第七章 妖精王と特級魔術師 第四話 宿命の殺しと〈哀〉の神の始動

言われるがままに連れて行かれた先に待っていたのは…


(セイバーの村の村人達がモンスター化している)




「な…何なんですか、アレは…!?」




俺の視界に映り込んだのは、死んでしまった俺の村の人間達と瓜二つの人型の魔物だったのだ。




「俺の村の人間達と瓜二つ…」


「いいや、瓜二つではない…彼等の怨念があの様に姿形を形成しているんだ」


「お、怨念ですって…!?じゃあ、あの魔物は俺の村の人間達という事ですか!?」


「あぁ、その通りだ…言い換えれば、アレは『怨霊』とでも言おうか?」


「お、怨霊…しかし、怨霊なら貴方方でも成仏出来るはずでは?」




俺がそう聞くと、リンさんは首を横に振った。




「実はこの件、私達ではどうしようも出来ないんだ…」


「そ、それはどういう意味ですか?」


「彼等を何度も成仏させようと試みたが、無力化出来ても成仏させる事は出来なかった。それに、奴等は口々にこう叫んでいたんだ…」


「何を叫んでいたんですか?」


「…………『セイバーに会わせろ』とな?」




そうか…そうだよな?元は俺が彼女を連れて来なければ村の皆は殺されずに済んだはずだ、それを知らなかったとはいえ、全ての元凶の種を蒔いたのは俺だ。ケジメは付けないといけないよな?




「分かりました…俺がケリを付けてくれば良いんです…!?」




俺がそう言い切る前に遠くに居たはずの怨霊の一体が俺に纏わり付いた。




「んなっ…!?」


「セイバー!?」


「安心しろ、メリア殿…そいつには敵意はない、だが…」




俺の体に纏わり付いたソレは、次第に俺の体を侵食していき…やがて俺を包み込む形となった。




「セイバー!?」


「だから安心しろと言っているだろう、そいつなりにやりたい事があるだけに過ぎない…セイバー殿を殺す気は端からないだろう…」


『俺…ここで死ぬのか…?いや、ここは死後の世界…ここで死んだら、魂ごと消え去ってしまう…それだけは避けなくては…それだけは!!』


『セイバー?』




この声はどこかで聞いた事がある…どこか懐かしく、温かみのある声だ…




『元気にしてたか、俺の息子よ?』




この声もどこかで聞いた覚えのある声だ…




『私達の事…覚えてる?』


『お前を一人残して死んでしまって済まないな?』


『そ…その声は…』




そう、見間違える事はない…




『父さん…母さん…』




俺は無我夢中で二人の元へ駆け寄った。そして…




『あぁ…あぁ…(泣)!!』


『セイバー…立派な大人になってくれて嬉しいわ…』


『俺よりも男前になって…お父さんは嬉しいぞ?』


『うぅっ…あぁぁぁ(泣)!!』




俺は二人を思い切り抱き締めた。力いっぱい抱き締めた。何故なら、そこに居たのは俺の両親だったからだ。俺はその瞬間だけ子供に戻った。今まで大人を演じて来て生きてきたから、たまには子供になっても文句は言われないよね?




『セイバー…貴方に頼み事があるの…』


『何…頼み事って…?』




感動の再会に喜ぶ俺に母さんは残酷な頼み事をする。




『お願い…私達の魂を殺して…!』


『え…!?何言ってんだよ、母さん達はもう死んでいる…殺す必要はないはずだよ…?』




俺の純粋な疑問に父さんが答えた。




『残念ながらな…父さん達は村の人間達に魂と引き換えに魔物へと変身させられたんだ』


『魔物…?つまり、さっき俺の視界に映っていた魔物達の正体は…!?』


『あぁ、信じたくない気持ちは分かるが…アレは父さん達の魂をエネルギーに動く亡霊型の魔物だよ』


『最初はね、貴方の様子をここで見る事が出来て幸せだったの…でもね、私達の存在がこの世界に大きな悪影響を与えている事が…もう耐えきれないの、もう転生して新しい人生を生きたいと思ったの、だからね…お願い、私達を殺して!』


『そんな事…出来る訳がないでしょ…』




そう弱音を吐く俺に母さんは強く平手打ちをした。




『…っっ!?』


『セイバー…死ぬ事は人間として犯してはいけない罪よ…でも、この世界…死なないといけない事だって存在する!確かに私達もセイバーの成長をここでずっと見続けたいよ…でも、私達のせいで苦しむ人が居るのが耐えきれないの!なにも生かす事だけが正しい事ではないの、時には殺す事も…この世界にとっても…私達の人生にとっても…正しい事になるの!』


『そ、そんなの弱い奴が言う台詞だ…そんな暴論が正当化される訳がないよ…』




そういう俺に、母さんはこう諭してきた。




『生かす事だけが、恩返しになる訳ではないの!時には、殺す事で恩返しになることだってあるの!私達はもう充分生きた、もう人生に悔いはない!』


『母さん…』


『だから…早く楽になりたいの、これ以上生き永らえるんじゃなくて…新しい人生を、記憶は失うかもしれないけど、新しい自分として生きていきたいの!身勝手な考えだって事は分かっているわ…貴方が一番苦しいはずなのに、こんな残酷なお願い事をしてしまうなんて…私達は親失格ね…』


『そんな事ないよ…寧ろ、何も守る事が出来なかった俺に罪が…』


『貴方に罪はない!悪いのはメリアちゃんにあんな事をさせたあの村の人達よ…!』




母さんがそう言い終えると、後方から…俺の村人達が続々と現れた。




『皆…貴方に申し訳ないと思っているのよ?まだ10歳にも満たない子供にあんな事をさせてしまった、その罪に…ね?』


『皆…』




俺がその光景に絶句していると、俺を虐めていた子供達が俺の目の前に来て、こう口々に話してきた。




『セイバー…お前の事、散々虐めてゴメンな?』


『俺達の仇を取ってくれたんだろう?』


『それなのに、俺達はお前に何も恩を返していない…それでも…』


『俺達の魂を殺してくれ…早く楽になりたいんだ!』


『転生しても、お前の事は忘れないからさ…お願いだ!』


『お前等…』




彼等がそう言い終えると、今度はルルイが俺の目の前に来てこう述べた。




『セイバー君…今まで独りで大変だったね?でも、S級冒険者まで昇り詰めたんだろう?凄い事だよ…おじさんでは到底叶えられない偉業だ』


『ルルイさん…貴方も俺に殺されたいんですか?』


『そうだよ…あの村人達に操られるのは…もう懲り懲りなんだ!』




あ、あの村人達!?まさか、俺が制圧した村の人間がこの事件に関与しているというのか!?




『あぁ、おじさん達はメリアちゃんに殺された後…魂をこの世界に閉じ込められ、死して尚おじさん達を操っていたんだよ?全ては…君を殺す為に…』


『俺を…殺す為に…ですって…!?』


『あぁ、元々…おじさん達の村を襲撃しようとしたきっかけは…君だ、セイバー君』




俺の村をメリアが殲滅したきっかけが…俺!?




『ルルイさん…それは一体どういう事ですか!?』


『お前は…〈奇跡の子〉である可能性があったんだよ…だから、俺達からお前を奪おうとしていた…その最終手段が…』


『メリアさんを使った…あの事件だったんですね…』


『君にもう一度お願いをする…俺達を殺してくれ、そして…アイツ等の魂を…二度とこの世に戻ってこさせないくらいにズタズタに引き裂いてくれぇっ!!』


『ルルイさん…』


『セイバー…これが、私達の意思よ…貴方にまた辛い思いをさせてしまう事は重々承知よ…でも、私達が解放されるには…これしか方法がないの!だからお願い、私達を殺して、アイツ等も殺してくれぇーっ!!』




魂だけでも充分に伝わる慟哭、俺は首を横に振る事が出来なかった。




『本当に良いんだね?』


『えぇ…もう悔いはないわ…その代わりと言っては何だけど、コレを…』




母さんは俺に謎の指輪を手渡してくれた。




『コレがきっと、貴方の助けになるはずよ…セイバー、私達は消えても…貴方を応援しているからね?いつでも私達は貴方の味方よ?』




母さんがそう言い終えると、皆は一つの大きな光の球体になった。なるほど…これが母さん達が捕らわれている元凶か。ごめんなさい、強くなっても俺は人を殺す事しか身に付ける事が出来なかった…母さん、父さん、皆…来世を楽しく生きてください!




『はぁぁぁーっ!!』




俺はその球体目掛けて剣を振るった。


(セイバー、光る球体を真っ二つにする)


(光る球体、光を漏らしながら消えていく)


皆…本当にこんな終わりでよかったの?もっと、良い方法があったはずだよ…何で…何で俺ばかり…こんなに罪を背負わないといけないの?俺は悲しみと自身への無力感が溢れ、涙を流していた…しかし、その感傷に浸る猶予も与えぬままアイツ等が俺に襲い掛かった。




「……………………はっ!?」




俺は咄嗟にその攻撃を回避した。




「母さん、父さん、皆…仇は必ず取ってみせるから!」




俺は気を取り直して奴等との戦いに臨んだ。




「俺が〈奇跡の子〉であろうがそうであるまいが関係ない、俺の大事な人達に手を出した…それが、お前達の罪だ!」


「奪え…奪い尽くせぇー!!」




俺目掛けて数十匹の怨霊型の魔物が襲い掛かった。だが、その攻撃は「万里眼」で視たから予想済みなんだよ!




「『神剣・クロニカル・三の技〈円〉』!」




(魔物達、セイバーの攻撃で魂ごと木っ端微塵にされる)


よし、久し振りにこの技を使ったが、精度は落ちていないみたいだな?その後も、魔物達に一方的に襲われる展開が続いたが、俺はその都度「神剣・クロニカル」で対処した。そして、奴等の数は10にまで減らす事が出来た。




「さぁ…命乞いをするなら今のうちだぜ?」


「フン…流石は〈奇跡の子〉だな?俺達をここまで追い詰めてくれるとは…だが、調子に乗り過ぎたな?俺達をここまで追い詰めたのがお前の運の尽きよ!」




そう言うと、魔物達は合体でもするのか?俺に話し掛けた奴をベースにどんどん吸収されていった。そして、その体はどんどん大きくなり…俺の数百倍はあろう大きさに進化してしまった。




「フハハハハハ!!これが俺達の最終奥義だ、負けを認めるなら今のうちだぜ?」


「そうか…そっちが最終奥義を見せてくれたなら…こちらも最終奥義を見せねば筋違いというものだ…」




俺は右手にダイヤの剣を、左手に変色剣を構え、あの技を同時発動しようとしていた。




「お前は俺達の物だ…喰らえぇ!!」


「俺は誰の物でもねぇ、そもそも、人は物じゃねぇ!人の皮を被る害獣が…俺の技の錆にしてくれる…覚悟しろよ?」




俺は体勢を整え、迫り来る魔物目掛けて突っ込んだ。そして、あの技を放つ…




「『神剣・クロニカル・最終奥義・十の技〈創造・連撃〉』!!」




(セイバーの技で魔物が跡形もなく消し飛ぶ)




「はぁっ…はぁっ…!」




お、終わったのか?奴等の魂は跡形もなく消し飛ばせたみたいだし…それに、最終奥義を左右の剣で発動出来たので良かった…




「セイバー!」




(メリア、セイバーに抱き付く)




「うおぉぉっ!?」


「良かった、生きてて…」


「流石は〈邪王四皇聖〉を二人も討ち取った偉業を成した奴だ、あの程度の魔物等眼中になかった訳だな?」




俺の戦闘が終わった直後にメリアさんとリンさんが俺の元に駆け寄った。そして、リンさんからこう警告された。




「セイバー殿、早くここから出て行った方が良い…早く契約を…」




(空間が揺れ動く)




「おっと、マズいな…空間がセイバー殿を排除せんとしている…」


「じ、じゃぁ…早くその契約とやらを…おぉっ!?」


「そ、その指輪は!?まぁ、良い…手間が省ける…メリア殿、この指輪に手を翳せ…」


「わ、分かった!」




メリアさんがさっき貰った指輪に手を翳すと、彼女の体が俺の指輪に吸い込まれた。




「リ、リンさん!?これは一体…!?」


「悪いが、今はそんな話をしている場合じゃない…それと、団長殿のよろしく伝えておいてくれ、頼んだぞ?」


「リ、リンさ…!?」




俺がそう言い切る前に俺はこの空間から弾き飛ばされた。




 …………………………ここは、何処だ?


「セイバー・クラニカルさん、目が覚めたみたいですね?」




彼女は確か…




「『ミリア・ワールド』さん、また俺をここに呼び出して…目的は何ですか?」


「あぁ、目的と言っても…貴方は知り得る存在になった事を伝える為に呼んだんですけどね?」




し、「知り得る存在」?確か、以前呼ばれた時は「また知るべきじゃない」とかなんとかで情報が全く得られなかったはずだったっけ?今回はそれを知る事が出来るという事か。




「単刀直入に言いましょう…貴方は〈奇跡の子〉という、神々に選ばれし存在です」


「き、〈奇跡の子〉…ですか?それは一体どういう存在なんですか?」


「簡単に言うと…神ではない貴方も神同様の力を行使出来るという事です」




神の力を行使…か。神を見た事がないので、どういう力なのかが全く分からない。




「それと…貴方は私の愛人、サファイアルさんの運命の人でもあります。なので、決して彼の目の前で死なない様に…彼が壊れてしまう恐れがありますので…」




サファイアルさんの運命の人…なんか気になる内容だけど…聞くのが怖い、というより…聞こうとすると、また頭痛が…!?




「あがぁぁっ!?……………ぐうぅぅっ!?」


「はぁ、まだこの話は出来そうにないですね…また今度、さっきの話を詳しく話しましょうか?」


「お、教えてくれ…俺とサファイアルさんは運命の…ぐぅぅっ!?」


「まぁ、@*#+%&@@とでも言っておきましょう。でも、今の貴方には聞こえないので言っても意味は殆どありませんがね…」


「最後に、一つ警告しておきます…何があっても、あの人だけは敵に回してはいけませんよ?」




あ、あの人…?確かノーレルさんも似た様な事を言ってた気が…ぐうぅぅっ!?俺は彼女の顔を必死に見続け、そのまま意識を手放した。




 あれ…?ここは…俺が働いている店の…俺の寝室…という事は、俺は元の世界に帰って来れたんだな?俺は皆に挨拶をしようと起き上がろうとしたが、体が言う事を聞かなかった。またMPが切れたのか?俺はそう思い、「絶眼」で無理矢理体を回復させようとしたが、それでも回復する事はなかった。おかしい…こんなに体にダメージが残る事なんか初めてだぞ?俺は今の状況にアタフタしていると、部屋にノーレルさんが入ってきた。




「セイバー君、良かった…意識が戻ったんですねぇ?」


「ノーレルさん!?」


「はぁ…そんなに大きな声を出せるなら、心配する必要はありんせんね?」


「俺は…元の世界に帰る事が出来たんですね?」


「えぇ、僕っち達がこっちに戻ってから数時間後に意識不明の重体だったセイバー君がミネラルアさんの頭上から降ってきたという展開でっせ?」




ミネラルア…相当ダメージを受けたんだろうな?




「それはさておいて…大変な事が起きましたぜ?」


「大変な事…それは何ですか?」




すると、ノーレルさんは顔色を変えて俺にこう喋った。




「これは世界にとって非常にマズい事態でっせ…サファイアルさんが…」


「サファイアルさんが…?」


「世界を悲しみで包み込もうとしてるんです…」


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