外伝 少年が罪を背負う理由 第二話 「強者」とは

 これが、メリアさんとの出会いだ。それからというもの、メリアさんは俺と同様にレベルも上がり、一緒に森へ行ってモンスターを討伐する事も出来た。しかし、そんな俺達を周りの子供達はよくは思わなかったらしく、村を歩いているだけで殴り掛かられたり、刃物を投げてきたり…その横暴の数はもう数えきれないくらい多かった。


「セイバー?あの人達は何で私達を敵視するのかな?」

「それは俺達のレベルが子供にしては高過ぎるからだよ?」

「レベルが高過ぎるだけで敵視するなんて子供だね、レベルが高い子供くらいいくらでも居る気がするけど…」

「それを分からないのが子供だ、俺達は周りより大人びていると考えれば良いんだよ?」

「ふぅーん…」


彼女にはこう説明するしか宥める方法がない。まぁ、彼女が怒るのも仕方がない。だって、毎日この光景を見ていれば誰でも怒髪天を突く。しかし、この怒りの日々からも解放される日はいつか来るだろう。そう、15になった暁にこの村から旅立つ事が出来るのだから。さて、今日もモンスターを倒しまくってレベルを上げるぞ!俺達はいつもの森へと向かった。


 ここでモンスター狩りをするのも日常の一部になってきたな。まぁ、友達が居ない俺にとっては数少なき娯楽の一つだが(リア狂)…


「はぁぁっ!!」


メリアさんと出会うまでは俺が中心として戦っていたが、メリアさんと冒険を共にする様になってからは、俺がメリアさんの戦いの指揮を執る様になった。最初の方はゴブリンを倒すのもやっとだった彼女も、今ではB級のモンスターをも本気を出さずに倒せる様になった。これは、戦いを指導した師匠にとって嬉しい事この上ないよ(嬉)!


「セイバー、早く次のモンスターを倒そうよ?」

「あぁ、メリアさん…美しいよ(小声で)?」

「え(恥)!?」

「………え(焦)?」


あぁー!?何言ってんだ俺ぇー!?この想いは誰にも言わないつもりだったのにぃー!!


「セイバー…?何言ってるの?」

「あ、あぁ!何でもない、何でもない、ホントに何でもないからな(焦)!」


そう、これを見ている皆は気付いているかもしれないが…俺は密かにメリアさんに恋している。だから、前までメリアさんの事を呼び捨てにしていたが、今は出来ないぃっっ!!まぁ、幸い彼女には気付かれていないし、良しとしますか。


「ふぅーん…私は別にセイバーと結ばれても良いんだけど?」

「へっ!?」


すると、メリアさんは俺の耳を一舐め̪し、こう囁いてきた。


「言っとくけど、私にはセイバーしか映ってないから…ね?」

「ち、近いよ、俺達ももう良い齢なんだし…ベタベタするのはあまりよろしくないかと(恥)…」

「えぇ~?もう、セイバーは純粋なんだから…でも、逃がさないからね?」


あ、危ない危ない…危うく俺の心の中の悪魔が目覚める所だった(厨二病)…落ち着け、心を冷静にするんだ、そうだ、羊を数えるんだ、そうすると心が落ち着くはずだ!


「どうしたの?なんか顔が真っ赤っかだけど…」

「うわぁぁ!?だ、大丈夫だから、気にする必要はないから!」

「そうなの?お兄ちゃんの妹として心配だよぉ~?」


一体いつから、彼女はこんなに色気が増してしまったんだろうか?え?まだ体は子供だよね?とても9歳の子供が出せる色気ではない気がするんですけど?なんか俺の息子がビンビンしてモンスター討伐が出来る状態じゃないんだけど?いやいや、一旦冷静になろう。彼女は俺を師匠として見ている、決して男として見ていない、そうだ、きっとそうに決まっている、だからさっきの言葉はからかいだ、きっとそうに決まっている…よし、心が落ち着いた…


「さて、次はA級のモンスターと戦ってもらう…覚悟は出来てるね?」

「うん!だって私、最高に強くて可愛い女だもん!」

「自身が漲っているな…君はまだ伸びしろが多い…だから、今日討伐しろとは言わない。今日は傷を付けられたらそれで…」

「ううん、絶対討伐してみせる!だって、セイバーの将来のお嫁さんだもん、強くならないとセイバーを守れないから…ね?」

「クゥゥーッ!?」


相変わらず嬉しい事言ってくれやがるな、この猫娘ぇー!!まぁ、彼女がやる気満々なのは良い事だ。俺は森の奥へとメリアさんを連れて行った。


 ここが森の最深部、「ゴブリン・オークロード」のが住まう大穴がある場所だ。ここの住処の大将がさっき言った「ゴブリン・オークロード」だ。まぁ、俺は以前に騎士団長と戦っているのでそこまで怖気付いていないが…メリアさんは凄く怖がっていた。


「ここがこの森の主が住まう大穴…今の私にとっては好選手ね?」


いいや、怖がっていたのではなく、武者震いをしていただけだったな。まぁ、流石に彼女一人だと殺される可能性がある為、俺も参戦する。それに、今回はこの森の主を討伐して欲しいとの依頼を受けてもいたので好都合だった。


「行くよ、セイバー!」

「あぁ…でも、力を出し過ぎない様に?ここを壊す訳にはいかないからね?」

「はーい!」


そして、俺達はゴブリン・オークロードの住処を攻略しに中へ突撃した。

(セイバー、正面の扉を蹴破る)


「ゴブリン共、今日は最初で最後の楽しいパーティーの時間だぜぇ!」

「さぁーて、どいつから倒そうかな?」

「ぐぎゃあっ?」

「ぐぅわぁーっ!!」


まぁ、ゴブリンに人間の言葉が通じる訳がないよな?俺達は驚く奴等を駆け抜けながら一体、また一体と討伐していった。


「よし…いつもの動きが出来てる!」


よし、メリアさんの動きに異常はないな?これならここに居る雑魚共はすぐに殲滅出来そうだ。俺達は順調に大穴の奥へと向かって行った。その途中で中ボスと出くわした。


「コイツは…『ゴブリン・メイル』、B級のモンスターだな?」

「だったら私に任せて!」


そう言うと、メリアさんはゴブリン・メイルに正面から突っ込みんだ。対するゴブリン・メイルは呪文を唱え、彼女の周りに魔方陣を展開した。だが、そんなちゃちい魔法如きでメリアさんは倒せないぞ?


「『消去』!」

「グワッ!?」


メリアさんはゴブリン・メイルの魔法陣を「消去」で消し飛ばした。これは俺が教えた秘技だ。もし、即死級の魔法を受けそうになった時に使う事をお勧めした技で、なんと「絶級」レベルの魔法もこれで打ち消す事が出来るらしい。なので、ゴブリン・メイルの「中級」レベルの技なんか彼女には通用しないという事だ。魔方陣を消され、動揺するゴブリン・メイルの首筋に向けてメリアさんは剣を振るった。

(ゴブリン・メイルの首が斬り落とされる)

よし、とりあえず彼女の勝利だな。まぁ、最終的に戦うゴブリン・オークロードと比べればこんな弱いゴブリンなんか準備運動にもならないだろう。


「セイバー、早く行こう!」

「あ…あぁ、でも、警戒しながら進めよ?何が起きるのか分からないのがダンジョンの特性だからな?」

「はーい!」


俺達は警戒しながら穴の更に奥へと向かった。しかし、さっき倒したゴブリン・メイル以外に手応えがあったモンスターは暫く現れなかった。そして、穴の中の最深部まで到達する事が出来た。


「ここが…」

「あぁ、この森の主の居る部屋だな…」


それにしても、ゴブリンが造ったとは思えない程にクオリティーが高いな?もしや、ここは以前人間が使っていた場所だったりするのか?いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。早く目的を達成しないとな?俺はその部屋に続く大扉を押し開けた。


「何だ?こんな所まで来て…死にに来たのか?」


そこには一体のガタイの良いゴブリンが大きな椅子に座っていた。すると次の瞬間─

(ゴブリン・オークロード、メリアに襲い掛かる)

(セイバー、メリアを庇いながら攻撃を避ける)

初めましての挨拶もなしに俺達に襲い掛かって来たのだ。


「おいおい、人の言葉が喋れるのに挨拶もなしか?この無礼者め…」

「侵略者に挨拶など不要、さぁ…かかって来い」

「メリアさん、早く戦闘態勢に…」

「……………」


駄目だ、完全に気絶してるよコレ…まぁ、A級相当だと思っていたけど…まさか進化しているとはな?


「言っておくが、お前に俺は負けない」

「何だと?」

「大事な弟子が体張って戦ったんだ、師匠が戦わずしてその名を語れない!それに、お前には戦士としても心得がなっていない、そんな半端者に俺は負けない!」

「その減らず口…叩き直してくれるわぁ!!」


俺とゴブリン・オークロードは戦闘を始めた。


「ぬぅおおおおお!!」

「はぁあああああ!!」


最初の方は両者互角だったが、途中から俺の力で相手は徐々に押されていった。そして─

(セイバー、ゴブリン・オークロードの心臓を貫く)


「がはぁあっ…!?」

「何が『S級モンスター』だ…ランクアップしたからって調子に乗ってたんじゃないのか?いいか、本当の強者と言うのはな?いつ何時でも己の力に自惚れない、常に向上心を持つ者の事を言うんだ。お前の求めた強者は、力に溺れた者だ。そんな者を俺は強者とは認めない、だって、俺もまだ強者ではないからだ!」

「フッ…俺を倒したぐらいで調子に乗るか…ガクッ…」


こうして、「ゴブリン・オークロード討伐」は無事に遂行出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る