第二章 邪心族と〈獣仁志・創神〉 第三話 〈獣仁志・創神〉

 今、俺とロリアンの真剣の殺し合いが始まった。互いに全力を以って相手している。


「その〈万物の道具〉はいつ発動するのかなぁー!!」


「お前の方こそ、いつまでそんな緩い攻撃を続けるのかな?」


邪神族…流石は「邪神」と書かれている名前の種族だけあって強力なパワーとスピードだな?だが、元のベースが強い上にサファイアルさんからのチートを付与された俺の敵ではない!


「『炎属性・絶級〈炎神地獄【ヘル・エンジニ・ゴッド】〉』&『水属性・絶級〈聖水大連撃【ウェーブ・ザ・ビッグ・コンテニアス・アタック】〉』!」


「絶級魔法を二つも…面白い!!」


「『合技〈滝炎撃【ウェーブ・ストーム・インパクト】〉』!」


「絶級魔法の合技だと!?流石に逃げなければ…」


奴は俺の攻撃から逃げようと動いた。しかし、既に対策済みだ!


「『無属性・上級〈吸収【バキューム】〉』を展開済みだから逃げられないよ?」


「用意周到だな…面白い、お前の全力の攻撃を耐えきってみせよう!」


俺の特大魔法をロリアンは防御結界だけで耐えようとした。無駄な事を、その攻撃にはスキル「貫通」を付与しているんだよ。だから…


「何っ!?結界を貫通しただと!?」


(セイバーの攻撃がロリアンにクリーンヒットする)


「ぐわぁぁぁぁっ!?」


嫌でも命中するんだよ…おっと、ここで倒れてもらっては困るな?だって、後ろに本命が待ち構えているからな?


「既に心臓は8つ壊された…つまり、俺様の全ステータスは格段に上がったという事だ!」


ほう…あの攻撃を受けてまだ立っていられるのか。よくぞ耐えてくれた、これで本命の攻撃を放つ事が出来る…さて、騎士団長さん…アンタと同じくらい強い奴が現れたよ?アンタにはこの技は打つなと言われたが、今回はその約束を守れそうにない。だって、そいつは想像の数千倍強いんだから!俺の戦闘心を極限にまで揺すったのだから!俺が心から楽しめる戦いをそいつは提供してくれたのだから!


「ありがとう、ロリアン。お前のお陰で十年振りに楽しめる戦いが出来たよ…でも、その楽しい戦いもこの瞬間をもって終わりだ」


「そうだな、俺様の勝利でな?そっちが死力で応戦するなら、こっちも死力を以って戦うぜ!」


ロリアンが合計8つの魔法の玉を展開した。しかも、それは全てが「絶級」レベルの即死仕様の代物だ。アレをもろに受ければ俺でも死ぬ。だが、俺のこの技に比べれば大した事ではない!


「喰らえ…『全身全霊大砲撃【ホールボディ・アンド・ソウル・ビッグ・インパクト】』!!」


おいおい、俺が想像していた威力の数十倍はあるぞ!?それだけ奴が全力を超えた死力を以って放ったという事か…面白い、だったら俺の放つ技も最大限にまで威力を上げようじゃないか、お前のその死力に応えてな!


「〈万物の道具・全装備・全出力『全攻撃【フル・アタック】』』〉!」


俺の〈万物の道具〉による攻撃とロリアンの全属性魔法攻撃が正面からぶつかり合った。その威力は皆が想像している兆倍凄まじい物だった。


「セ、セイバーが…あの伝説の『邪王四皇聖』最強のロリアンの本気の攻撃と互角に渡り合ってる…年下なのに凄い!」


「もしかして、本当に勝っちゃうミャウか!?」


「いいえ、『勝っちゃう』ではありません…確実にあの結果になるでしょう」


技と技のぶつかり合いは数分間続いた。


「ぬぅおおおおお!!」


「はぁあああああ!!」


そして、数分が経つと、互いの技が発動を終了した。力を失い倒れるロリアン。一方の俺はというと…勝ちを確信していた。答えは俺が持つ鉄の剣にある。俺は「絶眼」でロリアンの心臓を二つ潰そうとしたが、ロリアンの意思に邪魔され、一つだけしか潰す事が出来なかった。満身創痍になりながらも俺の魔眼の能力を素直に受けないとは…戦士として素晴らしいぞ?しかし、俺の攻撃はまだ終わっていない。まだアレが残っているからだ!


「ロリアン、お前はよく俺と戦ってくれたよ、だからお前は…最期まで死力を以って倒す!」


俺は鉄の剣にありったけの最後の力を籠めた。これを発動してしまえば、反動で俺は暫く動く事が出来なくなる。それだけ〈万物の道具〉を発動するのに力を使い果たしてしまったからだ。だが、こんなに楽しめた戦いのフィナーレには相応しい技だろう。これは俺が二番目に誇れる、最高傑作の技だ!


「『神剣・クロニカル・最終奥義・十の技〈創造【クラニカル】〉』!!」


「なっ!?まだ終わりじゃなかったのか!?」


俺は最後の力を振り絞り、ロリアン目掛けて突っ込んだ。これは親父が使っていた技を自分なりに改造した技だ。「最終奥義」と付けているので、将来の俺の子供に伝承しようと思っている技でもある。しかし、この技にもデメリットがある。それは、発動すると相手から半径50mの範囲内でかまいたち等の衝撃波が発生してしまう事だ。幸いにも、サルタ達はかなり離れた位置に居るので今回は気にする必要は無いが、周りに人が居る時に使う技ではない。使えば必ず死人が出るからな?


「うぉおおおお!!」


「ぬわぁあああ!!!!」


俺の剣がロリアンの最後の心臓を貫いた感触がした。心臓にヒットすると、ロリアンの体が爆発した。俺は何とか奴の体から剣を引き抜き、受け身の体勢を取った。爆発の威力は凄まじく、俺は少なくとも20mは吹き飛ばされた。


「グッ…!?」


しかし、これで討伐完了だな。そう思った時だった…


(爆発したはずのロリアンの体が復活している)


な、何だと!?ロリアンの体が復活しているだと!?おかしい、確かに奴の体は爆散したはずだ。しかも、あの威力の爆発だ。並大抵の生き物なら再生不可能まで追い詰められるはずだ。それなのに、奴の体は完全に復活している。しかし、心臓までは復活していないのか、体には10個の穴が開いている。という事は奴は死んだという事か?しかし、俺の期待は裏切られる事になる。


「まさか…俺様にこんな力が宿っていたとは…意外だなぁ!」


なんとロリアンは死んでいなかったのだ!おかしい、確かに心臓は全て潰したはず。それなのに何故生きているんだ!?俺は奴の状態を見てみた。しかし、表示では「死亡済み」と出ている。だとしたら何故奴は生きているんだ?


「これは素晴らしい…まさか邪王様から心臓をプレゼントされるとは…ありがたやありがたや!」


し、心臓をプレゼントされただと!?だから奴はまだピンピンとしていたのか…しかし、奴の体は満身創痍だ。今の状態の俺でも十分に戦える!俺は剣を構えようとしたが、体が言う事を聞かなかった。いや、「言う事を聞かない」ではない、「いう事を聞けない」と言った方が正しいだろうか?やはりさっきの技で体が限界を迎えたか…マズいぞ、ロリアンは満身創痍とはいえ危険な存在だ。このまま野放しにしたら俺は確実に死ぬ。いいや、被害はそれだけには留まらないだろう。この森は跡形もなく消え、近くの王都「ライアナ」もこの国の地図から消えてしまう。動け、俺の体よ動け、早く動くんだ!!


「セイバー君、よくぞここまで戦ってくれました。ここからは私にお任せください」


サ、サファイアルさん!?また危険を顧みず俺の元へ来たのか!?さっきと比べて力は弱まったものの、近接系メインの戦いをするロリアンにサファイアルさんが勝てる訳がない!


「サ…ファイアルさん、皆を連れて逃げて…」


「安心してください、私のフルネームは『サファイアル・レクイエム・クリエイト』です」


「え?その名前は…まさか!?」


「さて、私の店に手を出した事を後悔させましょうか!」


(サファイアル、〈万物の道具・草薙の剣〉を装備する)


え、俺のオリジナルアイテムと全く同じアイテムを装備しただと!?しかも、俺のより数十倍強そうな見た目だし…


「俺とセイバーの戦いの邪魔をするなぁああ!!」


「遅い…」


(サファイアル、ロリアンの攻撃を跳ね返す)


「ぐふぅおおっ!?」


い、今、サファイアルさんは何をしたんだ!?普通のスキル「リフレクト」に見えるが、威力と形状が違う…じゃああの技は一体?


『おかしい、確かに俺は渾身の一撃をこの狐に与えたはず…それなのに、攻撃が跳ね返された…いや、ただ跳ね返されただけじゃない、体から力が抜かれている!?』


「どうしました?もうギブアップですか?」


「う、うるさい!俺様はまだ本気を出していない、ぬぅおおおおおお!!」


マズい、アレはさっきの戦いで発動した物よりも威力が桁違いに上がっている…アレを喰らえばサファイアルさんは本当に死んでしまう!


「喰らえぇ…」


「『絶級』なんて生温い…これが魔法の最高錬度です」


(サファイアル、上空に無数の魔法陣を展開し、ロリアン目掛けてそれを放つ)


「ぐわぁぁぁぁっ!?」


あ、アレは「絶級」の魔法?しかも、何十連発してるぞ!?いや、「絶級」にしては威力が俺が知ってる物と桁違いに高過ぎるというか…まさか「絶級」を超えた更なる魔法なのか?


『な…何なんだ…魔法の耐性が高い俺にこんな大きいダメージを与えるだと…!?「絶級魔法」を超えた更なる上の魔法が存在していると聞いた事はあるが、まさかこの狐はそれを習得したとでも言うのか!?』


「チェックメイト…ですね?」


「狐よ…俺様を甘く見られては困るなぁ?『邪王四皇聖』として、ここで負ける訳にはいかないんだよ!!」


「だから…『絶級』なんて生温いって言ってるでしょう?」


サファイアルさんはロリアンが発動する魔法という魔法を全て打ち消した。おかしい、「絶級」の魔法は普通は打ち消せないはず…それなのにサファイアルさんは全て打ち消しているじゃないか!?それが出来るのは伝説のあの人だけだ。もしかして、サファイアルさんの正体は…伝説の…!?


「何故だ…何故だ何故だ!?俺様の魔法が全く通用しない…!?」


「そりゃそうでしょう?だって『絶級』で満足している貴方に勝ち目はないんですよ?」


「何だと…まさか『神級』の魔法を使ったとでも言うのか!?それが使えるのはあの五人だけだ…いや待てよ、お前の顔には見覚えが…いやいや、だとしたら何故あの時と姿形が変わっていないんだ!?」


「私が何者なのか…もう分かったみたいですね?」


「う…噓だ噓だ噓だぁぁ!!お前があの伝説の存在であるはずがない、ここで殺す!俺様を愚弄した罰だぁー!!」


(ロリアン、サファイアルに斬り掛かる)


(サファイアル、それを回避し、ロリアンの心臓を貫く)


「改めて自己紹介としましょうか…私は、〈獣仁志・創神〉の『サファイアル・レクイエム・クリエイト』です!」


ロリアンの全力の剣撃を綺麗に躱し、サファイアルさんはロリアンの心臓を貫いた。


「フハハハハハ…間違いない、この圧倒的な魔力、その魔眼、そしてその技…まさか貴方に殺される運命になろうとは…俺様の人生に、一変の悔いなし…」


そう言い切ったのを最期にロリアンの体は塵となって消えていった。


「さてさて、再度自己紹介をしましょうか?私は〈獣仁志・創神〉の『サファイアル・レクイエム・クリエイト』と言います。これからどうぞよろしく、セイバー・クラニカル君?」


う…嘘だろ?まさか伝説の〈獣仁志・創神〉と対面出来るなんて…長老ですら会った事のない伝説の存在が、今、俺の目の前に…


「そう固くならないでくださいよ?私はちょっと力が強い獣人族に過ぎませんので?」


「ちょっとどころじゃないでしょ?だって…伝説の存在、〈獣仁志〉ですよ!?伝説を目の前にして固くならない方がおかしい話ですよ!?」


「『伝説』…確かに大抵の人はそう呼ぶでしょう。しかし、私は自分自身の事をこう思っています。『言葉だけの伝説』と…」


こ…「言葉だけの伝説」、か。俺は少なくともそうは思わない。しかし、〈獣仁志〉ともなれば何千年の長い時を生きているという事になり、それなりに悲しい思い出もあるはずだ。まぁ、今回はその事実だけで胃がもたれてしまいそうなので、またの機会に聞くとしよう。「マスター!」


「セイバー!」


戦闘が終了してから暫くして、サルタとスノウがやって来た。全く、俺より年上の癖に戦闘中に腰を抜かすとは…今度鍛錬に巻き込もうかな?しかし、今日は九死に一生を得たな。正直ロリアンが復活を果たした時は「もう死んだな」って思ったし…そして父さん、俺は貴方が会いたかった伝説の〈獣仁志・創神〉と出会う事が出来ましたよ。村に帰る時の土産話になりそうです…あ、そういえば俺…体が動かないんだった!どうしよう、いい齢した男が女性達に運ばれるなんて、そんな醜態晒す訳にはいかない!動けぇー、俺の体よ動けぇー!!


「『絶対回復』付与、っと!」


サファイアルさんが俺の体に何かしたのだろうか?ピクリとも動かなかった俺の体に少しずつ力が戻り、何とか起き上がれる状態にまで回復する事が出来た。


「さて、店に戻りますよ?私達の帰りを待つ人達が居るんですから」


そういえばそうだったな…確かスノウの友人達を置いて行ってしまっていたんだっけ?あまりここで長居していては彼女達を心配させてしまう。早く帰って最後の開店準備をしないとな、俺はまだ体力切れので震えている体に鞭を打ちながら店までサルタ達と共に向かうのだった。


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