第八章 〈哀〉の神とその下部達 第五話 狂気の鍛冶師と新たな力

サファイアルさんと戦った日から数日が過ぎた。俺は今、ザクロさんに代わりの変色剣を持ってきてもらうのを待っている。すみません、ザクロさん…でも、悪意はないんです。世界存続を危機から守ろうとした結果、こうなってしまったんです。




「セイバー君、ザクロさん達が来ましたっせ?」


「そうですか!」


「あと、スノウ君も連れて来いとの事でっせ?」


「分かりました」




俺はスノウを連れて店の前まで移動した。すると、奥の方からザクロさんともう一人の男の人がやって来ているのが見えた。




「あ、ザクロさん!」


「…」


「おーい、ザクロさーん!久し振りでぇーす!」




俺がそう挨拶を掛けると、ザクロさんは荷物を全て投げ捨てて、手に包丁を持ってこちらに走って来て…




「元気そうで何よりで…」


「…(殺)!!」


「えぇっ………………!?」




次の瞬間、ザクロさんは俺目掛けて包丁を持ったまま突進してきた。




「きぇえぇーっ!!」




俺はその突進を間一髪で回避した。




「ザ…ザクロさん!?」




すると、ザクロさんは俺に強烈な殺意を籠めた目で見つめながらこう叫んだ。




「よくも折りやがったな…俺の剣を…よくもよくもぉ!!」


「すみません!でも本当に、あの、サファイアルさん意外に強くて、もしかしたら俺も死んでた可能性だってあった訳だし…!」




俺がそう言い訳すると、ザクロさんは俺の尻尾を引っ張りながらこう文句を言ってきた。




「いいや違うな、関係ねぇだろ、お前が悪い、100%お前のせいだ!貧弱、脆弱、糞雑魚、お前がいつまでも強くなろうとしないからそうなったんだろ!そもそもの話、俺の作った剣が折れるなんて有り得ないんだよ、理由は一つ、お前がレベルが高いからってイキって戦ったから剣折れたんだ、そうでなきゃ俺の作った剣が折れるものか!」


「ですがぁ~…」




俺がそう答えると、ザクロさんは包丁を構えてこう叫んだ。




「塵になるまで八つ裂きにしてやるぅー!!」




そう言うと、ザクロさんは俺目掛けて包丁で刺し殺そうとする為に走ってきた。




「あぁぁぁー!?」


「殺してやるぅー!殺してやるぅー!」




結局、鬼ごっこはノーレルさんがザクロさんを無力化させるまで続いた。




 「いやぁー、すみませんね?」




俺は今、ザクロさんと一緒に来た男の人と話している。




「彼も悪意があってあんな事をしたんじゃないんですよ?ただ、職を極めた者は作った物全てを愛する。まぁ、簡単に言うと『愛している者』というやつですよ?人一倍剣を、自分が作った物を愛している、それだけに過ぎないんです」


「そうなんですね(引き)…」


「ぐぬぬぬぬぬぬ…(怒)!」




職を極めた者を怒らせるとこんなにも怖いものなのか…




「あ、申し遅れました。私はリデアと申します、スノウ様の剣を作らせて頂きました」


「スノウの剣…?アイツは魔法しか使えないんじゃ…」


「あぁ、僕は『魔法剣士』を目指す事にしたミャウ!」


「『魔法剣士』?何だそりゃ?」


「剣の実力も半端ないかつ魔法の技術も高い職業の事ミャウ!」


「あぁ、つまりは俺みたいになりたいって事か?」




俺がそう問うと、スノウは顔を真っ赤にしてこう言い返した。




「ち、違うミャウ!別にお前がカッコ良かったからとかいう理由で目指す訳じゃないミャウ!」


「肯定かつ理由まで述べてくれるとは…今度稽古つけてやるよ?」


「え!?あ…ありがとうミャウ(恥)…」


「ほほう…スノウ様はセイバー君の許嫁なんですね?」


「ち、違います!コイツとはただの友人に過ぎませんから!」


「さて、そんな話も良いですが…」




リデアさんはスノウの持つ両手剣を見ながらこう呟いていた。




「しかし、変色剣の二刀流の方を見るのは初めてです…変色剣は一般的に扱うのが難しいので一刀流でも扱いきれない者が多いのですが、それを二刀流でやってのけるとは…しかも、スノウ様の髪色が金髪ですので理解出来ますが、金色に変色するとは珍しいですね?まさか生きている間に金色の変色剣を見る事が出来るとは…ありがたやありがたや」


「良かったな、スノウにとって初めての剣をこんなにレベルの高い鍛冶師に作ってもらえるなんて」


「お前俺が少し良い気持になったからって何事もなかったかのように立ち振る舞うんじゃねぇよ?あまり調子に乗っているならその尻尾斬り飛ばすぞ(小声)?」


「う~ん…」




スノウは剣を眺めて不満そうに溜め息を吐いていた。




「握り心地はいかがですか?使い難いと感じたならすぐに作り直しますので…あれれ、スノウ様?」




スノウは俺が数日前にプレゼントした鉄インゴットを手に取り、何かしようとしていた。




「何をするんですか…?」


「ん?」


「う~ん」


「おやぁ?」




すると、スノウはあろう事か、鉄インゴットで剣をギザギザに改造し始めた。




「えい!えい!えい!えい!」


「「「あぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」


「OK!」




すると、その光景を見ていたザクロさんだけではなく、作った本人のリデアさんも驚いた。しかも、リデアさんは怒りの感情を露わにしてスノウに襲い掛かろうとしたので、間一髪の所で俺が取り押さえた。




「ぶち殺されたいのかこの女狐!我オラ、なに醜態御晒してくれやがんだこの野郎!?」


「すみません、すみません!」


「おぉ~っ…」




頼むスノウ、もうその奇行を止めてくれ!しかし、そんな俺の思いは届く事はなかった。




「えい!えい!えい!えい!」


「おんのれぇぇーっ!!もう生かして帰さねぇぞ、他人様が心を込めて作ったのに、恩を仇で返す奴があるか、オラァ!血祭りにあげてやる、一生分の血祭りにあげてやるぅぅ!!」


「すみません、すみませぇーん!!」




 「あり得へんわー!アイツあり得へんわー!剣を?鉄で?あり得へんわー!!」


「すみません、すみません、すみません!!」


「僕…何か悪い事でもした?」


「悪い事しかしとらんわ!!」




はぁ、何とか…新たに剣を手に入れる事は出来たが、これからどうしたものか…サファイアルさんの居場所は掴めないし、だからと言ってこのまま放置するとアリアンみたいに刺客がやって来るのかもしれないし…それに、ここ暫くはサファイアルさんの指示の下動いていたものだし…




「セイバー君、単刀直入ですが…サファイアルさんを止める一打となる『ある力』を与えましょうかい?」


「あ、『ある力』?」


「そうです、その前にもう一度…ミリアさんに会ってもらいますぜ?」


「え?」


「正直、こんな方法であっちに送りたくはないんですが…仕方ありんせん…君とサファイアルさんは@*+?#$&&%でっせ?」


「ぐわぁぁぁっ!?」




俺はその言葉を聞いた瞬間、あの強烈な頭痛に見舞われた。ノ、ノーレルさん…何をするんですか?俺はその言葉を聞きたくない…おや?何だこの胸の高鳴りは…まるでサファイアルさんという言葉に反応しているかの如く高鳴っている…?そう考える前に俺の意識は闇の中へと落ちていった。




 …………ここは…………………前に見た事がある…………そして…………俺の目の前に居るのは…………ミリア…さん?




「セイバー・クラニカルさん…また会えるなんて思いもしませんでしたよ?」


「お久しぶり…といった方が良いんでしょうか?」


「ノーレルによってここに入って来たんですね?彼の目的も承知しています…では、貴方に『あの力』の一部を付与しましょう…全ては、サファイアルを止める為に…」




ミリアさんはそう言うと、俺に向けてある魔法を付与したみたいだ。その直後、俺の体は高い熱を持ち始めた。まさか毒でも打ち込まれたか…しかし、そうではなかった。毒ではなく、俺に体に打ち込まれたのは…


(セイバーの手に星型の魔法陣が刻まれている)




「こ、これは一体…?」


「それは貴方が更なる力を引き出す為に必要な代物です。先に言っておきますが…先日サファイアルと交戦して生き残ったと聞いていますが、その奇跡がいつまでも続くと思わない方が良いですよ?」


「そ、それは一体どういう事ですか?」




俺がそう問うと、ミリアさんはこう言葉を返してきた。




「今のサファイアルはただの獣人族の女ではありません、神の力を得た正真正銘の化け物です。今は味方にノーレルが居ますが、今の状態だと彼の力では貴方を含める全員を助ける事は出来ません」


「そ、そうですか…」


「なので、貴方にはサファイアルに対する力を手に入れて欲しいのです」


「サファイアルさんに対する力…」


「私から言えるのはここまでです…ここからは貴方の覚悟が必要になります、頑張って下さい!」




彼女がそう言うと、俺の意識はその世界から手を放した。


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