第四章 「無」の少女と「真面目」な囚人 第四話 セイバー、初めての奴隷との出会い
あれから数日の時が過ぎた。ネルヴィンは看守達の聴取を終え、無事に無罪放免された。そんな彼をサファイアルさんは店員として受け入れてくれたらしく、3日前からコックとして働いている。サクシャインにネルヴィンという貴重な料理人を確保出来て良かったと思っている。これで深刻な料理人不足問題を解決する事が出来た。そう言った事があって現在、俺は13人のホールスタッフを率いる「ホールスタッフ長」を勤めている。今日もお客さんがたくさん来てくれてありがたいかつ懐的に嬉しい。しかし、その分忙しいので大変だ。そして、午前中の作業が終わった時だ。冒険者ギルドから連絡が入った。
『セイバーさん、今日はお仕事中と聞いたので連絡式でお伝えしますね?』
「はい。それで、今回はどう言った御用件でしょうか?」
『セイバーさんは先日「魔王討伐」のクエストを達成されたと思いますが、そのクリア報酬としてお伝えした金貨全額と、ランクアップを贈呈します』
ランクアップか…今までは「Bランク」だったからその一つ上の「Aランク」になるのか?なんか、新人冒険者らしからぬ成績を残しているな?
『セイバーさんの冒険者ランクは今から「Sランク」になります、おめでとうございます!』
「え、『Sランク』!?一気に2ランクアップもして良いんですか!?」
『はい。そして、記念としてライアナ国王とギルド長と面談をする事になりましたので、三日後に冒険者ギルド2階の応接室に来てください』
「は、はい…分かりました」
はぁ…ギルド長ならまだ良いけど、国王様とも面談か…緊張で頭が固まりそうだなぁ…?だって俺、数ヶ月前までただの村人だったんだよ?そんな人がいきなり国王と対面でもしたら緊張で別の香が香ってくるわ。まぁ、三日後だしそこまで気を張らなくても大丈夫だろう。そう思い俺は午後の仕事に取り掛かるのだった。
三日後、俺は言われた通り冒険者ギルドの応接室で待っていた。それにしても、初めてこの建物の2階に来たが、随分と綺麗に掃除されているな?1階と雰囲気が全然違う…なんか余計に緊張して来たぁ!あ、マズいな。ケツから別の香が香って来た。
「セイバーさん、お待たせしました」
「君がセイバー・クラニカル君だね?私がこの町の冒険者ギルド長の『リリアン・ベルセウス』だ」
「『ベルセウス』…ハーディーさんの兄弟ですか?」
「あぁ、ハーディーの兄貴にあたるな?」
リリアンさんと軽い会話を重ねていると、彼の後ろからもう一つ人影が現れた。
「お主がセイバー・クラニカルか?」
「は、はい!」
「我は『スルーリー・ライアナ』、この王都の王だ。よろしくな?」
「は、はい!よろしくお願いします!」
流石は国王…リリアンさんと覇気が違う!これが国の頂点に立つ者のオーラ…凄まじい事この上ないです!
「お主には要件がある」
「と、言いますと?」
「実は近くにこの島中の国王が集結する『国王会議』というものが開かれる。無論、我もそれに向かう。それでだ、セイバーよ?」
「はい!」
「その会議に賛同してもらいたいのだ、我の警護役としてな?」
け、警護役…俺にそんな仕事が出来るのだろうか?仮にも俺はまだSランクになりたての新米冒険者だぞ?そんな奴にこんな大きな仕事を任せて平気なのだろうか?
「お主はレベルを低く表示しておるな?」
「え?」
「我の『万里眼』を以ってすれば真のレベルを見抜く事等容易だ。レベル1150…神話レベルの化け物じゃな!面白い…」
や、やっぱりレベルの秘密を守り切るのは難しいか…しかも俺と同じ『万里眼』持ちとは、そりゃ見破られる訳だ。この人に嘘は吐けそうにない…
「しかも、お主の仲間達も化け物揃いだしな?特にサファイアルという〈獣仁志・創神〉の称号を持つ者は特にすさまじい力を持っておる…今度会わせてはくれないか?」
「い、良いですけど…あの人は貴方に何をするか分かりませんよ?」
「と言うと?」
そして俺は、今までサファイアルさんにされてきた事を全て話した。すると、スルーリー国王は俺の肩をポンポンと叩きこう話した。
「セイバーよ、その苦痛を味わって尚生き続けるお主の心意気、感動した!やはりお主を連れて行く事にデメリットは生じないみたいだな?」
「あ、ありがとうございます!」
という訳で、俺はスルーリー国王の警護役として「国王会議」に向かう事になった。これは一応サファイアルさん達に報告した方が良いかな?
面談を終えて俺は店まで帰っていた。その時、不思議な物を目にした。薄暗い裏路地に人がたむろしている…何か大変面白い物でも見せられているのか?俺は気になったのでそこに向かった。
「一体何を見ているんですか?」
「おう、姉ちゃん?奴隷を見せているんだよ?」
「奴隷…あまり詳しくないから教えてくれませんか?」
「奴隷を知らないとは不思議な人だな?簡単に言うと、家から捨てられたりした子供を対象に貴族に売る為に首輪と手錠を付けて販売する、それが奴隷だ」
なるほど、要するに用済みになった子供を討って稼ぐ仕事を「奴隷」というのか。
「お?この子は幾らで売ってるんだ?」
俺の目に留まったのは藍色の髪と犬耳、ふさふさとした尻尾を持った美女だった。
「あぁ、この子は銀貨10枚で売ってるぞ?」
「正気か、アンタァー!?破産すっぞぉー!?」
「良いの良いの、だって獣人族は時代遅れであまり高値で売れないからさ?」
「そうですか…ならこの子を貰いましょう」
「銀貨10枚だよ、持ってるのかい?」
「すまん、銀貨がないから金貨で代用してもらう」
「良いのかい?金貨は貴重じゃ…」
「依頼で余る程持ってるから気にするな、それじゃ頂くぞ?」
俺は奴隷商から藍色の美女を受け取った。さて、手に入れたは良いが…完全に怯えているよ?そりゃそうだろうな、だっていきなり奴隷にされた上に「万里眼」で見て分かったが、この子は酷い虐待を受けていたらしい…可哀想に、ウチで優しく面倒を見てあげるからな?俺は彼女を連れて店まで帰った。
店に着いたが、まだ怯えているな…まずは、俺が敵でない事を示すしかないか。
「えっと、まだ自己紹介がまだだったな?」
「ヒィッ…はい…」
「俺はセイバー・クラニカル、普通の冒険者だ。君の名前は何て言うのかな?」
「私には…名前がありません…あの…私を…虐めないでください!」
やはりその言葉が出て来るか…仕方ないか、だって彼女の人生を考えればそうした考えに至るのも分かる。だからこそ、彼女の問いの答えは決まっている。
「大丈夫、俺は君にそんな事はしない。もう苦しむ必要はないんだよ?」
「うっ…うぅっ…」
そう嗚咽を漏らすと、彼女は俺に抱き付き、泣き始めた。俺は泣く彼女の頭を優しく撫でてあげた。すると、嬉しそうに尻尾が揺れた。そういえば、俺も訳あって犬の獣人族の姿だが、尻尾や耳に感触はない…あれ?なんか感触を感じる?しかも、これ付け耳と付け尻尾だから取れるはず…あれ?取れない?何で!?
「御主人様?どうしたんですか?」
「い、いや?少し気になる所があって…」
何で取れないの?これは偽物だよね?俺がアタフタとしていると、そこにサファイアルさんがやって来た。すると、サファイアルさんは全て分かっていたかのようにこう説明した。
「セイバー君に付けたソレは、付けると一生取れない作りになってます。つまり、君は一生獣人族として生きるしか道はないんです」
「なぁーにしてくれやがんだアンタはぁー!?勝手に人様の種族を変更するとはどういう料簡だ貴様ぁー!!極刑だ貴様ぁ…極刑だ貴様ぁぁぁ!!」
俺は怒りの感情のままサファイアルさんを剣を持ったまま追い掛けた。サファイアルさんは途中で「すみません!」と言っていたがそんな事は関係ねぇ、お前には極度の地獄を味わってもらう!
「『神剣・クロニカル・最終奥義〈創造【クラニカル】〉』!!」
「…………え!?」
俺の攻撃でサファイアルさんごと辺りを消し飛ばした。
「ふぅ…これでお相子ですぜ?」
「あ…あぁ…怖いよぉ…」
おっと、まだあの子を宥めている途中だった。俺はさっきの女性の元へ戻り、抱き付いて来たのでまた頭を撫でてあげた。
「クゥ~ン♡」
「よしよし…怖くないからなぁ~?」
「セイバー?」
「その子は一体どうしたミャウ?」
「わっちより長く抱き付くとは…わっちも混ぜろぉ~!」
俺の背中にサクシャインが抱き付いて来た。全く、前からも後ろからも抱き付かれて身動きが取れないな…おっと、また怖がっている…仕方ないか、俺以外の全員が彼女とは初対面だからな?えっと、皆にこの子の紹介を…そういえば名前がないって言ってたし、名前を付けてやらないと…そうだな…よし、この名前にしよう!
「おーい?」
「ん?何ですか、御主人様?」
「今から君に名前を付ける、今日から君の名前は『ローズ・クラニカル』だ、いいね?あと、俺の事は『御主人様』じゃなくて『お兄ちゃん』か『兄さん』で呼ぶ様に、『御主人様』と呼ばれたら奴隷と主の関係になってしまうし、何より落ち着かないからな?」
「は、はい!分かりました、御主…お兄ちゃん!」
クゥーッ!?良い響きだ、これは!まさか俺に妹が出来るとは(勝手にそう思っているだけで血は繋がっていません)、驚き桃の木山椒の木だよ!いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。問題はローズをどうするかについてだ。サファイアルさんは俺が木っ端微塵にしたから…
「ふぅーっ、死ぬかと思いましたよ…セイバー君の本気の一撃を受ける事になろうとは…私は何もしていないのに」
「いや、しっかりと悪い事してたよ!俺の人種を勝手に変えやがっただろうが!」
「その子をウチで面倒見たいんでしょう?良いですよ、人手は多いに越した事はありませんし…」
「あっさりと承諾したよこの人…良いんですか?この子はまだ人が怖くて仕方がないんですよ、今のままだと接客は勿論の事会話すらロクに出来ないんですよ?」
「大丈夫です、料理人として働いてもらうので」
「ローズ?君は料理は作った事はあるかい?」
「何回かあるよ?まぁ、自身はないけど」
「だったら決まりですね!」
ほ、本当にあっさりと決まったな。という訳でウチでローズが働く事になった。しかし、もう一つ問題が残っている。それは、俺は暫く「国王会議」で店を離れる事になる。その間ローズはどうするのかについてだ。まぁ、明日国王に会って話すしかないか。そういう訳でローズのレベルを見てみた。すると、俺の目に飛び込んで来たのは驚異的なステータスだった。
○ローズ・クラニカル
●レベル:850
●ステータス
・HP:55284
・MP:9850
・物理攻撃力:85423
・物理防御力:1050
・魔法攻撃力:75854
・魔法防御力:985
HPや攻撃力、防御力は俺には劣る物の、MPは俺の倍以上あるじゃないか!?しかもレベルがサルタ達を優に超えている。まさかここにも逸材がいたとは…もしかしたら彼女も連れて行けるかもしれない。
その夜。俺の部屋にはサクシャインとローズが居た。サクシャインはいつも俺と寝ないと落ち着かないからこうして俺に抱き付いているが、今日は二人きりで寝る訳ではない。何故なら、一人で寝るのが怖いローズが居るからだ。仕方ないだろう、彼女は元・奴隷だ。一人で過ごすのがどれだけ怖いか、俺にほ到底想像出来ない。だから、こうして添い寝させてあげているという訳だ。こうすればローズも落ち着くはずだし、偽りの兄妹だがこうしてあげるのも兄としての仕事だ。
「でも、本当に良いの、お兄ちゃん?こんなに汚い私と一緒に寝て…」
「汚くなんかないさ?さっき風呂で全身洗ってあげただろう?」
「大丈夫じゃよ、セイバー殿は優しい。お主の事を大事に思っておるからこうしてあげているんじゃ。遠慮はいらん、存分に甘え給え!」
「それ言ってる奴も存分に抱き付いているんですけどね?」
しかし、ローズは齢が齢なので…発情してもおかしくはない。結果、俺の耳をしゃぶりながら抱き付いて来た。まぁ、暫くは許そう。そうでもしないと彼女の為にならないしな?そんな感じで今晩も長い夜を過ごしました。
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