第四章 「無」の少女と「真面目」な囚人 第三話 「真面目で最強」な囚人v.s「最強の付与」をされし者
俺達が魔王討伐に向かおうとした時だった。目の前から猛スピードでボーダー柄の服を着た男がこちらに走って来たのだ。しかも、ただ走っているだけではなさそうだ。彼の後ろからたくさんのガタイの良い男が走って来ている。あれ?あの服装、後方に居る男達…完全に刑務所から脱獄してきた奴にしか思えないんですけど?つまり、ここはスルーするのが善作だろう。俺は完全にスルーするつもりでいたが、サファイアルさん達が案の定余計なお世話を焼き始めた。
「ど、どうしたんですか?ただの被害者ではなさそうですね?」
「あ、アイツ等をどうにかしてくれ!僕は無実なのにムショに入れられたんだ、だったら逃げる、それの何が悪い事なんだ!」
「アンタの言い分は分かったが、無実と証明する証拠はあるのか?」
「そんなの今すぐ用意出来る訳がないだろ!そもそも、僕が罪を犯した証拠もないんだ!」
「いやぁ…初聞だからどうすれば良いのか全く分からないが…」
「いや、彼は嘘は吐いていないみたいですよ?私の『万里眼』で分かりました」
サファイアルさんがそう言い終えると同時に後方に居た男達が囚人の男をひっ捕らえた。まぁ、普通に考えればそうなるだろうな?だって、立派な「脱獄」だもんな?
「捕まえたぞ、この極悪人めが!」
「俺達から逃げようとは…随分と舐めて見られたみたいだな?」
「ぐへへ…たっぷり可愛がってあげるからねぇ?」
「ひぃぃっ!?ここで捕まって堪るか、こうなったら僕の全てを見せてやる!」
そう言うと、囚人の男はリーチの長い鉈をアイテムボックスから取り出し、なりふり構わず振り回し始めた。
「ぐわぁーっ!?」
「いぐうぅっ!?」
あーぁ、恐らく吹き飛ばされた男達は「看守」と呼ばれる人達だからあの行為は色々と問題を引き起こしかねないな…しかも、ただ吹き飛ばしているだけじゃなくてしっかりと斬り付けていますからね?これは非常に重い罪になるだろうな…
「お、落ち着くミャウネルヴィン!」
「そ、そうじゃ!その攻撃を続ければ本当に有罪になってしまうぞ!」
え?ネルヴィン…あ、あの囚人の男が〈トライデント・キャラバン〉のメンバー、「ネルヴィン・レルリアム」なの!?予定ではこのクエストを攻略してから探しに行こうと思っていたのに、まさかこんな形で出会う事になるなんて…人生何が起こるか分からないものですな?
「え!?コ、コイツが〈トライデント・キャラバン〉のメンバーの『ネルヴィン・レルリアム』なのか!?」
「何で看守であるアンタ等もその事実を把握していないんだよ、監獄に突っ込む時に囚人の情報はきちんと聞いておくのが当たり前じゃない訳!?何で全員が全員『初見ですぅー』みたいなリアクション取ってるんですか!?」
「だ、だって…コイツ、口を割らないから…」
「そこは意地でも問い詰めるのが看守のポリシーじゃないんですか、何、最近の時代の流れに合わせて看守のポリシーも変化を遂げたんですか?これを作ってる作者の時代は令和だけど、こっちの世界は日本で言う所の江戸時代なのぉー!まだ看守としての立場を利用して悪い事するのがまだ許される時代なのぉー!!」
「それもそうだな…しかし、ネルヴィンの事について一つ不可解な事があるんだよな?」
「…というと?」
看守の男の一人が重い口を割り始めた。
「コイツが監獄に収監される事になった理由…つまりは『罪』の内容が全く伝えられていないんだ」
「へぇー、でも収監するしか術はなかったんでしょ?」
「あぁ、だから苦労したよ…」
「だったら、僕の口から直接言った方が良いかな?」
俺と看守の男がそう会話していると、さっきまで鉈を振り回していたネルヴィンがこちらへ話しながら向かって来た。
「何故僕が収監される事になったかって?理由は一つ…『虐待』さ?」
「ぎ、虐待?」
「ネルヴィンよ、それと収監された事と何か関係しているのか?」
「うん。さっきも言ったけど、僕は何も法に触れる事はしていない。でも、僕の両親はとんでもなく悪い事をしているんだ」
「な、何だと!?つまり、お前は両親に濡れ衣を着させられたという事か!」
「うん。監獄に収監されると聞いて正直絶望したよ。でも、看守の皆さんの方が僕に優しく接してくれた。とても居心地が良かったよ…だからずっとその中に居たかった。でも、僕の刑務期間はもうすぐ終わる。だから脱走して時間を稼ぎたかったんだ…身勝手な考えだって事は分かってる、でも…怖いんだ…また家に帰ったら意味のない暴力に遭うって考えただけで悪寒が…」
「ネルヴィン…お前の知っている両親の罪を全て聞かせろ?俺達がそいつ等を地獄の底に叩き落としてやる!」
「看守Aさん…」
「お世話になってる人にその呼び方は良くないと思いますぅー!」
ま…まぁ、そんな訳で「ネルヴィン脱獄」事件はこれで解決、かな?全く、魔王討伐という大事な任務を前にしてこんな大物と出会うなんて思わなかったな。しかし、ネルヴィンはまだ俺に用があるらしい…
「君がセイバー君だね?噂は聞いているよ、新人冒険者にしてはあまりにも強過ぎるっていう事で有名だから…」
「そ、それはありがたい事なのかな?でも、貴方もこの島一の実力を持つ〈トライデント・キャラバン〉のメンバーでしょ?まるで貴方の方が格下みたいな言い方ですね?」
「格下…か?だったら提案なんだけど、僕と手合わせしないかい?」
手合わせか…今はあまり体力を使いたくない所なんだけど、この人も食い下がるつもりは欠片もなさそうだし…仕方ない、受けようじゃないか。
「でも、何の報酬もなしで戦うのは嫌だろ?だから…互いに何かを賭けようじゃないか?」
「賭けか…だったら、俺は〈万物の道具〉のうちの一つの技を貴方に継承しましょう」
「〈万物の道具〉か…それは是非とも手に入れたいね?だったら僕は、ストックの魔眼を一つプレゼントしよう!」
「いや、俺、もう魔眼を8つ持ってて空きがないので…」
「いやいや、一割の確率で第九の目が宿ると言われているからさ?もしかしたらそれを見れるかもしれないと思ってね?」
「ち、ちなみに…それが宿らなかった場合はどうなるんです?」
「あぁ、失明するらしい!」
「ハイリスク過ぎんだろ、そんな危険な賭けに賭ける程俺はギャンブラーじゃねぇわ!」
「まぁ、報酬はそういう事にして…」
そう言うと、ネルヴィンはさっきのリーチの長い鉈を構えて戦闘姿勢に入った。
「僕はいつでも始めて良い準備は出来てるよ?」
「やはりその武器で来るんですね?だったら俺は、この『変色剣』で相手しますよ?」
「その剣は…しかも真っ白だ。その色に染まった剣は驚異的な硬度を誇っていると聞く…これは少々骨が折れそうだ!」
そして、俺とネルヴィンの決闘が始まった。俺はまず、ネルヴィンのレベルを見てみた。
○ネルヴィン・レルリアム
●レベル:1050
なるほど、スノウ達より強いという事か。だったら、多少乱暴しても良さそうだな?俺は自身を中心に特大サイズの魔法陣を展開した。これは炎属性と風属性を融合させた俺オリジナルの絶級魔法だ。
「ほう…その年齢でこんな大きな魔法を使えるとは、だったら…僕も…いや、俺も全力を出すまでだぁー!」
一人称が変わったのか?俺がそんな事を思っていると、ネルヴィンも特大サイズの魔法陣を展開した。まさか、彼も絶級魔法を使う事が出来るのか!?しかし、威力や範囲が同じなら俺の魔法で打ち消す事が出来る。そう思った時だった─
「これで、どうだ♪」
なんと彼はさっき展開した魔法陣と同じサイズの魔法陣を20個も展開したのだ!何という魔力量…これは、ロリアン戦の時と同じ戦闘スタイルを取らないといけないみたいだな?俺は全魔力を消費して〈万物の道具〉全種を装備した。こうでもしないと、引き分けにすらなりそうにないし。そして、俺は魔方陣と共に〈万物の道具〉を発動する準備をしていた。
「それが〈万物の道具〉か♪見るだけでやばそ~だなぁ~?でも、俺の魔力の籠った鉈もなかなかヤバいぜぇ~?」
そう言うと、ネルヴィンは鉈に魔力を籠め始めた。なるほど、それにも魔力が籠められているのか…ますます死ぬ気で戦わないといけないじゃないか?もう、どうなっても知りませんからね!
「〈万物の道具・全装備・全出力『全攻撃【フル・アタック】』〉&『炎属性・絶級』・『風属性・絶級』、『合技・炎風陣【フレイム・テンペスト】』!!」
「喰らえぇっ♪『飛び交う斬撃【フライング・スラッシュ】』!」
俺の技とネルヴィンの技がぶつかり合った。その威力は凄まじく、周囲に激しい激風を齎した。
「ネ、ネルヴィンとほぼ互角に渡り合ってるミャウ…」
「ネ、ネルヴィンさんってそんなに強いの?」
「そうじゃな。強さでいうと、わっち達のパーティーで二番目の強さを持っておる」
「二番目…という事は、彼よりも強い力を持つ者が居るという事ですかね?」
「うん、その人はサファイアルさん以上の力を持っているのかもしれません」
「ほほう、私を超える力…ですか。是非会ってみたいですね?」
技がぶつかり合う度に周囲の木々はへし折れ、地面は抉れ、人は吹き飛ばされ…サファイアルさんのお陰で吹き飛ばされずに済んでいるみたいだな?だったら、全力を出し尽くせる!
「はぁぁぁ!!」
「何だ?まだ何か隠してやがったのかぁ?」
そう、俺はまだ隠し技があるんだ。そう、それは‥ロリアンとの戦いに使ったあの技だ!
「『神剣・クロニカル・最終奥義・十の技〈創造【クラニカル】〉』!!」
「こ、こんな高威力の技…まともに喰らったら…!?」
俺の渾身の技がネルヴィンにクリーンヒットした。彼の体に命中するだけなら全然良いが、残念ながらそうはならなかった。どうやら技を放つ際に姿勢が傾いていたらしく、軌道が少しずれてしまった。その結果、奥の方へと斬撃が届いていき…見えなくなる所まで飛んでいってしまった。
「あらぁー?これは少しマズい状況になったんじゃないか?」
「大丈夫ですよ、その方角には魔王城しかありませんし…」
「魔王城…ちょっと待った、という事は…あのまま威力が下がらないまま斬撃が走った場合…」
「魔王城が消し飛びますね?」
はい、ミッションクリアー!という訳で、魔王城の様子を見てみましょうか?俺はサファイアルさんの魔法の鏡で魔王城の様子を見る事にした。すると、魔王城の正面門に向かって一筋の光が走って来ているではないか。しかも、威力は下がる事を知らないのか?物凄い威力とスピードで走って来ている。
「魔王様、何やら強い光がこちらに向かって走って来ています!」
「大丈夫じゃ、ただの光に過ぎぬ。用心し過ぎじゃぞ?」
うわー…魔王様なんか優しそうな雰囲気を纏ってらっしゃる。なんか勝手に横暴を働く人だと勘違いしててすみません。こんな人を討伐するなんて出来ないよ…しかし、彼ももうすぐで死ぬ事になるんだけどね?そして、暫くしないうちに魔王城は俺の斬撃波で跡形もなく消し飛びました。あっれれー?おかしいなぁ~?魔王ってこんなに簡単に倒せる存在だったっけ?
「それは君のレベルが高過ぎるからですよ?魔王のレベルは高くても500と言われていますからね?」
「つまりレベル1150の俺の敵ではないという事ですね?」
「そうです!」
「貴方にチートを付与してもらって正解でしたね?」
「セ…セイバー君…?」
おっと、そういえばネルヴィンと戦っていたんだった。彼は無事だろうか?そう思った俺は彼の元へ走った。すると、そこに居た彼は服がボロボロの状態だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だよ?服がボロボロになっただけだし…でも、もう一人の僕を打ち倒すなんて流石だね?この勝負は僕の負けだよ」
も、「もう一人の僕」?もしやこの人多重人格なのか?
「多重人格なんですか?」
「いいや、戦いに集中すると真の僕が登場するというか…覚醒とでも言った方が良いかな?」
「覚醒…ていうか、レベル1050って凄いですね?」
「君もレベル1150じゃないか、君も凄い事には変わりはないよ?」
という訳で、魔王討伐は意外な形で終了するのだった。いやぁー…まさか流れ弾で魔王を倒せるとは思わなかったな?魔王様、御愁傷様です。
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