第七章 妖精王と特級魔術師 第二話 妖精王とその愛人、そして、運命の人との再会

サ…サルバン!?あの小さい男の子がサルバンなのか?いやいや、そんな事はどうでも良い…それよりも、何故俺の事を何でも知っている様な口振りを見せているのか?それを聞かなくては…




「サ、サルバンさん?何故に俺の事を知っているんですか?」


「だから、君が僕の仇であるロリアンを倒してくれたからさ?」


「貴方も邪神族に何かを奪われたんですか?」




すると、サルバンは表情を暗くしながらこう語った。




「僕の大事な…サクシャインを汚されたんだ…」


「汚された…ですか…」


「あぁうぅんっ、セイバァ~♡」


「ちょっ、サクシャインさん!?今は大事な話をしてるので、あまりくっ付かれると…」


「んん(怒)?」


「良いではないか、そんなイケずな事言うでないぃ♡」


「つか、何でまだ発情してるのコイツ?おかしいよね、さっき性癖解消マシーンで存分にムラムラは消されたはずなんだけど!?」


「セイバー君…?」


「え!?いや、これは…そのぉ…」




すると、サルバンが鬼の形相で俺に掴み掛ってきた。




「僕の番に手を出すとはどういう思考回路持ってんだ、貴様ぁー!五臓六腑を掻き出してやるぅ…搔き出してやるぅぅぅ!!」


「お、落ち着いてください!これには少し言い辛い事情が…」


「問答無用、覚悟しろ…この同性愛者が!!」




かちーん、もう怒りましたぁー!




「誰が…」


「くたばれぇー!」


「誰が同性愛者じゃ、同性愛者に今すぐ謝れぇーっ!!」




俺は怒りのままに拳をサルバンにぶち込んだ。軽く打ち込んだつもりだったが…


(サルバン、殴られた衝撃で跳ね飛んでいる)




「あ…」


「『あ』じゃありませんよ、全く…例え弱いパンチでも君のレベルになるとかなりの威力に成り得るんですから…」


「き、気を付けます…」




そう俺達が会話している時も、サルバンは四方八方に向けて跳ね飛び続けているのだった。




 あれからどのくらい時間が経ったのだろう…サルバンは全身痣だらけの状態だった。俺が回復魔法を付与しながら彼と話している。




「それで?君は本当にサクシャインに淫乱な事等何もしていないんだね?」


「えぇ、そんな事…あの人とじゃないと出来ませんから…」


「君にも何か辛い出来事があったみたいだね…」




良かった、なんとか誤解は解けたみたいだ。




「ここに来たという事は、僕を探しに来てくれたという事かな?」


「はい、貴方達〈トライデント・キャラバン〉一同はこの島の中心の王都、ミリアから捜索願が出されているんですよ?一体今までここで何をしていたんですか?」




俺がそう聞くと、サルバンはまた表情を暗くしてこう話し始めた。




「何故僕がここに留まり続けているか…それを話すには、まずあの日の出来事から話さないといけないね?」


「あ、『あの日の出来事』…何があったんですか?」


「あぁ、忘れもしないあの日…サクシャインの人格が変わる様な地獄があったんだ」


「じ、人格が変わる!?」


「あぁ、僕達はあの日…盗賊狩りへ赴いていたんだけど…その道中で、ロリアンと出会ったんだ」




そこから彼によって語られたのは、あまりにも唾棄すべき事実だった。




「アイツはサクシャインを凌辱し、その上彼女の人格を奪ったんだ!」


「なんだと…!?」


「アイツは…彼女を見るなり僕達を一掃して、彼女を侵した!番だった僕を目の前にしてだ!あの糞野郎は悶絶する彼女にこう言ったんだ、『お前は俺に愛されて幸せだろう?だから、侵されても当然』とな!」




なるほど、サルバンはロリアンに強い憎悪を抱いていたという事か…しかし、何故この世界に居続けているのかが聞けていない。




「ですが、ここに居座り続ける理由と、ロリアンの一件に何か関係があるんですか?」


「あぁ、アイツはもう一度現世へ生き返ろうとしている」


「なんだと…!?」


「アイツは…僕を目の前にしてこう言ったんだ!『まだ可愛い女の子を愛したい』と、彼女をあんな目に晒しておいて、更に被害者を増やす様な事が許せるかぁ!だから、ここでアイツの魂を消す!だから僕はこの世界に居座り続けているという訳だよ?」




なるほど…つまりは仇が生き返るのを阻止する為にここに居座り続けているという事か…だったら話は早い。




「サルバンさん、ロリアンの居場所を教えてください?」


「え?」


「アイツに貴方の気持ちを伝えた上で、奴には地獄を超えた苦しみを与えてから魂を殺します」


「おぉ…!?」




俺はその時、煮えあがる憎悪に包まれていた。何故なら、敵とはいえ、アイツは良い男だと判断していたからだ。アイツの事を強者として認めていた。だが、その話が真なら…話は変わってくる…将来を共にする事を誓った相手を目の前で凌辱し、更に抵抗しない様に人格をも奪う等言語道断…




「ロリアン…いや、邪神族の名を汚す害獣が、貴様に味あわせてやろう…侵される恐怖を、絶望を!」




俺の良心がこう言っている、アイツを始末しないと…世界がおかしくなると!




 サルバンの案内でロリアンが居座る場所へと向かった。すると、そこで見えたのは何とも不埒な現場だった。


(ロリアン、女の魂を凌辱しようとしている)




「君は俺に愛されて幸せだね?感謝して良いんだよ?」


「ぅぅーっ!?ぅぅー!?」




全く、救い様のない害獣が…楽しんでいる所申し訳ないが、地獄へ誘ってやる!


(セイバー、ロリアンの腹を剣で一刺しする)




「ぐわぁぁっ!?」


「喚くな、害獣の鳴き声など聞きたくない」


「お前は…セイバー!?違うんだ、これには理由が…」




俺の登場にロリアンは動揺しながら言い訳しようとしていた。良いだろう、最期の言葉を聞いてあげようじゃないか?




「理由…?俺の良心を騙したのに理由があるのか?」


「あぁ、俺は本当はこんな事したくはなかったさ!でも、こうしないと強者として顔が立たないと思ったから…」




俺はそう言うロリアンの顔を蹴り抜いた。




「ぐわぁぁっ!?」


「もう良い…お前の理論は分かったよ。聞くだけ無駄だったな?」


「な、何でだよ!?俺達強者は皆の憧れになる様にこうして弱者を支配しないといけない、違うか?」




もう良い、お前はそう言う理論で生きる糞野郎と言う事は充分に分かったよ?そんな理論が俺の良心に通用すると思うなよ?




「お前は強者と言う言葉を履き間違えている」


「えぇ…!?」


「強者と言うのはな、力が強い者を指す言葉じゃねぇんだよ?力が弱くても、皆の為に動く事が出来て初めて強者と呼ばれるんだよ?お前の語る強者と言うのは、力に溺れた貧弱者の事を指すんだよ?」


「そ、そんな理論でこの世界を生きていけると思うなよ!お前だけだよ、そんな下らない理論を掲げているのは…」




(セイバー、ロリアンの心臓を一つずつ突き刺す)




「ぐがぁぁ…っ!?」


「別に良いんだよ…例え俺以外の全員が強者と言う言葉を履き間違えていても、俺がこの心を持ち続けていればきっと世界は少しだけでも変わり始める。一つでも良い、守る事の出来る命がある限り俺は何人も危機から救い出してみせる!」


「それは…楽観者の理論だ…!」


「良いんだよ…別に俺の事を楽観者と呼ばれようが、女の子みたいで気持ち悪いと言われ続けようが、古い考えだと馬鹿にされようが…でもな、何の罪もない関係のない人を壊したり侵したりしようとする事だけは…何があっても許せねぇんだよ?だから、お前は俺の堪忍袋の緒を切ったから死ぬ、それだけだ!」


「グフフフ…だが、いずれお前も後悔する事になるぞ…その考えを持った事自体が間違いだったとな、俺は魂も無くなって死ぬが、ずっと見続けているからな?ハハハハハ…!!」




そう言い切ると、ロリアンの魂は闇の玉になって消えていった。




「地獄へ落ちた証拠だな…奴にとって当然たる末路だな、セイバー君?」


「えぇ、貴方とサクシャインさんの恨みは…俺が晴らしてみせましたよ?」




さて、これでサルバンの恨みは晴れたはず…そして、俺の予想が正しければ…




「サクシャイン…何か気持ちが変わったか?」


「あぁ…わっちは…」




そう、ロリアンが彼女の人格を奪って保持していた場合、彼が魂ごと消えてしまえばその奪われた人格も彼女の元へ戻るはず…




「セイバー殿…申し訳なかった!」


「良いんだよ、人格を奪われていたんだ。そうなったら何をするか分からないのは仕方のない事だよ」


「しかし、お主には散々淫乱な事をしてしまった…わっちにはサルバンという番が居たというのに…」


「良かった…サクシャイン…」


「サルバン殿…お主にも辛い思いをさせてしまったのう…済まなかった、わっちはお主の番失格じゃ!何でもしよう、じゃから許してくれぬか?」


「そんな…謝罪なんか要らないよ、君が元に戻ってくれた事が一番嬉しい事だよ!」


『そう、この二人は幸せにならないといけない…俺みたいに残酷な末路だけは辿って欲しくない、だから…温かく見届けよう!』




よし、これでサルバンの悩み事は無事に解決出来たという事で…しかし…


(サクシャイン、セイバーの尻尾をモフモフしている)




「な…何で俺の尻尾をモフモフしてるのかなぁ~?」


「だって…気持ち良さそうだったからのう…」


「サルバンさん?彼女は元々こんな事する様な人だったのかな?」




すると、サルバンの瞳が俺に明確な殺意を向けてきた。




「セイバァ~…一度までなく二度もサクシャインを誑かせて…」


「ち、違うんですよ!?これは不可抗力というもので…!」


「彼女にエッチな事してもらうのが好きなのか、君はぁー!!」


「お、落ち着いてくださいよ!?俺は何もしていない、彼女が一方的に…」


「そういえば…サクシャインにハグされた罪もまだ裁いていなかったな…?」




あ、マズい…これは非常にマズい事になってきたぞ!?




「妖精王舐めんなよ…?ここで君の腐った性根を根絶してやるぅぅ!!」




そう言うと、サルバンは俺に多数の魔法弾を放ってきた。しかも、全ての弾が当たれば即死級の代物だぞ!?てか、さっき聞き捨てならない事を聞いた気がするんですけど?「妖精王」?つまり、この男の子が妖精族の王様という事になるけど…あの短気さ、容姿、喋り方…全てを取っても妖精王には見えない。いやいや、ちょっと待て、一旦冷静になろう。相手は子供みたいな見た目してるけど、中身は妖精族の王様でしょ?もう駄目だ、絶対勝てないぃ…!




「すみません…ここで一旦気絶してもらいます!」




俺はサルバンの間合いに入り、鳩尾を強く突いた。




「ぐへぇえっ!?」


「さて…これで死傷者は出ずに済みましたね?」


「さぁて、早くここから出ましょう…」




ノーレルさんが俺達にそう声を掛けて来た。




「言っておきますが、この空間に僕っち達生きる者は長く留まる事は出来ませんぜ?ずっとこの場に留まれば…死にますぜ?」




な、何だと!?だったら早くこの世界から出なくては…俺達はノーレルさんが造った大穴で元の世界へ向かおうとした時だった─




「セイバー…顔が見れて良かったよ…チュッ♡」


「え…?貴方は…!?」




その声が聞こえた瞬間、俺は何者かに腕を引っ張られ…




「セイバー君!?私の手を取ってくだ…!?」


「サファイアルさん…ぐぅうっ…!?」




(ノーレルが作った大穴が塞がり、セイバーが取り残される)


しまった、皆と分断されてしまった!何とかしないと俺はここで死に絶えてしまう、早く対処法を探さなくては…俺は頭をフル回転して考えた。しかし、ここには食糧はあるが、脱出する方法がない。暫くは生活に困る事はなさそうだが、このままここで生活する訳にはいかない…なんとか脱出策を練らなくては…




「セイバー?」


「え…何で貴方がここに居るんだ…?」


「フフッ、久し振り♪」




そう、俺に話し掛けて来たのは…




「私の事…ちゃんと覚えてくれていたみたいだね?」




そう、見間違える事はない、俺の最初の愛人、メリアさんだったのだから。


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