第三章 森の妖狐と妖艶な少女 第一話 エッチなあの子と無知なその子

「いらっしゃいませぇー、ご来店ありがとうございます!」


あの戦いの日から数日が過ぎた。今、俺は何をしているかと言うと…


「はい、三名様テーブル席ですね?」


新しくオープンした飲食店で働いている。役職はホールスタッフリーダーといった所だろうか?いやいや、まさかこの役職を任されるとは思わなんだ…お陰で毎日が充実していますよ。特に開店初日が大変だったな…一日でお客さんが500人も来たんだもん。大盛況でしたよ?はぁ…しかも、開店初日は戦闘でかなり体力を消費したから余計に疲れた。お陰で体力がマイナスになったもん。まぁ、今日は皆ちゃんと仕事をしているから大丈夫だけど…開店初日は俺以外の皆は何やっても上手くいかない状態だったので、ほぼ俺一人で店を切り盛りしていた。全く、サファイアルさんが仕事のマニュアルとかを作っていればあんな事にはならなかったはずだよ?でも、スノウの友人は悪気があってあんな失敗をした訳ではないので怒ったりはしなかったけど…ホールスタッフの方は何も問題はないが、キッチンスタッフの数は明らかに足りていない。キッチンスタッフにはサファイアルさんを含め、三人しか居ないのだ。この状態を放置したままだといずれ問題が発生する。こうなったら新たな人材確保に向かいますか!しかし、今日も仕事で忙しいのでまた明日に冒険者ギルドに求人票を貼りに行くか。そんな事を思いながら俺は今日も日誌を付ける。




 翌日、今日はシフトでは休みなのでとりあえず求人票を何枚か貼りに行った。なるべく料理が上手な人を中心に募集しますか…俺は目的を終えて店へと帰ろうとした時だった。


「おぉ~う♪セイバーちゃあ~ん?」


「な、何ですか?そんな気持ち悪い顔で俺を見ないでください」


「今から俺達と遊ばなぁ~い?」


「流石ヤスさん、貴重な美少女ゲット♬」


な、何なんだこの人達は?俺を見るなり遊びに勧誘するとは…しかも、その人達の恰好が何と言うか「深夜でも元気でぇーす☆」とでも言わんばかりの超絶クソダルパリピそのものなんですけど?まぁ、ここは冷静にあしらうとしますか。


「言っておきますが、仕事以外でのサービスはお断りですので今回は帰ってください」


「そんな固い事言わないでさぁ~?良いじゃんか、ちょっとだけだよぉ~?」


「後悔させないよ?」


あぁ、これを俗に言う「ナンパ」か。聞いたりした事はあるけど実物を目の前で見るとかなり厄介だな…断ってもしつこく粘着してくるし。そもそも、俺は「男の娘」って公表しているのに…普通は逆でしょ?気持ち悪いとか言われて距離を取るよね、普通は。


「口で断ってるうちに帰った方が貴方達の為ですよ?」


俺は微量の殺気を彼等に放った。すると、パリピ達の顔色が一気に悪くなり、一目散に逃げていった。全く、休みの度にこうしたナンパに遭遇する…それもこれも全て…男としてのプライドを破壊する様な行為を強制するサファイアル、アイツのせいだぁー!!まぁ、従業員として働く以上、ある程度は言う事を聞かないといけないのは当然の事だけど。でもさぁ?お客様の事を…「御主人様」って呼ばないといけないのはおかしいと思いませんかぁー!?お陰で男としての威厳とプライドが底辺に落ちましたよぉー!?まぁ、俺以外のスタッフが全員そうしないといけないならまだ分かるけどさ?おかしいよ、だって、俺だけそうしろと言われたんだもん!こんなの立場の横暴以外の何物でもないよ、早くこの問題は解決に導かないと…流石に俺でもいずれメンタルが崩壊する未来しか見えないぃ!しかし、今日を含めて3日間はそんな地獄の事を忘れる事が出来る。さぁて、まずは手始めにゴブリンを100体討伐しますか!俺はそう思い、冒険者ギルドへ向かった。




 中に入ると、たくさんの冒険者達がある場所に集結していた。有名人でもやって来たのか?気になった俺はそこへ向かうと、なんとそこに居たのは…


「あぁ、リーダーよ…一体どこへ行ってしまったというのじゃ…わっちは悲しいぞ、別れの挨拶もなしに突然わっちの目の前から消えてしまうとは…おぉ~ん!!」


な、何で悲しんでいる女性を皆は観覧しているんだ?見た所、人探しをしている女性にしか見えないが…まぁ、気になる点があるとすれば…猫耳の獣人族だという事だけ。それ以外は特に気にする所が見当たらない。俺は疑問に思い、周りの冒険者達に声を掛けてみた。


「あ、あの?何でこの人に視線が集まっているんですか?」


「あぁ?そんなの決まっているだろう…美しいからだ!」


う、美しい?確かに綺麗な服を着用しているが、それだけでこんなに人は集まらないぞ、普通は。


「ど、どこが美しいんですか?」


「坊主?分からないのか…だが、いずれ分かる時が来るだろうよ?」


「おじさん達が解説してあげよう!」


か、解説…しかもこの俺の見た目を見て男だと判断するあたり、極度の女性発情者!


「まずは何と言っても、露出度の高い衣服!」


「こんなに見るだけでウハウハする事なんか滅多にないぜ!」


ろ、露出度が高いねぇ…男とはこういう恰好を見て発情する者なのか?俺にとって女性とは分からない事が多過ぎるのでこうした感情を抱く事が出来ないからなぁ…しかも、俺の周りには比較的女性がたくさん居るし…正直見飽きてきたとしか言い様がないんだよな。


「続いては大きなお〇ぱい!」


「急に下ネタ入れるの止めてくださいよ、そのワードが全国のテレビで放送出来る訳がないでしょ!」


「アレは恐らくG以上はあるな…かぁーっ、一回で良いから揉みてぇ!」


おいおい、「見た目はおっさん、中身は子供」かお前等は?てか「G」って何!?恐らくは何かしらのサイズを示す物だろうけど、俺みたいな純粋無垢な男子には到底理解が出来ない仕様になっております!てか、そのワードを聞くだけだと害虫のアイツしか想像出来ませーん!!


「そして何と言っても魅力的なのは…」


「魅力的…気になりますね?」


「猫耳の獣人族である事だ!」


「……………はい?」


「男にとってケモ耳は正義、象徴そのものだ!」


「あんなに綺麗な猫耳は見た事がねぇ!触りてぇ、早く触りてぇよ!!」


うわぁー…そんな事でこんなに人がここに集中してたとでも言いたいの?馬鹿らしい事この上ないんですけど?俺が知らないだけで男ってこんなに気持ち悪い趣向を持っている定めなの?もう頭の中がパンクして出来事について行けないんですけど?


「リーダァ~…いや、スノウ・アレラウト殿…おぬしは今何処で何をしているのじゃ…わっちは独りで悲しい…」


ス、「スノウ・アレラウト」!?何故彼女の口からその名前が出て来たのだ!?もしや、この女性、スノウの知り合いか?


「スノウ殿をお探しですか、良かったら俺に付いて来てください」


「ヒグッ…おぬし、リーダーの居場所を知っているのかや?」


「知ってるというか、とある店で一緒に働いているので…」


俺がそう言うと、その女性は俺に飛び付いてこう叫んだ。


「それは真かや!?今すぐ連れてってくれなんし!」


「初対面の相手に取る行動じゃねぇぞ、言っとくけど俺男だから、そう簡単に飛び付く対象じゃないから!」


「す、すまぬ…驚きでつい…」


はぁ…俺は何回女に抱き付かれれば良いのやら。昨日なんかサルタが発情しまくって俺に抱き付くだけじゃなく、客にも抱き付いていたし…まぁ、そのせいで店の売り上げは爆上がりした結果になったけども。でも、こんな大衆の前でこんな淫らな展開はよろしくない。早く馬乗られ状態から解放されたいんですけど?何で退こうとしないの?いやいや、確かこんな噂を聞いた事がある、獣人族と人間族とでは挨拶の仕方が違うと。では、具体的にどう違うかと言うと…人間は親交が深くなったらハグをする事がある。それと同様に獣人にも親交が深くなるとある行為をするようになる。そう、それは俺が一番避けたかった事態だ。


「あーん♡」


そう、接吻だ。止めろ止めろ…止めろぉー!?


「はふっ…はふっ…はふっ…にゃぁ~ん♡」


「あぁあぁあぁあぁあぁ…!?」


「おい、坊主…」


「俺達に喧嘩売ってんのかぁ?」


「良いなぁ、羨ましいなぁ、殺すしかねぇよなぁ!!」


マズい、彼女の行為で数人の冒険者に嫉妬心を植え付けてしまったみたいだ!逃げなければ、逃げなければ!


(セイバー、猫耳の獣人族の女性を抱えて猛ダッシュで逃げる)


「うにゃああ!?」


「やばいやばいやばいやばい!?」


「待てぇーっ!」


「逃がすかぁーっ!」


俺は王都中を駆け回った。結局、追いかけっこは一時間も続いた。




 はぁ…はぁ…はぁ…やっと座れる…この女のせいでとんでもない目に遭わされたな、全く。


「すまぬな…わっちがあんな淫らな事をしなければおぬしが満身創痍になる事もなかったろうに…」


「悪いと思ってるだけありがたいよ、俺の知り合いの中には悪い事と思わない奴だって居るからさ?」


「そ、そうなのかや?ちなみに、そやつの名は…」


「サルタ・ラウアリアだ」


「分からぬ、初めて聞く名じゃ」


「逆に言うと、その名前を知ってる奴は少ないと思うよ?知らないで当然だよ」


なんかこの人と仲良くなった気がする。初対面とは思えない程に話が弾むな…


「そういえば、自己紹介がまだじゃったな?」


「俺も名乗ってなかったな?」


「わっちは『サクシャイン・ハルウーラ』じゃ」


おいおい、その名前は聞いた事があるぞ?しかも、この人も捜索願が出されていた人だよ。


「俺は『セイバー・クラニカル』、普通の15歳の人間だ。全く、今まで何処で何をしていたのかな、サクシャインさん?」


「もう嫌じゃったんじゃ…王の言う事を聞き続ける事など…」


なるほど、スノウ達が失踪という行動に至ったのには故意的な意思はなかったという事か。それぞれ何か悩みでもあって、それが爆発した結果、この状況になったと。


「大丈夫だよ、すぐに死魔の王の所には連れて行かない。ただ、スノウにも手伝ってもらっているが…今、ウチの店が深刻な人員不足に陥っているんだよ?」


「人員不足…それで、わっちにも手伝って欲しいと言うのかや?」


「あぁ、そうしてくれればありがたいよ。だが、絶対にとは言わない。貴方の意思を尊重するから」


「わっちは料理を作る事と魔法しか能がないのじゃが、構わぬか?」


料理が作れるのか!これはチャンス、彼女をどうにかしてウチの店で働いてくれる様に促せば…問題は解決に一歩近づく!


「あぁ、構わないよ?頼む、ウチで働いてくれ!」


「一つ条件があるのじゃ…」


「な、何だ?何でも聞いてやる」


すると、サクシャインは恥ずかしそうに俺に抱き付きながらこうぼそぼそと言ってきた。


「リーダーと…おぬしと二人きりの時間を提供して欲しいのじゃ…良いかの?」


「あぁ、構わないぞ?何だ、そんな事か、そんな事くらい気にせずはっきりと言えば良いのに。恥ずかしがり屋だな貴方は」


『全然こっちも恥ずかしいでぇーす!どうしよう、こんなに色気のある人気そうな女性からほぼ告白に近い提案されちゃったよ、どうしようまだ始まったばかりなのにラブコメでは物語完結まであと少しの所まで来ちゃったよ!』


何かヤバい提案はされたが、無事にキッチンスタッフ一名を確保する事が出来たので及第点にしますか。




 「リィ~ダァ~(泣)!!」


「や、止めるミャウ!?確かに久々の再会で嬉しくなるのは分かるけど、そんなに強く抱き付かれたら息が出来ないミャウゥーッ!?」


や、ヤバい光景を目の当たりにしている…女が女に抱き付いている…これはセクハラになるのか、ならないのか、どっちなの!?


「セイバー君、この人は一体…?」


「スノウと同じパーティーを組んでいた人ですよ。冒険者ギルドで泣いている所を拾ったんです」


「捨て猫みたいな言い方しますね?確かに捨て猫みたいな拾われ方でしたが…」


まぁ、仲間同士の久し振りの再会だ。ここは二人きりにしてあげよう。


(セイバー・サファイアル、部屋から立ち去る)


「セ、セイバー!?二人きりにしないで…」


「リーダァー?会えなかった二年分、愛してあげるからのう?」


「みぃいいやぁあああああうぅぅぅぅぅ!?」


翌日、スノウはカラカラの状態で発見されたのでした。


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