第三章 森の妖狐と妖艶な少女 第三話 狂った鍛冶師と訳アリの大妖狐
本当に凄いなコレは…どれも相当手が籠められて作られている。これが匠の技…感服しましたぁ…!
「んん…見た目は犬系の獣人族の女の子って感じだが、中身は男みたいだな?」
「え、俺が男だって分かるんですか?」
「あぁ、分かるさ?ボロボロとはいえ、重い鉄の剣を片手で持ちながら歩いているんだ…その筋力は屈強な男そのものだろう?」
良かった、初めて第一印象で男だと言ってもらえた!それはさておくとして…まだ自己紹介をしていなかったな?
「えっと、まだこの店の名前も聞いていませんでしたね?俺はセイバー・クラニカル、普通の人間です」
「『普通の人間』?ガハハハ!!」
「な、何がおかしいんですか?」
「レベル1150をどう見れば普通になるんだ、レベルを隠しているつもりだが、俺の目は騙せないぜ?」
「まさか、『千里眼』を持っているんですか!?」
「いいや、勘だ。顔を見ればソイツの事は大体分かる」
ま、マジかよ…勘でレベルを見破られるとかあります?これでも悟られない様に必死で隠していたんですけど?
「俺の名は『ザクロ・ロデア』、ここでは有名な防具鍛冶だ、よろしくな…って!?」
「ど、どうかしたんですか!?」
ザクロさんは俺を見るなりこう続けた。
「セイバー…お前のその瞳、まさか魔眼8つ持ちか!?これは、面白い剣が見れるかもしれねぇぞ♪」
え?魔眼の所有数って目で見て分かる物なんですか?驚き桃の木山椒の木なんですけど?そ、それより…さっき「面白い剣が…」どうとか言ってたけど、魔眼の数で剣に変化が現れる物なのか?
「と、とりあえず…剣を提供してくれるって事で良いんですか?」
「あぁ、とびっきりの上物を贈呈してやる!」
そう言うと、ザクロさんは俺を居間まで案内して、更に奥の部屋に籠もってしまった。ま
さか今から作るのか!?嬉しいけど、早く森に行きたいから結構ですぅー!
「出来たぞ!」
「早っ!?」
なんと、たった数分で剣を作り上げたというのだ。これはライアナのあの人も驚きだろう。まぁ、どうせ適当に作っただろうから刃こぼれが激しいんだろうな?そう思い、俺は作られた剣を見てみると…
「おわぁ…凄く綺麗な色だ…」
なんとも綺麗な銀色の剣が俺の目の前に出て来た。これをたった数分で作るとは…まさに神業だな!しかし、ザクロさん曰く、これで完成という訳じゃないみたいだ。
「セイバー、その剣を握ってみろ?」
「握る…ですか?」
剣を握って何かが変わるのか?俺はそう思いながら、作った剣を握ってみた。すると、剣先が銀色から透き通る程の白色へと変わったのだ。これは、伝説の「変色剣」!?まさか実物をこの目で見る事が出来るとは…俺は感動していたが、ザクロさんは違った。なんかめっちゃ怒ってるんですけど、何で!?
「俺は…俺は…お前の髪みたいな綺麗な金色の剣が見れると思ったのにぃ…クソォーッ!?」
そう叫ぶと、ザクロさんは俺に飛び掛かり、四の字固めを決めてきた。
「痛い痛い!?落ち着いてくださいよ、貴方幾つですか!?」
「45だ!」
「もうすぐでアラフィフじゃないですか!?いい齢してこんな子供みたいな事して恥ずかしいとは思わないんですか!?」
「思わん!!」
ま、マジかよ…この人心が幼過ぎる…まだサクシャインの方が可愛く見えてきたわ!しかし、俺もここで黙って固められる訳にもいかない。早くクエストをクリアせねば…
「ザクロさん?早く離してください?」
俺は微量の殺気をザクロさんに向けた。すると、ザクロさんは顔色を変えて俺から距離を取った。よし、これでクエストに向かえる。俺が店から出ようとした時だった…
「セイバー、その剣を折ったら…分かるな(怨)?」
「ヒィッ!?」
な、何だあのオーラは!?俺の持つ殺意とは違った威圧感を感じたんですけど、ザクロさんは戦士でも冒険者でもないのにあのオーラをどこで会得したのやら?まぁ、大丈夫。折らなきゃ良いだけの話だから!俺はザクロさんに感謝の言葉を送って店をあとにした。
ここが「真紅の森」…名前の通り真っ赤だな?そこら辺にある草が赤く染まるのはまだ想定の範囲内だったが、鬱蒼としている木々までもが真っ赤に染まっているとは想定の範囲を超えていた。まさか、全体的に目が痛くなる様なレイアウトの森になっているとは…でも、色以外は普通の森とは変わらないし…何とかなるでしょ!俺は森へと足を踏み入れた。
すると、早速魔物が俺の目の前に現れた。なんだ、普通の森とそう対して変わらないじゃないか?俺は魔物に視線を合わせた時だった─
(魔物の色が真っ赤だった)
「ぎぃぃぃやぁああああああああ!?」
な、何なんだあの食欲や自律神経を低下させる魔物の色は!?見てるだけで吐き気が止まらないんですけどぉー!?いやいや、一旦冷静になろう。相手は色は気持ち悪いけどただの雑魚モンスターだ、気に病む必要はない!俺はザクロさんから作って貰った剣で魔物を斬り裂いた。しかし、ここからが更に地獄だった…何故なら、倒した魔物から出て来たのは黄色い血、気持ち悪過ぎにも程があるだろ!?おっと、マズいマズイ…このままだと俺の口からもう一人の自分が生まれてしまう!俺はその衝動を抑えてドロップ品を回収し、奴等の亡き骸が消えるのを待ってからその場を立ち去るのだった。
あれから森に入って暫くの時間が経過した。魔物の色や噴出物の色にも耐性が付いたし、レベルも良い感じに上がったし…あとはこの森の主である大妖狐を討伐するだけだが、奴の姿が全く見当たらない。かれこれこの森の隅から隅まで探索したが、奴の痕跡すら見つからない。おかしい、あの掲示板であんなに大々的に募集されていたんだ。そんな奴自身の痕跡が何一つも見つからないのはおかしい話だ。俺は念の為、森をもう一回探索した。もしかしたら、サファイアルさんの館みたいにある条件を満たせば出て来る可能性があるかもしれない…俺は可能性に期待して探索した。その結果、森の中にあるにしては人造過ぎる道を発見した。
「やっと見つけた…これが主の居る場へと続く道…進むしか道はない!」
俺は一筋の希望を胸にその道を突き進んだ。それにしても、これは自然に出来た道か?どう見ても人間が造った道にしか見えないが…もしやこの森の主も人によって作られたのか?疑問点はたくさんあるが、今はこの道を進んで主を倒さなければならない。
そうして俺が道なりに進んで暫く経った頃だ。俺の視界に大きな物体が入って来た…しかも、大きな象よりも大きい…まさかコイツがこの森の主?俺は奴に気付かれない様に背後に回り、奇襲を仕掛けた。
「…!!」
「ん…!?」
俺の奇襲は成功した。俺の攻撃で奴の体は分断され、討伐成功と思ったが…
(魔物の体が再生する)
なるほど、簡単には討伐出来ない仕様になってる訳か…まぁ良い、そうならなきゃ楽しくないからな?俺は本気度10%で奴へ突っ込んだ。
「グッ…ちょこまかと、鬱陶しい奴だ…だったら、我の特大魔法で吹き飛ばすだけだ!」
俺が奴の体に少しずつダメージを与え、傷が少し深くなった時だった。奴が何やらヤバそうな魔法を唱え始めたのだ。見た感じ、特大魔法…しかし、そんなちゃちい魔法如きで俺を葬る事等出来まい。俺は敢えて防御結界を展開せず、生身で奴の攻撃を受ける事にした。
「何をしている…まさかと思うが、我の攻撃を生身で受けるとでも言うのか?」
「あぁ、お前の実力では俺に傷一つ付ける事も出来ないからな?せめてもの情けだ」
「そうか…そんなに我に殺されたいのか…そんなに我が弱く見えるか…我を怒らせること
が楽しいか…思い上がりも良い所だぞ、獣の子よ!!」
奴がそう言い放つと、奴の口から凄まじい光線が放たれた。なるほど、これが奴の全力か。やはり想定の範囲内だ。ロリアンと比べればまだ可愛い攻撃だな?俺は奴が放った光線を
小指で弾き返してみせた。
「なっ…何だと!?我の全力の攻撃を小指で弾き返すだと!?」
「だから言ったろ、お前の実力では俺に傷一つ付ける事も出来ないって?」
「う、噓だ噓だ噓だぁー!だったら連続で放てば良い!」
俺の実力を悟って奴はドラゴンみたいに光線を連発した。しかし、技の一つ一つが低レベルなので回数が多くなった所で特に問題は発生しない。俺は連続で襲ってくる光線を全て小指で弾き返してみせた。
「何故だ…何故なんだ!?何故我の攻撃が全く通用しないんだ!?」
「だからさ、お前の実力では俺に傷一つ付ける事も出来ないって?何回説明すれば分かるんだよ?」
「だったら、自爆攻撃で我ごとお前を葬る!」
すると、奴は体内から凄まじいエネルギーを放出し出した。どうやら、本気で自爆するらしい。まぁ、そんな事しても俺を殺せないけどね?俺はある魔法を奴の体に打ち込んだ。
(大妖狐の体から魔力が抜けていく)
「あれ?体から魔力が抜けていく…!?」
雑魚モンスターとはいえ、こんな所で自爆されたら自然系に大きな影響を与えるだろう。それだけは避けたかったので、俺は奴の体に「封印・魔法」を打ち込んだのだ。それに、俺は奴を殺しに来た訳ではないのだから。
「ぐうっ…殺すなら殺せ!」
「言っておくが、俺はお前を殺す気はない」
「何だと?だったら我を奴隷にし、淫らな事をさせるのか?」
「いや、そんな放送出来ない様な事はしないから…」
「だったらどうするというのだ?」
「お前、人の姿に変化する事が出来るか?」
「出来るが…それがどうしたというのだ?」
俺が思っている事はこうだ。奴はここで殺すと正直損しかしない気がする。そりゃ討伐依頼が来ていたのだから、相当悪い事をしていたとは思う。だが、俺には遠く及ばないとは言え、相当の実力を持っている。コイツを有効活用しないと勿体ない事この上ない…その有効活用とは、コイツもウチの店の働き手になってもらうという事だ。まぁ、腕が良いかどうかは分からないままだが…殺すよりも何十倍も有効的だと思う。俺がそんな事を考えていると、大妖狐は人間の姿に変化した。
「こ、これで良いのか?」
「あぁ、良いぞ。おっと、一つ聞くがその姿をずっと維持する事は出来るか?」
「出来るぞ?寧ろこの姿の方が魔力の消費も抑えられるし、何より動き易いからな?」
「だったらウチで働けるな?」
「は、『働く』?まさか我に重労働を課すとでも言うのか!?」
「いいや、ウチは工場じゃないからそんな作業はさせないぞ?」
「そ、そうか…いやいや、そもそもの話、何故我を殺さない?我は人間の敵、殺すのは義務ではないのか!?」
「いやいや、今の姿を見たら殺す気が完全に失せるだろ?それに、罪は消えないけど償う事は出来る」
「そ、そうか…我なりの解釈だが、お前は我を仲間にしたい…で合ってるか?」
「あぁ、そうだ。だが、一つ気になる事がある」
「何だ?」
そう、コイツは討伐依頼がされる程酷い事をして来たと言われてきたが、どのくらい酷い事をして来たのかが分からない以上どうする事も出来ない。まぁ、俗に言う「事情聴取」って言うヤツだな?
「お前には討伐依頼がされている、という事はよっぽど悪い事をしたという事になるが、見た感じそんな悪い事をしてきた奴には見えん。だから聞きたい、お前は過去にどんな悪い事をしたんだ?」
すると、大妖狐は恥ずかしがりながらこう答えてきた。
「そうだな、我は悪い事をしてきた。だが、人を殺したりはしていない」
「じゃあ何をしたんだ?」
「その前に、お互い名前を名乗っていないから少し話しにくいだろう?だから一応名乗っておく、我は『ランガ・ベルセルク』、今年で1250になる大妖狐だ」
「俺は『セイバー・クラニカル』普通の人間だ」
すると、ランガはいきなり笑い出した。
「に、人間…プククッ、笑わせる…お主の見た目は完全に獣の子だろう?」
「まぁ、誰かさんに体を改造されたと言いますか…まぁ、元々は人間なんです」
「か、改造!?誰がそんな人格を踏みにじる様な真似をしたんだ!?」
「ランガ…まぁ、その人とはもう少ししたら会えるから」
「う、うむ…」
えー、ここでランガの罪について聞きたいが、尺的に長くなりそうなのでまた次回紹介します。
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