第四章 「無」の少女と「真面目」な囚人 第一話 魔王討伐と謎の少女

 あの後、俺はランガをサファイアルさん達に紹介した。サファイアルさんは受け入れてくれたが、スノウとサルタは完全に何かしらの敵意に満ち満ちていた。はぁ…何とか仲良くなってくれたら良いんだけど?まぁ、今日はそんな事は忘れて…


(セイバー、メイド服に着替える)




「バリバリ働くぞぉー!」




今日から四日間は仕事だぁー!休みはあっという間だったな…トラブルにしか巻き込まれていないけどねぇーっ!でもでも、この店にいれば大抵のトラブルは避ける事が出来る。ていうか、この服装トラブルの元凶になり得ません?しかも、この恰好をしてるのは俺だけだからね?男としてのプライドを全て踏み潰しにかかっているからね、分かる?まぁ、サファイアルさんが何を企んでいるか全く分からないけど、今は大人しく従うしかないよね?はっきり言ってブラック過ぎる待遇なんですけどね?




「セイバー君、もう始業時間は過ぎてますよぉー?」


「は、はーい…」




サファイアルさん…こっちは疲労困憊状態なの、ゆっくりと体を休めていた訳じゃないのぉー!しかし、この店は時給が高い。時給金貨60枚って…依頼成功報酬より高いじゃないか!?てっきり俺はサファイアルさんの有り金が多いのかと思っていたが、店を始める前からそれなりに稼いでいたらしく、その影響で貯蓄額が高くなっていたらしい。その上、この店の売り上げはかなり高く、一日で金貨500枚分売り上げを稼いでいる。クエスト報酬よりも多い額を貰っているじゃないか!?儲け、儲け、儲け儲け!金が止まらねぇー!!という訳で今日も俺は仕事に打ち込む。




 四日後、俺は自分の部屋のベッドでぐったりと倒れていた。理由は大きく二つある。一つ目はランガの職務態度だ。まぁ、まだ働き始めて日が浅いから仕事を覚えらえないのは仕方ないが、サルタ達との関係が問題なのだ。ここで、話を分かり易く進める為にサルタとスノウ、ランガのレベルを表示しておく。


・サルタ:レベル561


・スノウ:レベル559


・ランガ:レベル560


といった感じだ。では、本題に戻ろう。三人のレベルはほぼ同レベルなので…よくマウントを取りたがる。例えば、見るからに貴族って感じの男が来店すると、三人はオーダーを争う。それを俺が拳骨で抑えてから俺がオーダーを受け付ける。その貴族の人も少々驚きを隠せない様子だったな…他にも「私が一番だ」という事を証明したいのか、こんな感じで乙女の争いが勃発しまくっている。その度に俺とサファイアルさんで止めに入っている。しかも、毎回毎回お偉いさんの前でそんな事をする羽目になるので肝が冷える冷える!そのせいで肝がキンキンに冷えて体力が底を着いたという訳だ。二つ目は皆さん周知のアレだ。そう、俺の制服だ。今も着ているけど、完全に「男の娘」だよね!?こんな醜態晒す予定はなかったはずだよ、サファイアルさん!?俺がアンタに何か悪い事でもしたかなぁ!?しかも、お客様に対する二人称が「御主人様」って…世紀の黒歴史だぞ、おい?まぁ、そんな訳で絶賛疲労困憊中という訳だ。今日はもう部屋でゆっくりくつろぐとしよう。その方が体の為だ…俺がもう一眠りしようとした時だった─


(冒険者ギルドから通信魔法で連絡が入る)


何だよ、もう…こっちはいつも暇な訳じゃないのに…まぁ、これを無視したらエライ事に成り得るから聞くだけ聞いてみるかぁ…俺はペンダントを取る為に疲労で言う事を聞かない体を動かした。




『あっ、セイバーさんですか!緊急で参加して欲しいクエストがあるんです!』


「すみません、今日は体の調子が悪いので…」


『「魔王討伐」という重大なクエストですので、報酬は金貨450枚でしたが…体の調子が悪いなら仕方ないです…』


「い、行きます!今すぐ行きます!」


『そ、そうですか!助かります!』




そう言い終えると通信は切れた。なるほど、「魔王討伐」か…なかなか面白そうなクエストだな?おぉっ、体に力が漲って来たぁ!




「クエストに向かうのだろう?我も連れて行け!」


「私も!」


「僕も!」


「良いけど、ちゃんと装備は整えてから行く様に!」


「「「はーい!」」」




何だろう、この三人を見ていると村で世話になった長老の孫娘三人組を思い出すな…あぁ、懐かしいなぁ…まぁ、三人が付いて来てくれる事はとても有り難い事だが…三人もレベルがな…平均レベル560だし。まぁ、俺のレベルもレベルだが。冒険者の中に「鑑定眼」を持っている奴が居たら問題になる…そうなったらどうするものか?




「だったら、私も付いて行きましょうか?どうせ今日から三日間は店休日にしていますし」


「サファイアルさん、良いんですか?ですが、貴方のレベルも問題では?」


「その問題なら安心して下さい、私のレベルは『∞』ですので!」


「よっぽど問題だわ、測定不能とか言われて周りから変な目で見られるだけだわ!」




はぁ…まぁ、この人が居れば大抵の問題は解決出来るだろう。だが、一つ問題がある。クエストに出発するのは良いが、その間店はどうするのか?留守にしている間に空き巣にでも遭ったらどうするのだろうか、それが不安で仕方がない。




「あぁ、それなら…『エリア・バキューム』で店を収納すれば良いだけの話です」


「随分と都合の良い流れですね?それが出来る時点で『驚き桃の木山椒の木』ですよ?」




まぁ、これで問題は解決出来た訳だし…とりあえず冒険者ギルドへ向かうとしますか!俺はサファイアルさんとランガ、スノウとサルタを連れて冒険者ギルドへと足を運んだ。




 俺達が冒険者ギルドの建物内に入ると、同時に周りが騒がしくなった。まぁ、これも想定の範囲内なんですけどね?実を言うと、冒険者ランクが短期間で上がったのだ。最初は一番下の「Fランク」だったのだが、最初の「謎の森の洋館攻略」と「真紅の森の大妖狐討伐」のクエスト成功により一気に「Bランク」まで上げる事が出来た訳だ。その結果、俺は周りから一目置かれる存在になった訳だ。




「おい、アイツは最近噂のセイバーじゃねぇか?」


「『Aランク』のクエストを二つも攻略した奴か!?」


「見た目は華凛な男の娘なのに…」


「てか、何でメイド服で登場してるんだ?」




メ、メイド服?いやいや、ちゃんと着替えてきたから…俺は自分の服装を見た時、絶望に染まった。なんと、メイド服の上にダイヤの装備を付けて来ていたのだ。あれ?おっかしぃーな?ちゃんと着替えてからここに来たはずなんだけど?




「あぁ、私が強制的にメイド服に着替えさせました」


「なぁーにしてんのアンタァー!?人様の黒歴史を重版するんじゃねぇよ、そのうちアンタにも仕返ししてやるからな!」




はぁ…サファイアルさんは生粋のド変態なのかな?そのくらい行動が常識から逸脱している。まぁ、ぶっちゃけメイド服は動き易いから戦闘で支障はない訳だけど…とりあえず、俺は受け付けの方へと向かった。




「どうも、先程は御連絡ありがとうございます」


「あ、セイバーさん!お待ちしておりましたよ」


「今回はこの四人もクエストに同行してもらうつもりですが、大丈夫でしょうか?」


「はい、構いませんよ?一応、身分を証明する物を見せてもらえれば…」




そう言われ、俺は昨日作ったサファイアルさん達の冒険者カードを受け付けの人に見せた。すると、受け付けの人の顔色が一瞬で真っ青になった。あ、もしやコイツ等…レベルをそのまま表記したな?あーもう、常識的に考えてレベル560とか書かないだろう普通?レベル的には神クラスだぞ、おい?




「こ…ここ…このレベルは一体…!?スノウさん・レベル559、サルタさん・レベル561、ランガさん・レベル560,そそそそ、そして、サファイアルさん・レベル∞!?こ、これは一体どういう事ですか!?」


「あぁー、コイツ等少しイキリな所がありまして、そのぉ~?レベルをかさましているんですよ?」


「なっ…真のレベルを書いただけだが!?」


「そそ、こういう所も直してもらいたいんですよねぇ~?」


「ちょっと、僕達を雑魚みたいに扱うの止めるミャウ!」


「はいはい、イキらないの。早く強くなりたいんでちゅよねぇ~?」


「ミャウッ!?お前…あとから血祭りにあげてやるミャウ?」


「と‥まぁ、こんな奴等なんでそこまで気にする必要はないですよ?」


「そ、そうですか…」




危ない危ない…危うく国家秘密戦力になる所だった。いや、その職に就いたら毎日相当な報酬を受け取れるのだろうけど?今はそんなにお金に困っていないし、まだその職に就くのはまだ早い気がする。おっと、大事な事を聞きそびれてしまう所だった。今回のクエストに関して一つ疑問点があるんだった。




「今回のクエストは魔王を討伐する事になってますが、勇者はどうしたんです?」


「あぁ、勇者様ならどこぞの力自慢の冒険者によってボコボコにされ、現在入院中ですよ?」




あぁ、そういえば俺がK.Oしたんだった。まさか、本当に奴が勇者だったとは…てか、勇者より強い冒険者って我ながら何だよ!まぁ、良い。疑問は晴れた。勇者の代わりに強い冒険者達で魔王を討伐しろ、そう言いたいらしい。という事は、サファイアルさん達を連れて来て正解だったという事だ。まぁ、レベルの件についてはあとからしっかり問いただすけど?という訳で、俺達は魔王討伐に向けて着々と準備をするのだった。




 「スノウ様…私に黙ってこんな所に居るなんて、許せまじ!」


セイバー達の背後に謎の少女が現れた。この少女が後に大きな事件の中心となる事をセイバー達はまだ知る由もないのだった。


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