第二章 邪心族と〈獣仁志・創神〉 第一話 一人ぼっちの少年

あれから数日が経ち、スノウの友人もウチで働く事が決まった。しかし、てっきりその友人の数は少ない者だと思っていたが…まさか12人も居るとはな…まぁ、人手は多いに越した事はない。プラスに考えれば一人当たりの仕事量が減るという事だ。これには流石のサファイアルさんも驚きを隠せなかった様で、綺麗な尻尾が全て逆立ったらしい。まぁ、そんなこんなで開店前の準備はあらかた終わったし、あとは明日の開店までゆっくりしますかぁ~…俺は店の三階のスタッフルームの一室でゲームをしながらまるで猫の様にダラーンとしていた。俺、あれからよく頑張ったよなぁ~?まだ冒険者になりたてなのに店の開店準備に追われて、その合間を縫ってクエストをクリアして、帰ったらサルタを甘やかしたり…いやいや、甘やかしたりって何だよ!?アイツ俺の50倍生きてるんだろ、普通は逆だよね!?最初の方に言ったけど、やはり長寿な生き物は精神の発達も遅いのかな?でも、15歳には重い仕事だよ…そんな事を思っているうちに、俺は睡魔に眠りへと誘われた。




 あれ?もう朝か…サファイアルさん、もう起きてるのかなぁ?俺はベッドから下りようとした時だった…


(地響きが鳴り響く)


何だ何だ!?朝のアラームにしては心臓に悪過ぎる音なんですけど!?俺は部屋の窓から外の様子を見た。すると、俺の視界に映ったのは…


「グヘへ…マズハコノオオキイヤマヲフキトバス!!」


遠くに居るからよく見えないが、途轍もない魔力反応と殺気を感じた。そんな状態の俺をさらに驚かせた事態が起こる。


(目の前の大きな山が消し飛ぶ)


なんと、さっきまでそこに存在していた大きな山が跡形もなく消し飛んだのだ。その光景を見て俺は恐れ慄いた。何なんだあの化け物は、あんな強い力を持った魔物なんか居たか!?いやいや、見た目的には魔物には見えない…じゃあ人間か?いやいや、人間にあんな所業は出来る訳がない。だとしたら一体アイツは何者なんだ!?俺はこの事実を報告する為に店の一階へと下りた。


「サファイアルさん、外にとんでもない化け物が!」


「化け物…やはり来ましたか」


やはり来た?まさか「千里眼」で未来予知をしたのか?いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ、早く対処をしなくては…


「コンナトコロニニンゲンノスミカガアルナ?ヤヌシヲダ…」


(セイバー、謎の大男を蹴り飛ばす)


俺は咄嗟に蹴りを入れた。あんなに距離が離れていたはずなのに、ほんの数秒でこの店がある場所まで飛んで来たのだ。普通の人間なら警戒心を露わにし、迎撃態勢を取るだろう。それが理由で俺はこの行動を取った次第だ。


「グヘェッ…!?」


「セイバー君!?気を付けてくださいよ、相手は…」


「サファイアルさんはこの店を守る事だけに集中してください、俺はアイツを討伐します」


「私も行くよ、セイバーを一人敵地へ行かせるなんて出来ないよ!」


「そうミャウよ、それに…僕は仮にもS級冒険者ミャウよ?甘く見られては困るミャウ」


「二人共…」


そう、俺は行動する時はいつも一人だった。昔から俺の行動に参ずる者は一人も居なかった、何故なら俺は強過ぎたからだ。今は強大な敵を目の前にしているが、少し時間が余っているので俺の過去の話をしよう。




─ 10年前 ─


 子供と言えば何をするか…皆は大抵こう考えるだろう、「遊ぶだろう」と。まさしくその通りだ。子供は「遊ぶ」事が仕事だからな…今の俺みたいな年齢だと…家の近くの広場で遊んだり、玩具で遊んだりするのが一般的だろう。しかし、中には例外も居る。例えば、小さい頃から体を動かすよりも本を読んで勉強するのが好きな子供や、特技を将来に生かしたいと思い精進する子供…俺もまた、その例外に当たる子供だった。


「セイバー、お隣のお友達が『遊ぼう』って呼んでるわよ?」


「帰ってくれって言っていて、俺…忙しいから!」


かく言う俺は何に没頭しているかというと…


(セイバーの部屋に大量の武器が置いてある)


武器の生成だ。何故この作業に没頭しているかというと、俺が生まれた時から所有していたスキルのうちの一つ…「創造【クリエイト】」の影響だ。まぁ、俺の生い立ちも普通じゃなかったからな。生まれて間もなく言語を理解し、喋る事も出来た。そして、一歳で基本武術を会得、二歳で基本の剣術と魔法も会得した。はっきり言おう、俺は天才だ!しかし、この生い立ちのせいで苦労したんだよ、これが。まだ一歳にもなっていないのに言語を理解して喋ったせいで年上としか会話が出来なかった。結果、同い年の友達は少ないのが現状だ。しかも、年上の友人しか居ないので…よく喧嘩を吹っ掛けられた事もあった。まぁ、毎回返り討ちにしてあげたけどな?その環境のせいで周りの環境を遮断する癖が身に付いてしまった。そういう環境のせいか、自宅に引き籠もる生活が続いた。最初の方は本を読んで時間を潰していたが、それも段々と飽きてきて悩ましかった。そんな俺の元に転機が訪れる。そう、それがさっき説明した「創造」だ。俺がそのスキルを使い始めたのはまだ三歳の頃で、五歳になった今でも使い続けている。このスキルを使って色々な武器や魔法を作り続けた。そして時々、近くの森に向かって雑魚モンスターをその武器や魔法で討伐し、村役場で報酬を受け取っていた。そのスキルのお陰で引き籠もりから脱却する事も出来た上に、自身のパワーアップも出来たのだから…一石二鳥とは正しくこの事を言うのだろう!しかし、この転機には残念ながら悪い影響もあった。それはまた後から説明するとして…今日もモンスター狩りをしますかぁ!俺は最低限必要な荷物を纏めて村近くの森へと向かったのだった。




 ここは非常にレベルアップの効率が良い。と言っても、最低レベル20は必須だけど…まぁ、普通の子供なら少し厳しい環境な事には何の変わりもないけど。しかし、俺にとっては楽園の他ないだろう。だって、戦うの楽しいんだもん(リア狂)!!友達と一日遊び尽くすなど言語道断、そんな事する暇があるならこうしてひたすらモンスターを討伐した方が時間を有意義に使えるし…なにより楽しい!ちなみに、毎日こんなテンションでモンスターを討伐しています。そのくらい村でやる事が少ないのです…だから、こうしてひたすらレベルアップをしている訳です。


「グゥォオオオ!!」


おっと、早速強そうな対戦相手が現れましたね?まずは彼に俺の全ての力をぶつけましょう!俺は右手に大剣を装備し、熊型のモンスターのうなじに狙いを定めて…


(セイバー、モンスターの首を斬る)


うなじを首ごと斬り捨てた。しかし、たった五歳の人間の子供に倒されるなんて…このモンスターにもやりたい事はあっただろうが、ここで殺されるとは可哀想に思えてきた。てか、普通に育った五歳の子供がする所業を大きく書き変えてるよね!?我ながら恐ろしい事この上ないんですけど!?いやいや、それはあくまで一般論での話だ。俺みたいに例外と言われる子供だってたくさん居るはずだし、そもそもの話、俺が、いや一人の子供が何処で何をどうやって過ごすかは本人の勝手だ。気にする必要は欠片も無い!とにかく、さっき倒した熊型のモンスターのドロップ品を回収して…っと。レベルは…


○セイバー・クラニカル


 ●レベル:60


はいはい、さっき見た時は58だったからレベルが2上がったと…この調子なら年内にレベル80は狙えそうだな?てか、このレベルの時点で並大抵の大人にも喧嘩に勝てるんですけど?あれれ?おっかしぃ~なぁ~?もう大人達に守られる必要性0%に等しいんですけど、確かに強くはなりたいとは言ってたけど、ここまで強くなる予定はなかったはずだよ?はぁ、とりあえず…今日までにレベル62を目指しましょうか。俺はさっき倒したモンスターの死骸が消えてなくなるのを見送って、さらに奥へと進むのだった。




 フゥ…予定通りレベルアップは出来たけど、まさかキャンペーンで経験値10倍になっていたとは…お陰でレベル70になってしまったよ。もうすぐで長老のレベルを超えちゃうよ?さてさて、今日手に入れたドロップアイテムは…


・大きな爪×20


・強靭な角×36


・晩節の皮膜×59


・千閲の灼眼×68


まぁ、今日は角の生えた熊型のモンスターを中心に討伐して来たからな…レアアイテムである千閲の灼眼が68個も獲得出来て良かった、これでまた新しい魔法の本が買える!俺はいつも通りウキウキしながら村役場へと向かった。それにしても、この村は近くの町とかによくある「ライト」という物が存在していないので星が本当に綺麗に見れる。本当に綺麗だな…なお、普通の五歳の子供はこんな事思いません。俺が少しズレてるだけです。さて、このまま星を眺めるのも良いが、村役場の閉店時間も迫っているので急いで交換しよう。俺は足早に村役場へと向かおうとした時だった─


(セイバーに向けて石が投げられる)


(セイバー、その石をキャッチする)


何者かに石による攻撃を受けたのだ。まぁ、レベルが70にもなればその弱い攻撃なんて当たる方が難しいものだ。しかし、喧嘩を売られたんだ…買ってあげねば筋違いだ。


「誰だ、俺にこんな物を投げてきたのは?」


俺が殺気を籠めてそう問うと、樹の後ろから複数の子供が姿を現した。何だ、ただの子供の悪戯か…俺は一瞬そう思ったが、そいつ等が手にしている物を見て、すぐに思考を切り替えた。なんと、その子供の全員の手には硬そうな石と使い古したバタフライナイフが握られていたのだ。


「おいおい?何の冗談だ、そんな物騒な物は捨てて話し合おうじゃないか?」


俺が殺気を消してそう語り掛けたが、彼等は俺の言葉など聞かず、また石を投げてきた。しかも、今度は全員で…俺は「土魔法・上級〈マウンテン〉」を発動し、その攻撃を全て防いだ。


「話し合いに応じる気は欠片も無いみたいだな?」


「あ、当たり前だ!お前何様なんだよ、僕達より年下のくせして強くなりやがって!」


「お前は大人しく家に引き籠って居ればいいんだよ!僕達が一生懸命ゲットしたアイテム〈木の棒〉なんか必要ないって言われたんだよ、お前がもっとレアなアイテムを持って来ているから…」


「だから、お前をここで殺す!この腐れ陰キャがぁー!!」


複数の子供達の内の何人かが俺に戯言を放った後に魔法が解除されるのと同時にナイフを持って襲い掛かって来た。多勢に無勢という言葉があるが、残念ながらこの状況でその言葉を使うのは間違っているみたいだ。理由は一つ、襲い掛かる全員の動きが非常に直線的過ぎるからだ。ナイフの向け方も、跳躍するタイミングも、ダメ押しで言うならその凶悪な殺意だ。そんなに殺意を漏らしていては攻撃が読まれるのは火を見るより明らかだぞ?俺は敢えて結界を展開せず、奴等と同じボロボロのバタフライナイフで応戦した。お前達なんか相手に魔法なんか必要ない!


(セイバー、バタフライナイフで襲い掛かる子供達を無力化する)


フゥ…やはりレベルが高くなり過ぎると、ロクに喧嘩も出来なくなるものなのか…ただ剣先で突いただけなのに全員が全員気絶してしまって居る。これが強者が言う「小せぇなぁ」という言葉の意味か…マズいぞ、このままだと自意識過剰になってロクな大人にならない未来線しか見えねぇぞ!?やはり、自分の実力に慢心せず日々鍛錬しよう!あれ、何か忘れている気が…おっと、二つ思い出した。一つは今回の事件の報告だ。気絶している子供の数は…12人、いやいや、12人という大所帯で1人を殺すとか卑怯の極だぞ、おい!?流石にこの数を一人で片付けるのは厳しい…なので、手元にある小さな笛を吹いた。


(笛の音が村中に響く)


笛を吹いてから暫くすると、軽装備の大人達が俺の元へと走って来た。最初は何事かと思っているみたいな顔だったが、気絶している子供達を見るや否や真っ青になった顔で俺にこう問いて来た。


「セイバー君!?これは一体どういう事なんだい!?」


「たくさんの子供達が気絶している…おい、手元を見てみろ!」


「バタフライナイフ!?何故この子達がこんな物を…」


マズいな、完全に困惑している。ここは当事者である俺が状況を説明しないといけないな、俺は戸惑う大人達にこう説明した。


「村役場に向かおうとしたらこの人達が石を投げてきて、話し合いで解決しようとしたら今度は全員で石を投げてきて、それを防いだら今度はバタフライナイフで俺を斬り付けようとして来たのでバタフライナイフの形をした木刀でみぞおちを小突いたら全員気絶しちゃいました」


それを聞いた大人達はまた驚いた。まぁ、仕方の無い事か…だってまだ俺五歳なんだもん、五歳の子供が同年代の子供12人を一人で無力化しちゃったんだもん、そりゃ困惑するのも無理は無いか…でも、これはあくまで事実だし、決して嘘を吐いている訳でもない。それに、襲撃した動機が酷いのでそれは明日にでも長老にでも報告しますか…


「じゃあ、俺は行く所があるので…詳細は明日話します、では…」


「ち、ちょっと待ちなさい…!」


俺は追い掛けて来る大人達を振り払い、村役場まで走った。危ない危ない、危うく交換し忘れる所だったよ…こうして、俺の一日は終わったのだった。




 翌日、昨日貰った報酬品…口で説明するより実物を見てもらった方が良いな、箇条書きで書いておこう。


・金貨10枚


・鉄の全装備


・D級冒険者の腕章


たった五歳でこんな報酬が貰えるのだ。そりゃ昨日みたいに恨みを抱えた者が現れてもおかしくはないな…良かったぁー、毎日鍛錬して強くなってて本当に良かったぁー!ちなみに、今日も近くの森でレベルアップをします。目指すはレベル75だ。昨日を含め一週間の間経験値が10倍になるのでその期間で大幅なレベルアップを試みようじゃないか?俺は鉄の装備を全て着用し、腕章も付けて家を出た。




 家を出てすぐの所で大人達に引き止められた。理由はなんとなく分かっていたが、時間を奪われている気がしたので早く追い払いたかった。しかし、そんな事は許されない。理由は理由だからだ。


「セイバー君、昨日の一件は覚えているかな?」


「はい、はっきりと覚えています」


「君が気絶させた子供達に話を聞いたんだけど…まぁ、子供らしいと言ったらそこまでだね?」


「ですよね?だって、自己満だけで俺を殺そうとしたんですから」


「あの子達が言ってる事も理解出来るよ…でも、だからって殺すのは間違ってる。あの子達は今頃親御さんからこっぴどく叱られてる所だと思うよ…」


「まぁ、普通ならそうなりますよね?」


「時にセイバー君、良かったら私達と一試合どうかな?」


ひ、一試合ぃ?別に良いけど、時間を無駄に消費するだけだし…あぁもう、男性の大人って何かしら対抗心が強い傾向にあるから面倒臭いんだよなぁ…


「ちなみに、私達の上司…いや、騎士団長さんも君と戦いたいらしいよ?」


騎士団長…長老の次にレベルが高い人だったっけ?丁度良い、自分の実力も計れるし…


「良いですよ、でも…死ぬ気で掛かって来てください…じゃないと、本気で楽しめないので」


俺は一微量の殺気を大人達に向けた。すると、その殺気に怯えたのか…全員が腰を抜かし、その場で座り込んだ。おいおい、まだ全体の1%しか殺気を出してないんですけど?この程度で怖気付くとは…この村の未来暗いなぁ。俺は大人達に身体強化を付与して無理矢理立ち上がらせ、騎士団地まで案内してもらった。




 ここが騎士団か…全員が日々鍛錬しているんだな。俺も大人になったらこういう人生を生きるのかな?そう思い、騎士団長の部屋の前でボーっと外の風景を眺めていた。なお、ここは俺の村からだいぶ離れた所にあるらしい。俺の村の警備も含め、この山間地を領地とする国家「ミリア」直属の騎士団らしい。つまりは規模が大きく、騎士のレベルも高いという事になる。フムフム、これは良い体験になりそうだな…左手が疼くぜっ!


「セイバー様、騎士団長がお呼びです!」


俺まだ五歳なんだけど?そんな堅苦しい呼び方されても違和感しか感じないんですけど?まぁ良いか、俺は呼ばれた方へと向かった。




 流石は騎士団長の部屋、内装が凄いぞぉー!全面タイル張り、壁には歴代の騎士団長の肖像画が置いてある。しかも、中には騎士団長以外に執事や秘書と呼ばれる人達が何人か居る。更に凄かったのは…部屋の空気だ。こんなに美味しい空気は嗅いだ事がない、これが村と町の違い…良いなぁ、妬ましいなぁ、恨めしいなぁ…俺の家と交換してくれねぇかなぁ!!


「セイバー・クラニカル様、こちらが騎士団長様です」


執事の一人が指を指した先には風格のあるおじさんが居た。鎧で全体は見えないが、相当体を鍛えているのだろう、かなりの力自慢だと言える。


「セイバー・クラニカル、お前がセイバー・クラニカルだな?」


「はい、その通りでございます、騎士団長殿」


「顔を上げよ、私は王ではないのだから、そこまで堅苦しくする必要はないぞ?」


「はい…それで、私と一試合したいというのは真でございますか?」


「あぁ、そうだとも!お前のレベルは50以上あるとお前の村の騎士から聞いている、つまりはそれなりの実力者と言えるだろう。イコール、私と戦う資格があるという事だ!」


なるほど、俺はこの国の実力者に興味を抱かれているという事か…しかし、ただこの人と戦うのも良いが、出来るならもっとたくさんの騎士と一試合したい所だ。


「安心せよ、私以外にも実力のある奴等がお前の相手になると言っておる」


何で俺の考えていた事が分かったの!?


「私には人の考えている事が分かるんだよ、これが私に宿った魔眼…『千里眼』だよ」


せ、「千里眼」…魔眼の中でもレア度が高いと言われている物だったかな?確か、相手の心を読んだり、将来の出来事を予測する事が出来る能力だったよな?つまりは、この人の前で嘘は吐けないという事か。


「そうですか、だったら…死力を以って相手してください、でないと…全力で戦えないので?」


「ハッハッハッ!思い上がりも良い所だぞ、セイバーよ?私の部下は倒せても流石にこの私を倒す事等出来まい!」


どうやらこの人には俺がまだ弱い子供と見えているらしい。面白い、だったら俺の全力をぶつけるだけだ。そうすればこの人の見方も変わってくるのかもしれないし…さぁーてと、少し面倒になりそうだけど自分自身の為だ、一肌脱ぎますか!




 暫く経った正午、俺は騎士団長と剣を向けて向かい合っていた。あれ?他の人との戦いは?なんて思った皆さん、すみません。彼等とも戦ったのですが、あまりにも早過ぎる決着だったので全て省略しました。時間で言うと、30分で6人と戦って勝ったので…一人当たり5分という事になります。短い!もっと苦戦を強いられる戦いが続くとばかり思っていた自分を殴りたい!何で俺はこんなにも強くなってしまったのか、もう一度レベル1からやり直したいレベルだよ!と、まぁそんなこんなで最後の相手である騎士団長と相見えて居るという訳だ。


「そう言えば自己紹介がまだだったな…私は『ハーディー・ベルセウス』だ」


「自己紹介どうも…では、始めましょうか」


そう言うと、騎士団長は俺に向かって全速力で突進して来た。なるほど、さっきまでの戦いを見て「手加減をすると負けるかもしれない」なんて思ったんだな?だから全力を見せて圧倒的な力の差を見せるつもりだから今の戦闘スタイルを選んだんだな?ありがとう…これで、俺も全力で戦える!


(セイバー、剣に複数の魔法を仕込む)


「なるほど、剣に魔法を付与して私の攻撃に備えるか…だが、そんな事しても無駄だ!私の剣は何者にも打ち砕く事は出来ん、故に…お前の負けは決定だぁー!!」


ほう…「攻撃に備える」…か。違うよ、俺は剣に防御系統の魔法は付与していない。俺が剣に付与したのは…単純な攻撃力上昇だけだ!


(セイバー、ハーディーの剣を剣で受け止める)


「なっ!?」


「これが貴方の全力ですか?俺はまだ全力の12分の1しか出していませんよ?」


「面白い…ならば、私も全力の10分の1を以って相手をしようじゃないか!」


ハーディーの剣に籠もる力が上がった。しかし、俺も全力を出している訳ではないので、俺も剣に更なる力を籠める。


「なっ…!?ならば、6分の1ならどうだ!」


「ならばこちらも…4分の1で相手しましょう?」


「グゥッ…!?良いだろう、私の全ての力をお前に見せてやる!」


(ハーディー、自身に炎属性の魔法を付与する)


何だ?付与魔法か?しかし、属性が選択出来る付与魔法など今まで聞いた事がない。まさか、これは「レアスキル」か!?


「これは魔王と戦った時に使った技だ…もう使う事はないだろうと思っていたが、お前の実力に敬意を示し、この技を以ってお前に勝つ!!」


「どうやら…俺も全力を出さねばならないみたいですね?」


(セイバー、自身に〈無属性・極〉の魔法を付与し、〈万物の道具・草薙の剣〉を装備する)


これは俺が「創造」で作り出したオリジナルの大魔法…これを受けた者は死ぬ事はないが、死よりも辛い痛みが全身を襲う…ちなみに、〈万物の道具〉は〈草薙の剣〉の他に〈琵琶の盾〉と〈幸の弓〉、〈獣神の拳〉と〈創世の本〉、〈魔神の杖〉が今の時点で俺が作り出している技だ。この技は被験者に猛烈な痛みを与えるので使うのを躊躇っていたが、今回はこんなにも凄い技を見せてくれたんだ、全力を出さないのは筋違いだ!でも、ハーディーさん…覚悟してくださいよ?この技は貴方が思っている様なちゃちい技ではない!


「喰らえぇっ!!『焔炎神の礫【えんえんしんのつぶて】』!!」


「〈万物の道具・草薙の剣『聖苑の穿【せいえんのうがて】』〉!!」


俺とハーディーさんの技が正面からぶつかった。その衝撃は俺の住んでいる村にも届いたらしい。そのくらい激しい技同士の衝突だったのだろう…


「な…何なんだあの少年は!?」


「騎士団長の全力の技を受けきっている…だと!?」


「最初から私達など眼中になかったという事だな…」


「ぬぅおおおおおお!!」


「うらぁあああああ!!」


俺とハーディーさんはさっき放った技を連続でまた放った。ハーディーさんはまだ大丈夫だが、俺の体はとっくに限界を迎えていた。なにせ、鍛えているとはいえまだ五歳の体だ。そう気付く前に俺の体は力を失い、ハーディーさんの技が命中し、そこから記憶が途切れた。




 ……………ここは……何処だ……?気が付くと俺は見知らぬベッドの上で横になっていた。そういえば俺はハーディーさんと戦って、互いに全力の力を以って戦って、そして体力が切れて負けた…そうか、俺は負けたのか。初めてだな、戦いで負ける事なんか…まぁ、成長には必要な事だから良い体験をしたという事にしますか!そう思い俺はベッドから起きようとしたが、体が言う事を聞かなかった。何とか起き上がる事は出来たが、歩く事が出来ない…何故だ?体力はまだ十分にあるというのに…


「恐らくは魔力切れだろう?お前、さっきまで神魔導士レベルの魔法を連発していたからな?私とあそこまで渡り合えたのはお前が初めてだぞ、セイバー?」


「ハーディーさん…体は大丈夫なんですか!?俺の使った技は相手に死よりも辛い痛みが襲うシステムでしたし…」


「あぁ、耐えた。そしたらなんか楽になったぞ?」


「脳筋ですか貴方は?やはり貴方も人間を卒業していますね…」


う、嘘だろ?俺の最高錬度の技を受けてほぼノーダメージで居る人間なんて初めてだぞ!?号外以外の何物でもない…まぁ、世界は広いからこんな人が何人も居ても違和感はないか。しかし、魔力切れか…困ったな。このままだとレベルアップも家に帰る事も出来ない…どうしたものか…


「家に帰る事が出来ないと思っているだろ?安心しろ、私の部下に命じて家まで送ってやる」


「良いんですか!?」


「良いんだよ、お前は私の心を大きく動かした…戦いには負けたが、今後の人生の励みになるだろう…胸を張って生きろ!」


「は、はい!」


こうして、騎士団との一件も無事に終了する事が出来た。いやぁー、まさか俺みたいな化け物が他にも居るとは思わなんだ。俺もまた日々精進せねばな…




 というのが、俺の過去の話だ。正直俺は一人でも十分に戦える…しかし、今まで見てきた通り仲間が一人も居なかったのだ。さっきも言ったが、俺はいつも一人だった。一人で戦う事しかなかった。仲間が欲しかった。




─ 現在 ─


 でも、今は違う。俺が謎の男と戦うと言ったらサルタとスノウ、そしてサファイアルさんも一緒に付いて来てくれた。これが俺にとってどれだけ大きい事か…感謝してもしきれないな。おっと、この気持ちは後から話すとして…まずはあの男が受け身の体勢を取る前にもう一撃与えなければ…


「グゥオッ!?」


「『炎属性・絶級〈炎神地獄【ヘル・エンジニ・ゴッド】〉』!!」


俺は奴の間合いに入り、炎属性の魔法で攻撃した。


「グハァッ!?」


この攻撃には高いノックバックも付いて来るので、奴を店から遠ざける事に成功した。よし、初めての共闘。いつも通りではなく、仲間意識をしながら戦うぞ!


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