第五章 国王会議 第三話 語られる〈邪神族〉と新たな刺客 

 あれから暫く時間が経って、会議の時間がやってきた。それにしてもだな?フルーリーさんとリーブルさんは顔を見た事があるのでどういう雰囲気を纏っているのかは分かるが、それ以外の国王の顔は初めて見るので纏っているオーラと風格が違う。これが国王所以たるオーラというものか…おっと、ここで怖気付いていては話を聞く事が出来ない。あの話がされるかもしれないのだから…




「今日もこの島は平和…と言いたい所だが、フルーリーよ?」


「おう、何だ?名指しで質問とは珍しいな?」


「お前の国で何やらマズい出来事があったらしいな?」


「『マズい出来事』?もしや〈邪神族〉の精鋭、〈邪王四皇聖〉の一人が復活し、暴走した後に…」


(フルーリー、セイバーを指差す)


「こやつと〈獣仁志・創神〉が討伐した事件の事か?」


(国王達、動揺で騒ぎだす)




おいおい?アレは俺とサファイアルさんと数人しか知らない情報のはずだよ?しかも、きっちり討伐された事も周知されてるってドユコト!?まさかサファイアルさんがリークしたな?




「こやつ…フルーリーの隣に居る…犬耳の少女が功労者か?」


「こやつは女ではない、見た目は完全に女だが、中身はれっきとした男だ」


「それはさておくとして…そこの獣人族よ?」


「はい!」


「お主が〈邪王四皇聖〉を討伐したというのは真か?」


「はい、とどめを刺したのはサファ…いや、〈獣仁志・創神〉様ですが…」




俺がそう答えると、国王達は俺に壮大な拍手を送ってくれた。




「え?その〈邪王四皇聖〉ってそんなに有名な奴等だったんですか?」


「あぁ、君はまだ15歳だったな?なら知らないのも無理はない」


「私達が説明してあげよう」




俺がそう問いを投げると、一人の国王様が〈邪王四皇聖〉について説明してくれた。




「〈邪王四皇聖〉とは、37564年前に封印された〈邪神族〉の精鋭…しかも、〈邪王〉直属の精鋭部隊の事だ。邪神族は一体倒すには人間が束になって戦わないといけないんだ、その時代の人間達は彼等との戦いで手いっぱいだった。しかし、そんな窮地を救ってくれたのが〈獣仁志〉なのだ」


「その一人がサファイアルさんという事か…確かにべらぼうな強さでしたね?」


「お主、〈獣仁志・創神〉と面識があると言っていたが、それは真か?」


「面識があるというか、彼の店で働いています」


「なんと…〈獣仁志・創神〉が店を開く事等…前代未聞の大事件だぞ?」




へぇー…〈獣仁志〉って国王から見ても敬意を示す対象になるんだな…まぁ、彼の全貌を把握した俺から言わせれば特殊性癖者の象徴なんだけどな?




「だから、〈邪王四皇聖〉と互角に戦えるのはこの時代でも一握りの人間しかいない。つまり、君はこの島の機密戦力という事になる。しかも、〈邪王四皇聖〉で一番強いと言われているロリアンと互角に戦えたらしいじゃないか?これは称賛に値する事だぞ?」


「あ、ありがとうございます…」




こうして、俺の〈邪王四皇聖〉討伐の話は終わった。ふぅ…ようやく肩の荷が下りたよ…こういう堅苦しい空間で話をするのは慣れていないから普段の数百倍は疲れる。俺は後の話は適当に聞こうと思ったが、そういう訳にもいかなかった。




「フルーリーの国で〈邪王四皇聖〉が出現したという事は…他の国でも似た様な事件が発生するという事…」


「それは非常にマズい状況ですな、なんとか対策案を出さなければ…」


「そうだ、さっきの冒険者君?」


「はい?」




いきなり話し掛けられたのでびっくりしたが、何だろう、嫌な予感しかしない。




「分身魔法を使って島中の国を守ってはくれないか?」


「良いですけど、精度は落ちますよ?」


「良いの良いの、安全が確保出来ればそれで良いから、ね?」




あのぉ~?俺はサファイアルさんと比べればちゃちい存在なんだよ?そんな奴に頼りきりで恥ずかしいとは思わないのかなぁ~?まぁ、そんな感じで会議は進んでいき、今回も無事に全てが終わる…と、思っていた時だった─


(爆音が走る)




「な、何だ!?今の爆音は!?」


「まさか、モンスターが攻め込んで来たのか!?」




俺も最初はモンスターによる襲撃だと思っていたが、魔力の大きさが普通のモンスターとは違ったので国王達にこう警告した。




「いいえ、この魔力反応は普通のモンスターではありません!」


「という事は、ボス級のモンスターが攻め込んで来たのか?」


「いいえ、この反応は…〈邪王四皇聖〉でしょう」




最初から嫌な予感はしていた。しかし、こんなにも早く他の〈邪王四皇聖〉が登場してくるとは思わなんだ。しかも、単体で乗り込んで来ている訳ではない…ボス級のモンスター達を率いて乗り込んで来ている…しかも、数匹じゃない、数百匹連れて来ている。マズいな、これでは俺とローズが全力を以って相手してもこの町に甚大な被害を出す事になる。せめて、あと一人でも力になってくれる人が居たら…そう思っている時だった─




「そこの強そうな男の娘?アタシが力になってあげても良いわよ?」




だ、誰だ?初対面の相手に対する態度ではないぞ、おい?ていうか、まぁーた獣人族かよ?この物語の登場人物の9割が獣人族なんですけど?人間が絶滅したと思われても仕方ない件について提唱します!




「だ、誰ですか貴方は?」


「よくぞ聞いてくれたわね…アタシは〈トライデント・キャラバン〉のメンバー、『ミネラルア・ネイチャー』よ!よろしくね、〈邪王四皇聖〉を倒した功労者さん?」




おい、こんな所に「探し人」だな、おい?しかし、こんな都合の良い事は他にはない。そう思っていた俺は馬鹿だった。あれ?そういえばスノウのレベルは600前後だった気がする…そして、〈邪神族〉の平均レベルは750くらいだとサファイアルさんが言ってたな?じゃあロリアンは俺より格下だったという事になるが、何でとどめを刺せなかったんだ?もしや〈邪神族〉特有のスキルでも持ってるのか?いやいや、そんな事はどうでも良いんだ。この無礼な栗鼠野郎をどう戦闘で使うか、俺に全てが懸かっている。




「な、何奴か!?」


「あの栗鼠娘は誰が連れて来たんだ!?」




あー…やっぱり誰も知らない人だったのねぇー…仕方あるまい、ここは一つ嘘を吐かせてもらおう。




「あぁ、その馬鹿は俺の付き人です」


「おぉ、そうだったのか」


「つまりはこの子も強いという事か!」


「ちょっ…アタシはアンタとは初対…!?」




よーし、少し黙ろうか?ここで侵入者が現れたとかなってしまえば余計に混乱を招く。なので、ここは俺に付いて来た女の事言っておけば良いだろう。




『いや、アイツ我が真実を見抜ける事忘れてるよねぇー?国王達を前に堂々と嘘吐いているんですけどぉー!?そのメンタル見習いたいわぁー…』




さて、これで戦力の確保は出来た。すみませぇーん、フルーリーさん。貴方にはこの嘘は見抜かれていると思いますが、こういう嘘を吐かないとかえって面倒事が増えるだけなんですよ?




「お兄ちゃん?アイツ等を倒しに行くの?」


「あぁ、罪のない人間達を恐怖に至らしめる害獣だからな?万死に値する!」




俺はローズとミネラルアを連れて魔力反応のあった場所へと赴いた。




 俺達がその場に向かった時には、先客がいた。そう、その先客とは…




「国王様達の命を狙う者は…何が何でも許せない、僕の剣の錆にしてやる!」




この前フルボッコにしたバリカン…じゃなかったバリアン(勇者)が無謀にもモンスター達と交戦していたのだ。おいおい?俺のあの攻撃を受けてたった2週間で完全回復するとは…勇者の回復力には敬意を示すべきだな?




「おーい、バリカン?まさかお前とここで出会うなんて…奇遇だな?」


「名前をいい加減に覚えろ、男の娘セイバー!こういう事を言うのは癪だが、加勢してくれ!流石に僕達だけでは相手しきれない…一人でも気を抜けば、町に被害が及んでしまう!」


「言われなくても、端からそのつもりだよ!」


「行くね、お兄ちゃん!」


「ぶっ飛ばしてやろうじゃない!」




俺達三人はバリカン達が相手しているモンスター達を一気に一掃した。




「す、すげぇ…俺達が苦戦していたアイツ等を…」


「コイツ等本当にただの冒険者か?」


「た、助かったよセイバー殿…だが、本番はここからだ…」




バリカンが指差す方に一人の男が佇んでいた。




「あぁ…久方振りの娑婆だ…こんなにも娑婆の空気は美味しいものだったかな?」


「お兄ちゃん…あの人はもしかして…?」


「もしかしてではない、十中八九…」


「あぁ、自己紹介がまだだったね?セイバー・クラニカル君…僕は『アイマ・アイデンティティ』、君が殺した…ロリアン様の…弟だ(怒)!!」




そう、彼もまたロリアンと同じ〈邪王四皇聖〉だったのだ。まさか、こうも期間が空かないのに、伝説の〈邪王四皇聖〉に二回も遭遇するとは…俺の運は尽きたな?




「ロリアン様は僕にも…他の部下達にも優しくしてくれた先輩の鑑だった…だから僕はロリアン様の力になり続けたいと誓った…でも、君と〈獣仁志・創神〉がロリアン様を殺した!あの人が何をしたというんだ、何故殺されなければならない、君達を…絶対に許せない!!」


「あー…言っとくけど、お前達は37564年前にこの世界を滅ぼそうとしたと聞いているから…危険を排除しただけだよ?」


「危険を…排除…?ふざけるな、君はまだ何も知らない、何故僕達があんな罪を犯す事になったのか、好きで人々を殺した訳じゃない、仕方の無かった事なんだ!」


「うん、分かったけど…それでも、この町を危険に晒す事にはなんも変わりはないから、安心してロリアンの所へ逝け」


「セイバー?コイツと戦うのは少し無謀だよ、だって相手は…」




俺を諭すミネラルアの肩を軽く叩きながら俺はバリカン達にこう言い放った。




「良いか?ここからは神々も怖気付く程に激しい戦いだ。それに、これ以上無駄な血を流す前に俺がここでケリをつける…邪魔するなよ?」


「わ、分かったわ…」


『何なの、コイツのこの殺気は!?獣人族が出せる代物とは思えないわ…』


「お兄ちゃん、無理しないでね?」


「あぁ、いざとなったらお前達を連れて逃げるから」


「セイバーよ、僕以外の奴に負けたら許さないからな?必ず勝って来いよ?」


「全戦全敗のお前が言っても説得力皆無だな…安心しろ、目の前のコイツなんか眼中にない!」


「なぁっ…!?」




そう、今の俺からしたらアイマの事など眼中にない。何故なら、〈邪王四皇聖〉筆頭だったロリアンと互角に戦えたからだ。もし、アイマの実力がロリアン以下だと仮定するなら、今の俺には勝機しかないという事になる。




「さぁ、アイマよ?全身全霊を以って俺を楽しませろよ?」


「ぼ…僕を愚弄するか、人間よ(怒)!僕をコケにした報い、きっちり払ってもらうぞ!」




アイマはそう言うと、装備を外してから筋肉が肥大化させた。




「これが僕の全てだ!」


「面白い、こうならないと戦いは楽しめない♪」




ネルヴィンさん、貴方が戦闘時に性格が一変する理由が分かる気がしますよ?さぁ、〈邪王四皇聖〉の力、存分に味あわせろ!


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