第九章 〈奇跡の子〉の力と〈哀〉の愛 第二話 残酷な試練と〈哀〉の二度目の襲撃
気が付くと俺は今は亡き俺の故郷の村に居て、目の前に父さんと母さんが居たのだ。ここは夢の中か?それにしては、存在しているはずのメリアさんがどこにも見当たらない…
「どうしたの、セイバー?顔色が悪いけど…?」
「何か悪い事でもしたのか?」
「いいや、違うんだ…」
ヤベェ…久し振りに親と話すから緊張する…こういう時はどんな感じで話していたっけ?マズい、全く思い出せない…
「とりあえず、友達と遊んで来てから帰ってきなさい」
「終わったらたっぷり話そうな?」
「あ…うん、分かったよ…」
と、とりあえず…一旦冷静になる為に友達と遊んでくるか!俺は友達が行く後を追って森の中へと入っていった。
日もすっかり落ちて、帰って来た俺は…久し振りの一家団欒をしていた。
「ヒグッ…うぅっ…ヒグッ…」
「どうした、セイバー?男が意味もなく泣くんじゃない、嬉しいのか?」
「まぁ、ずっと嫌われていたからその鬱憤が今爆発したんじゃないの?」
違う…違うんだ、母さん…一家団欒が久し振りだったから感動しちゃっただけなんだ…夢とはいえ、こんな幸せな時間を提供してくれた事に感謝しているんだ。
「じゃあ、頂きましょうか?」
そうして、俺と父さんと母さんは一家全員で夕食を食べた。その瞬間だった─
(いきなりセイバーの父と母が死んでいるシーンへと飛ばされる)
「…………え………………?」
な、何なんだ…さっきまで一家団欒してたじゃないか?……………それが……………いきなりシーンが変わって、父さんと母さんが死ぬシーンへと切り替わるなんて…………
(セイバー、謎の力に呑まれる)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は悲しみに包まれ、謎の力を暴走させてしまった。一体何なんだ、この夢は…………
「あぁぁぁっ!?」
「ど、どうしたの?セイバー?」
次の瞬間、俺はまた別のシーンへと飛ばされていた。あれ…ここは最初に飛ばされた場所と同じ場所だな…?
「か、母さん?」
「顔色がかなり悪いわよ?」
「今日は一日休め、お父さんがお薬を買って来るから…」
そうか、分かったぞ?これが試練か…この過去の傷を治さない限り〈奇跡の子〉の力は使えないという事か…恨みますよ、ノーレルさん?
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(父と母の幸せなシーンへと切り替わる)
「セイバー?お父さんはお前を誇りに思っているぞ?」
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(家族の幸せなシーンへと切り替わる)
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
(家族の幸せなシーンへと切り替わる)
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!」
「どうしたのよ、セイバー?悩み事があったら何でも言いなさい?」
そうさ…母さんと父さんが死ぬ事は既に体験済みだ。だから、人が目の前で死ぬと考えれば良いんだよ…大事な人とは思わない様に、心を殺して…
「なんだ…案外楽勝じゃないか…さぁて、これで力が…」
(セイバー、謎の力に吞まれる)
そんな外道みたいな事、出来る訳ねぇだろ!!
(家族の幸せなシーンへと切り替わる)
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
(家族の幸せなシーンへと切り替わる)
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
「あぁっ…あぁぁっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
どうすれば良いんだ…サファイアルさんを止める為に必要な力を手に入れなきゃいけないのに…こんな所で躓いている様じゃ…彼を止める事は出来ない!でも…
「セイバー?お母さんの手作りのパンケーキ食べる?」
「お父さんと一緒に食料調達に行かないか?」
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
だからって、この人達の死の悲しみから出て来る暴走を止める事等出来る訳がないだろ!あぁ…俺はあまりにも業を背負い過ぎた。普通の子供みたいに生きていればこんなに地獄を見る事もなかっただろうに…もう、いっその事死んでしまいたい…こんなに苦しんでまで手に入れた力なんて…良くない代物に決まってる…そう思っている時だった。
「セイバー!女の私が言うのもアレだけど、男は何があっても意思を曲げちゃいけないのよ!どんなに苦しい業を背負っても、世界を敵に回してでも…自分は自分のままで生きなきゃいけないのよ!貴方が今、どんな辛い事を味わっているのかは分からない…でも、前を向いて生きるしかないの!それが人間に出来る…唯一自慢出来る事だからね?」
母さん…
「セイバー…お父さん達がもし、明日死んでしまっても…生きる事を諦めるな。どんなに辛くても、苦しくても、死にたいと思っても…死んじゃいけない!人間の最大の罪は死ぬ事だ。お父さんはそんな罪を犯す子供を作る為にお前を育てて来た訳じゃない、だからな?」
(セイバーの父、セイバーの頭を撫でる)
「お前は強い…だから、弱い者を守る大人になる事を…死んでしまっても願ってるからな?」
(父と母が死ぬシーンへ切り替わる)
そうだよな…父さん、母さん…俺、もう意思が固まったよ。父さんと母さんの死は決して忘れる事は出来ない、でも…いつまでもその傷を晒して生きる訳にもいかない。だから、母さん…父さん…俺は…
(セイバー、謎の力を制御し、左眼に光の力が、右眼に闇の力が宿る)
「二人の分まで強く生きる…そして、二人が遺してくれた世界を…俺自身の手で守ってみせる!」
俺がそう意思を固めた瞬間、俺の視界が歪んだ。そして、気が付くと…
「おめでとうございます、セイバー・クラニカルさん!」
「こ…ここは…?」
「私の空間です。貴方は自分の心の中の弱い部分を克服出来たんです、これで…サファイアルを止める一つ目の力を手に入れる事が出来ました」
ひ、「一つ目」?つまり、俺だけがサファイアルさんを止める力を手に入れる訳ではないんだな?いやいや、そんな事はどうでも良いんだ!何故あの夢の世界からこの空間へ移動出来たんだ?そもそも、この空間に来る為にはサファイアルさん達が生まれたばかりの過去の話をしないと来れないはず…それなのに、今はこうしてその空間に移動出来ている。何故だ?俺が疑問を抱えていると、ミリアさんはこう説明してくれた。
「今までは他者から私の話をされないとこの空間へ移動する事は出来ませんでしたが、先程…〈奇跡の子〉の力が進化した事により、いつでもここに貴方を呼ぶ事が出来る様に…いいえ、貴方もいつでもここに来る事が出来る様になったんです!」
「は、はぁ…?」
「これで、暫くは世界が滅ぶ可能性が消えましたね!私もこれで安心して世界を眺める事が出来ます!」
いつでもここに来れるようになった…という事は、あの事を聞く事が出来る…
「あの…サファイアルさんがこんな事を企てた理由を話す事は出来ますか?」
「あぁ…それでしたら簡単な理由です。貴方が好きだから…いいえ、正確には…私の血を継いでいる貴方が好きだから…それがサファイアルがこの事件を引き起こした理由になります」
「え…?それはつまりどういう事でしょうか…?」
「まぁ、彼に直接聞けば分かる事です…それに、彼はもうじき次の刺客を送ってくるはずです…貴方も早くあっちに戻らないと、仲間達が死んでしまいますよ?」
「そうですか…情報提供感謝します!」
俺はすぐにあっちに戻る為にこの空間から離脱した。
「フフッ…私も…貴方と結ばれる事を望んでいますよ?」
元の世界に戻って来る事が出来たみたいだ。俺は試練完遂の報告をしようと思ったが、それは叶わなかった。何故なら…
(アルマとレールゲル、セイバーの体のあそこを舌で舐めている)
「あいきゃうぅあぁううわぁぁあんっ!?」
「セイバーくぅ~ん♡」
「お姉さん達がたっぷりご褒美あげるからねぇ~ん♡」
な、何なんだコレは!?目覚めて早々に寝起きの悪い事をされているし…こんなことされているくらいならもう少しあの空間に留まるべきだったっ!!
「セイバー君…モテモテですねぇ?」
「そんな事言ってる暇あるなら助けろぉー!」
結局、俺はアルマさんとレールゲルさんに一時間ギュポギュポされ続けたのだった。フ×××ュー、滅びろこんな英雄なんか!
「なるほど…ミリアさんの居る空間に自由に行き来出来るようになったと…」
「はい、それで…彼女から聞いた話なんですが…俺以外にもサファイアルさんを止める力が必要だと聞きましたが、それはどうすれば手に入れる事が出来るんですか?」
「あぁ、ここだけの話…サルタ君とランガ君も〈奇跡の子〉の力を宿しているんでっせ?だから、その二人にも君と似た力を付与する…それがサファイアルさんを止める力の全てでっせ?」
ランガとサルタも〈奇跡の子〉の力を宿しているのか…確かに二人共チートレベルの力を宿しているし…納得出来ない訳ではないが、あの二人に俺と同等の苦痛を我慢できるとは思えない…特にサルタはその特徴が思いっきり出ている。彼女は本能のままに生きる獣人だ。だから、理性を研ぎ澄まさなければならないあの試練を耐える事等不可能に近い。
「あぁ、安心してくだせぇ?その二人には心の試練は与えませんぜ?」
「では、どういう試練を与えるんです?」
「サルタ君には剣の試練を、ランガ君には拳の試練を与える予定でっせ?」
良いなぁ…妬ましいなぁ…恨めしいなぁ…俺と交換してもらいてぇなぁ!!しかし、かなり強い力を手に入れる為に必要な試練なのでそれなりに強固なものとなっているはずだが…さぁーて、俺の体に打ち込まれた新たなこの力…左眼に光、右眼に闇だったっけ?この力を使う場面はもうすぐ訪れるだろう…全ては、俺の大事な仲間を守る為…
「君がセイバー君だね?サファイアル様の命を狙う者…だったかな?」
おっと、もう現れたみたいだな?サファイアルさんからの二人目の刺客…
「僕は『ツーゲリ・レクイエム』、崇高なるサファイアル様の下部だよ?」
こうして二度目のサファイアルさんによる襲撃が始まったのだった。
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