第三章 森の妖狐と妖艶な少女 第二話 セイバーの休日(普通じゃありません)

カラカラになったスノウをふやかし、俺は二日目の休日を過ごしていた。まぁ、普通に暮らすなら部屋でゆっくりしたり、外に出て買い物を楽しんだり…休日とはそういう娯楽を楽しむのが普通だ。だが、俺は違う。俺は常に自分を鍛えるのがモットーなので、こうした休日でも鍛錬…いや、クエスト攻略とでも言っておこうか。それをしないと体が落ち着かない仕様になっているんだ。だから今日もこうして冒険者ギルドに行ってクエストを熟しているという訳だ…え、生活が寂しいって?う・る・さ・い・な・!仕方ないだろ、だって女と遊びたくても俺は女が苦手だし、何なら毎日サクシャインにあんな事やこんな事をされてるし!サクシャインの一件で胃がもたれそうだからこうした生活の方が体には良いのぉー!!


「さて、久し振りに手応えがある依頼はないかなぁ~?」


最近は大量の雑魚モンスターを掃除する程度の依頼しか受けてなかったし、久し振りに楽しめる様な依頼が来て欲しいものだよ…


「おっ…?」


俺のある依頼に目が向いた。どれどれ…「真紅の森の大妖狐討伐」、か…これは少し楽しめる依頼だな?しかし、指定の場所がここからだいぶ離れてるな?まぁ、「瞬間移動【テレポート】」で移動すれば良いだけの話なんだけど。しかし、指定レベルが「150」か…今の俺のレベルだと余裕で通りそうだが、普通の人間目線で考えれば話は違ってくる。しかも、この王都に居るのはほぼ全員が新人冒険者ばかりだ。そんな町でこの難易度の依頼が降りるとは…これは号外ニュース以外の何物でもないぞ?しかし、今の俺のレベルを以ってすればどうとした事もない。俺はその依頼を受ける為に受け付けへ向かおうとした時だった。


「おい、その依頼は僕が受ける為に掲示されてたんだぞ?それを僕の目の前で奪うとは、おこがましいぞ獣人族?」


何だ?この見るからに上から目線で自己中心的な考えしか持ち合わせていない男は?なんか変な因縁付けて来そうで怖いです。


「おい、何か言ったらどうだ?」


「勇者『バリアン』様がお前みたいな下等な獣人族に語り掛けてくださっているんだぞ?言葉を返すのが義務だろう?」


うわぁー…「The面倒人」だな、この人達。関わるだけ損だから早く視界から消えよう、俺はその場から立ち去ろうとしたが、既に俺は数人の冒険者に囲まれていた。


「チッ…」


「い、今、僕に舌打ちをしたな!?この身の程知らずが…おい、コイツとその依頼を例の場所へ連れて行け!」


「「「「「「はっ!!」」」」」」


えー…何だよ全く、完全にとばっちりじゃん。俺はただ依頼を受けようとしただけなのに。そういえば、さっき「勇者」が何とか言ってたけど…つまりはコイツは相当な手練れ、よし、いい準備運動になりそうだ!俺はウキウキしながら勇者を名乗る男達に連行されるのだった。




 おぉ…ボロイ!勇者とかいう珍しい職業だったからもっと豪勢な館にでも住んでいるのかと思ったら、まさかのボロ屋敷!期待外れとは正しくこの事を言うのだろう…こんな家なんかに住んでてあの態度か…俺の店の方がまだ豪勢だよ?


「貴様、名を何という?」


おいおい、まだ上から目線で物を言っているのか?見てるだけで目が痛い…普通はそっちから名乗るのが筋って物だろう?


「さっきから妙に上から目線だな?勇者というのはそんなに偉い御身分なのか?」


「き、貴様ぁー!?僕に対してその口の利き方はなんだ!もう怒ったぞ、お前達…この薄汚い獣をコテンパンにしてやれ!」


「「「「「「はっ!!」」」」」」


おいおい?脅し方が子供そのものだぞ…しかも、ちょっと意見しただけなのにあんなに顔を真っ赤にしているとか、マジで草しか生えないんですけどぉ~?てか、勇者を名乗る男は見た目は屈強そうに見えるが、中身が全然雑魚い。そして、俺に襲い掛かる男達もまた雑魚い。ここは手を抜いて相手をするべきだろうが、あんなに高慢的になっているんだ、実力の差を見せてその性根を叩き直してやらねばな…?


「お前達は一つ勘違いをしている…一体いつから、俺が『ただの獣人族の男』だと思っていたのかな?」


「…!?」


(セイバー、襲い掛かる男達の顔を粉砕する)


「これが俺の全てだ…思い上がるなよ、人間が…」


「なっ…!?僕の最強の仲間達が…たった一撃で…!?」


今の現状に驚いている勇者に俺は最後の警告を促す。


「手を引くなら今の内だ。言っておくが、俺はお前を数秒で再起不能にする自信があるんだ?ここで大人しく依頼を俺に渡し、これ以上俺に関わるな、分かったな?」


しかし、度胸だけはあるのか…勇者は俺の警告を無視して剣で俺を振り払った。


「ぼ、僕は勇者だ!貴様なんかに戦う事なくして負ける事なんか、到底許される事じゃない!」


「ほう…では、その意思に敬意を示して、俺の名を名乗ろう?俺はセイバー・クラニカル、人造の獣人族だ」


「セイバー・クラニカル…下民にしては素晴らしい名前じゃないか?まぁ、僕の名前と比べればゴミだけどな!」


「えーっと、確か『バリカン』だったっけ?」


「『バリアン』だ!なに髪を切る時に使う道具の名前と勘違いしてんだ、貴様ぁ!」


「おっと、すまない。お前みたいに眼中にない人間の名前なんか覚える必要はないと思ってな?」


俺がそう挑発すると、勇者バリカンは雑な剣の構え方のまま俺に突っ込んできた。


「き、貴様ぁー!僕を愚弄するのもいい加減にしろよ、僕の剣の錆にしてやるぅー!」


「遅いな…」


(セイバー、バリアンの剣撃を躱し、バリアンの腹に強烈な蹴りをぶち込む)


「かはぁっ…!?」


おいおい、たった一撃与えただけでそんなに血を吐くなんて…喜劇はここからだというのに…苦しんでいる所申し訳ないが、もう少し準備運動をさせてくれ?


「ほっ、はっ、ていやっ、とう!」


「グヘェッ、カパアァ、ベリョン、クエパァアッ!?」


さて、ようやく体も温まってきたし…ここからが俺の全てだ。しかも、この俺に喧嘩を売ったんだ、それ相応の対価を払わねば筋違いだろう?


「『神剣・クロニカル・一の技〈斬・七連〉』!」


「早っ…!?」


俺は剣先ではなく、柄の方でバリカンの体を叩いた。理由は一つだ、殺さない為だ。


「グエェエッ!?」


全く、これでも全力の1000分の1しか力を出していないというのに…多量の吐瀉物を曝け出している。これが勇者か…期待外れだったな?


「さて、もう分かっただろ?」


(セイバー、バリアンの髪を掴み上げる)


「ヒィッ!?」


「大人しく依頼を俺によこせ、さもないと今から殺す」


「わ、分かりましたぁ!?」


はぁ、例え勇者でも所詮はただの人間。サファイアルさんと比べれば小さな生き物でしかないんだな?まぁ、準備運動にはなったし、今からその「真紅の森」へと向かいますか。俺は「瞬間移動」を使い、森の近くの村まで移動した。


「い、今…奴が消えた…のか?………クソッ、貴様の名前と顔、覚えたぞ小僧!次会った時こそ、本気で貴様を壊す!」




 とりあえず、近くの村まで移動する事は成功した。このまま森へと向かうのも良いが、一つ気掛かりな事がある。それは、防具は何も問題はないが、問題は武器だ。今まではこのボロボロの鉄の剣を使っていたが、もうじき寿命が尽きる…しかし、王都で貰ったダイヤの剣を使うのは少し抵抗がある。理由は何か勿体ないから!はぁ、何か手っ取り早く武器を入手する方法はないのやら?


「おい、兄ちゃん?」


俺が考え事をしていると、目の前にある建物から男の声がした。そして、その声はまだ続く。


「見た所、武器がないと悩んでいるんだろ?ここに来たという事は、あの森へ行くんだろ?だったらそのぼろぼろなてつのけんは使えねぇな、それに、その新品のダイヤの剣には何一つ能力が付与されていない…どっちも使えないって事だ」


剣に能力…?あの声の主にはそんな事が分かるのか?俺は気になったので声がした建物へと入った。すると、俺を待ち受けていたのは…


(建物の中が剣だらけになっている)


おぉ…物凄い剣が飾られている。ライアナの装備店でもこんなにたくさんの剣は飾られていないぞ?


「おう、いらっしゃい?」


その店内に居たのは、サングラスを掛けたおじさんだった。


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