第二章 邪心族と〈獣仁志・創神〉 第二話 生き物を「殺す」という事
それにしても、この男は一体何者だ?人間にしては体形が大き過ぎるし、魔神にしては体の色合いが微妙に違うというか…もしかして稀に生まれる「異形の者」か?確かに彼等は少数派なのでこうした凶行に至るのは分かるが、俺の新たな人生の門出を邪魔される訳にはいかないんだよ!
「おい、お前!いきなり現れていきなり店を破壊しようとするなんざ、人間のやる所業じゃねぇよ!」
「グヘへ…オレサマガタノシケレバソレデイイノサ!テカ、オレサマハニンゲンジャナイゾ?」
なるほど、やはりアイツは人間ではなかったか。じゃあやっぱり魔神の「異形の者」か?
「お前は俗に言う『異形の者』じゃないのか?」
「『イギョウノモノ』?ナンダソレハ、オレサマハソンナシュゾクデハナイシ、ソンナナマエノシュゾクガイタコトヲイマハジメテシッタゾ?」
自覚なしか…ここは手早く片を付けたい所だが、すぐに殺し合いをする訳にもいかない。ここは一旦話し合いで解決出来ないかやってみよう…えーっと、まずはこう言うんだったかな?
「えーっと、お前は何をしにここに来たんだ?内容によっては力になれるかもしれない…」
「イッテオクガ、オレサマハニンゲンノゴヨウニハナラナイゾ?テイウカ、ヒトツキニナッタンダガ…」
「何だ?俺の体が何か変なのか?」
「オマエ…ミタメハ『ビースト』ナノニ、ナゼカヒョウジデハ『ヒューマン』ッテデテクル…オマエノホウコソソノ『イギョウノモノ』ナンジャナイカ?」
カチーン、もう完全に頭にきました!話し合いなんて生温い事してる場合じゃないな、もうコイツは跡形もなくなるまでミンチにしてやる!
「てめぇ、俺の見た目の事を何て言った?俺の見た目に関して何か一つでも文句や悪口を言った奴は何処の誰であろうと許さねぇ、俺の見た目が人擬きみてぇだと、おぉん?」
「キ、キュウニマシンガントークニナッタナ…デモナ、カンチガイシナイヨウニココデヒトツイッテオクゼ?オレサマニカテルトデモオモッタラオオチガイダ!ダッテオレサマハ、デンセツノ『邪神族』ダカラナ!」
じ、「邪神族」…初めて聞く種族だな?最近生まれた新しい種族なのか?俺は後ろに居るサルタとスノウにその種族の事を知らないかと聞こうとしたが、それは出来なかった。何故なら、二人の顔が青氷の様に真っ青になっていたからだ。何故そんな顔をする必要があるんだ?俺は不思議で仕方なかった。もしや、俺が知らないだけでその「邪神族」は恐ろしい種族として有名なのかもしれない…だとしたら、どちらにせよここで討伐しないと被害がこの森だけで済まない、ここで一気に叩く!俺は剣を構えながら奴に向かって突進した。
「セイバー!?駄目だよ、アイツは君が倒せる相手じゃない!」
「そうミャウ、死に急ぐなぁー!」
二人から攻撃を止める様に叫ばれた気がするが、今はそんな事を気にしている場合じゃない!ここで奴を倒さなくてはこの町が滅びる、俺がこの手で守らなければ…例え、ここで死んだとしても!!
「〈万物の道具・獣神の拳『死連撃【デット・コンテニアス・アタック】』〉!」
「ナ、ナンダソノワザハ!?ミタコトガナイゾ…シカシ、オレサマノテキデハナイ!」
ほう、この技を前にしても尚も余裕の笑みを浮かべるか…面白い、だったら極限の痛みを味あわせてやるだけだ!俺は今放とうとしている技の威力を極限にまで大きくした。実はこの技は発動中でも威力や範囲を弄る事が出来るのだ。今回は奴を確実に殺したいので威力を最大限まで上げる事にした。悪いな、どこの誰かも分からない邪神族さん、アンタにゃここで死んでもらう!
(セイバーの技が邪神族に命中する)
よし、俺の拳は確実にヒットした。これで討伐完了…
「イダダダダダ!?ナンダコノコウゲキハ、イリョクノワリニカラダニダメージガオオキイゾ!?」
な、何だと!?俺の全開の攻撃を受けてまだ立っていられるのか!?いやいや、俺の全力を受けて生きている奴は今まで何人も見てきた。だからそんなに驚く様な事でもない、落ち着け、もう一度ダメージを与えれば今度こそ討伐完了になるはずだ。俺はもう一度同じ攻撃を奴に喰らわせた。
「もう一度だ、これで終わらせてやる!」
「なっ…!?」
(セイバーの技が邪神族に命中する)
今度は手応えもあった。即死とまではいかないが、致命傷レベルのダメージを与える事が出来ただろう。俺は奴の周囲に纏わり付いている砂煙が引くまで待ってみた。その時だった─
「サッキノコウゲキ…ナカナカイタカッタゾ?」
なんと致命傷を受けたはずの奴は何事もなかったかの様にその場に仁王立ちしていたのだ。おかしい、確かに奴の体には致命傷レベルの攻撃を与えたはず…まさか、そのダメージも奴にとっては掠り傷に過ぎないのか?俺がそんな事を考えていると、奴の体に異変が起こった。
(邪神族の負った傷が塞がっていく)
よく目を凝らして見ると、確かに奴の体にはしっかりとダメージは入っていた。しかし、まるでそのダメージがなかったかの様にみるみる回復していったのだ。あの回復力、魔神でも出来ない所業だぞ?邪神族とはあそこまで回復力に長けている種族なのか…面白い!
(セイバー、〈万物の道具〉を全種類召喚する)
「セ…セイバー…あの力は一体…?」
「もしかしたら…アイツを倒せるかもしれないミャウ!」
この力を使うのは長老とタイマンした時以来か…この力はどれか一つでも発動すれば相手に絶大なダメージを与える事が出来る…だが、奴はその技を受けてほぼノーダメージで耐えきった。それが俺にとってどれだけ衝撃的だった事か…だから俺は全力で奴を倒す!俺の…全てを出し切って!
「ソウイエバ…マダジコショウカイガマダダッタナ?オレサマハ『ロリアン』、ジャシンゾクヲスベル『ジャオウサマ』チョクゾクノセイエイ、『邪王四皇聖』ノイチインダ!」
「『ロリアン』、それがお前の名か…まぁ、もう名乗る事も出来ないだろうからはっきりと覚えておくよ?」
俺は〈万物の道具〉と一緒に自身の持つ鉄の剣に力を籠めた。そしてロリアンに斬り掛かる!
「『神剣・クロニカル・一の技〈斬〉』!」
「コノワザハマサカ!?」
(セイバーの剣がロリアンの胸部を貫く)
よし、命中した!この攻撃で奴の心臓を貫いたのでこれで奴も死ぬはず…しかし、奴の体から力が抜ける事はなかった。寧ろ、さっきより力が強くなった様に感じる!
「グハハハハ!シンゾウヲヒトツコワシタダケデオレサマヲコロセルトデモオモッタノカナ?」
「ていうかさ、一つ言わせてくれないか?」
「ナンダ?」
「その『カタカナ喋り』今すぐ止めてくれない?」
「ナゼダ?」
「頭で言葉を処理し辛い…もう頭が痛くて痛くて堪らないんだよ!」
「分かった、これで良いか?」
よし、これで不安要素は排除出来た。しかし、心臓を貫いたはずなのにまだピンピンとしているとは…邪神族にとって心臓とはちゃちい物に過ぎないのか?
「簡単に説明しようか?俺達邪神族には心臓が10個あるんだ。しかも、一つ減る毎に全ステータスがアップする仕様になっているんだ。今は心臓を一つ貫かれたから少しパワーアップした事になる…」
なるほど、諸刃の剣という事か…だとしたら、かなり面倒な戦いになりそうだな?一つ壊す毎にパワーアップするって事でしょ?まぁ、俺もまだ全力を出している訳ではないから良いんだけど…かったりぃ~なぁ~…
「そういえば、俺の方こそ自己紹介がまだだったな?俺は『セイバー・クラニカル』、普通の人間だ」
「『クラニカル』…何処かで聞いた事のある名前だな?」
ロリアンが意味深な発言をしているが、今はそんな事を気にしている場合じゃないからな。手早くコイツを討伐する、それが今回のミッションだ。俺は〈万物の道具〉に力を籠めながら鉄の剣で更にロリアンを攻撃した。
「『神剣・クロニカル・二の技〈砕〉』!!」
「この技…やはりお前は…!」
「『三の技〈礫〉』!」
俺はロリアンに技を連発した。結果、心臓を3つ破壊する事が出来た。しかし、奴の動きがどんどん速くなっていく…これが邪神族の特性…これでもし時間経過で心臓が全て復活するとか滅茶苦茶な仕様だったら激おこぷんぷん丸だぞ、おい?
「セイバーよ…お前は俺達が殺し損ねた『クラニカル家』の末裔だな?」
「確かに俺の名前の後には『クラニカル』と付いているが、それだけで俺がその『クラニカル家』の末裔と判断するには証拠不十分じゃないのか?」
「いいや、お前が使った技の数々…そして、後ろに待ち構えている〈万物の道具〉…お前はやはり『クラニカル家』の末裔だ!」
何!?この〈万物の道具〉は俺が作り出したオリジナルのアイテムのはずなのに、ロリアンはこのアイテムの事を知っているみたいだ…驚き桃の木山椒の木ぃっ!いやいや、どうせ勘で言った言葉がバチ当たりしただけだろう。わざわざ気にする様な事でもあるまい…それに、どんなに苦しい状況であってもあと心臓を7つ破壊すれば勝てるんだ。落ち着け、仮に格上が相手だとしても、俺は今まで格上の相手と戦って勝ってきたじゃないか!この戦いにもきっと勝てる、諦めるなぁ!!
「『四の技〈壊・八連〉!』
「何だこのスピードは!?俺様が手も足も出ないだと…グハァッ!?」
よし、今の攻撃で少なくとも2つ壊したな?この調子で少しずつ心臓を叩く!
「『五の技〈円・七重なり〉』!」
それにしても、この技を使うのも久し振りだ。これも俺が俺自身で編み出したオリジナルの技だけど、これもロリアンは見た事がある様なリアクションを取っている。くそっ、調子狂うな…そういえば、一緒に参戦してくれたサルタとスノウは無事か?さっき俺が出した技は全て範囲攻撃なので、当然周囲にも影響が及ぶ。だから俺は今まで一人で戦っていたが、今回は違う。今回は俺以外にも三人の協力者が居る。だから俺の技に巻き込まれていないか不安だったのだ。そう思い、俺は二人が居る方角を見ると…サファイアルさんが展開したであろう結界の中に二人はしゃがみ込んでいた。もしや俺の技の凄さや放った殺気で腰を抜かしたのか(自意識過剰)?
「セイバー君、一つ悪い情報です」
「サ、サファイアルさん!?いつの間に…」
いつの間にか俺の背後にサファイアルさんが忍び寄っていたのだ。危ない、貴方は近接系の戦いが苦手だとサルタから聞いている…俺は咄嗟にサファイアルさんを抱えてサルタ達が居る場所へと飛んで行った。
「サファイアルさん、危ないですよ!貴方も見ていたでしょう、俺とロリアンは正に正面からの殺し合いをしていたんですよ?近接系の戦いが苦手な貴方があの場に来ちゃ駄目なのぉー!!」
「いや、伝える事を伝え終えたらすぐに退散するつもりでしたけど…今は奴も私達が何処に居るか分からないままですし、ここで言いましょう」
な、何を話すんだ?そういえばさっき「悪い情報」とか言ってたけど、まさか奴の弱点は他にあるとかそんな事じゃないだろうな?
「今の君では奴を半殺しまで追い詰める事は出来ますが、完全に殺す事は出来ません。何故なら、君はまだ子供だからです」
「そ、それはつまりどういう事でしょうか?」
「君は…敵であるとはいえ、同じ命を持つ生き物を殺す覚悟が出来ていますか?」
「そ、それは…」
「仕方ありませんよ、私だって初めての人殺しは23歳ですから…」
23歳でも十分凄い気がするけど…そうだ、俺は心の中で何回もロリアンを「殺す」と何回も軽く言っていたが、生き物とモンスターの命は違う。モンスターは魔王が作った人形みたいな物だから命はない。だが、ロリアンは違う。ロリアンは「邪神族」という立派な生き物だ。そいつを殺すという事は、そいつの将来を潰す事に繋がる。サファイアルさんに言われなければ気付く事はなかっただろう…俺はそんな大きな事を軽い気持ちでやってのけようとしたのだ。まさにこの状況をこう言うだろう、「俺は生き物を殺せるか?」とな?でも、奴を殺さなければ俺達の店ごとこの町が地図から消え失せる。だからって奴を殺せる覚悟が俺にある訳でもない。どうする?どうするんだ、俺!
「覚悟は出来たみたいですね?」
……………………よし、覚悟は出来た。俺はこの手でロリアンを殺す!お命頂戴いたします!
(セイバー、ロリアンの目の前に飛び出す)
「何処に行ってた、探したんだぞ!」
「すまない…お前を殺す覚悟の時間を取らせてもらった」
『コイツ…さっきまでと比べて気合いが上がっている!まさか、たった数分でこんな殺気を放てる様になるとは…俺様の相手に相応しい事この上ないな!』
「そうか、俺様を殺すか…だったらその覚悟に誠意を以って応えよう!俺様もお前を殺す気で戦う!」
「ここからが…真剣勝負だ!」
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