、生き続けていればきっと良い事は訪れる…俺はそう信じて毎日を生きています!」
「フフッ…それは弱者の理論だ…だが、そういう生き方も悪くはないね…」
ツーゲリがそう言うと、彼の体が白く光り始めた。まさか、これは…進化!?
「んな訳ねぇだろ…って話ですよ、セイバー君?」
「で、ですよねぇ~…じゃあ何が起こっているんですか?」
「簡単に言うと、サファイアルさんによって起こされた体の異変が治ろうとしているんでっせ?」
「異変…ですか?」
「えぇ、サファイアルさんは創神、人の体の構造を壊変する事くらい造作もないんですよ?」
なるほど…トリガーが何かは分からないが、ツーゲリの体がサファイアルさんの支配から解放されて元の姿に戻ろうとしているんだな?
「あぁ…あぁあぁあぁあぁ…!?」
…………あれ?なんかエッチな物を見せつけられている気がするな、おい?ていうか、彼は男だよな?何か喘ぎ声が女のものに聞こえてきたんですけど?そして、暫くしてツーゲリが居た場所には…
(ドラゴン族の女の子が立っている)
お…おぉ…おぉぉ…おぉぉぉ…女の子かよぉー!!この作品、圧倒的に男キャラが少ないのよ!だから、ツーゲリは数少ない希少な男の子キャラだった訳だよ!それなのに…まさかの女…ていうか、女を男に改造する事がサファイアルさんには可能だった訳!?
「あぁ、サファイアルさんは魔眼の一つの『創眼』で全ての物を思うがままに改造する事が可能です」
「よし、サファイアルさん…いや、あのイカレサイコ野郎は俺が必ずぶちのめす!」
「セイバー君、落ち着いて…」
「あぁ…セイバァー!!」
俺とノーレルさんが話していると、ツーゲリだった女の子は俺に抱き付いてきた。
「ちょっ…!?貴方も良い体付きしているんだから、少しは節度を…」
「だって、セイバーが好きなんだもん!」
「どきん…!?」
「ほほう、セイバー君は本当にモテ男ですねぇ?」
「違いますから、決してやましい事なんかありませんから!」
(メリア、セイバーの腕から出て来る)
「へぇー…私を差し置いて『好き』宣言かぁ…」
「メ、メリアさん!?いつの間に出て来たの!?」
「セイバーは私の物なの!」
「違うよぉ、セイバーは皆の物だよ!」
「なに当たり前な論戦繰り広げているんですか、時間の無駄だから早く帰りません!?」
「ですね…それに、荷物も多いですし…」
「「荷物?」」
「ア、アレだよ…」
俺がメリアさんと元・ツーゲリに指差して見せた先には、二人の倒れている女性が居た。怪我人ならすぐに助けるが、二人は俺の息子を堪能した後に転げ回り、動転して気絶したからな…俺の息子に何か劇薬でも添付されていたのか?
「あぁ…私がもしもの時にって思って、効果抜群な刺激毒を塗りたくったんだ!」
「道理で息子かウズウズするなと思ったよ、そんな劇薬を塗りたくっちゃいけませーん!!」
「はぁ~い…」
はぁ…サファイアルさんは逃がすし、ツーゲリは女の子になるし…目の前で色んな情報が屯している…あ、そうだ。
「ツーゲリ…じゃないんだよね?」
「うん!私はリリル、ドラゴンハーフの女の子だよ!」
「へぇー…リリルちゃん?どっちがセイバーの奥さんに相応しいかここで決着付ける?」
「上等だよ、ここで白黒はっきりつけさせてあげる!」
「止めてぇー!」
はぁ…乙女心とは難しいものだな…という訳で、無事にサファイアルさんの二回目の襲撃を何とか凌ぐ事が出来たのでした。
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