第一章 運命の出会い 第二話 洋館の愉快な仲間達

洋館の中へ入った俺を待っていたのは…


「うおぉ…スゲェ綺麗だぞ、おい?」


俺の生活からかけ離れる程に綺麗な内装だった。床一面に張られた高級そうな絨毯、歴史に名を残した者が描いたとみられる大きな絵画、冒険者ギルドで見た物より遥かに大きいシャンデリア…しかもそれが複数個このフロアにあるではないか!流石は洋館と呼ばれるから驚く程の高級品の数々だ。もうこの時点で帰っても良い程お腹がいっぱいなんですけど?しかーし、ここで大人しく帰る訳にもいかない!ここの情報を一つでも多く収集するのが今回の俺のミッションだ。俺は豪勢な玄関(?)をあとにして、洋館の更に奥へと向かった。




 ここは客間だろうか?大きなテーブルとたくさんの高級そうな椅子が並べられている。しかし、これは随分と長く使われているのか所々破けている箇所が見られる。客間から別の部屋へと向かえる扉を見つけたので、その扉を開けてさらに奥の部屋へと進んだ。




 また誰も居ないだろうと思っていると、次に入った部屋には先客がいた。もしやこの洋館を根城にしている盗賊か?そう思ったが、雰囲気的にそれは無いだろうと思った。何故なら、その人が何をしているかというと…


(謎の青年、厨房で料理を作っている)


料理を作っていたのだ。しかも、かなり美味しそうな匂いを持つ料理を…止めてくれ、俺は朝から何も食べてないんだ、その状態でそんな美味しそうな匂いを嗅いだりでもしたら、俺のお腹が…


(セイバー、お腹が鳴る)


ヤバい、鳴ってしまった!しかも、かなり大きな音で!


「誰か居るんですか?」


マズい、俺がココに居る事がバレたら住居侵入で通報される!俺は隠れようとしたが、それは叶わなかった。何故なら、俺の後ろにもう一人人が居たからだ。


「貴方ここに何をしに来たの?」


「ゲッ!?いつの間に俺の後ろに!?」


ヤバーい!?完全に見つかってしまった!このままだと面倒事は避けられないな、逃げたくても退路は塞がれてるし、もう四面楚歌なんだけど!?


「見る感じ…盗賊ではなさそうだね、マスター?」


「私達に何か用があって来たと考えるのが普通ですかね?」


良かった、盗賊とは勘違いされずに済んだな…でも、いずれにしても面倒事は避けられないな…さて、この状況をどう切り抜くか…俺の未来が懸かってる!


「恐らく私の店で働きたいと思っている人でしょうか?」


「えー、でも求人出してないけどぉー?」


「ですが、見つけられないはずのこの洋館の中に入って来たという事は…よっぽど重要な理由でやって来たのでしょう…ですよね、少年君?」


「いや、俺はこの洋館の調査に…」


「調査…つまりは体験に来たんですね?」


「いや何でだよ、明らかに俺今『調査』って言いましたよね?何でそのワードから『体験』というワードに行きついたんですか?」


「でも、この店に興味を持ってたんじゃないんですか?」


「違う意味での興味ね、『このお店で働きたーい』の意味での興味ではないから!」


「でも……………ここに来たからには、ただで帰す訳にはいかないよね、マスター?」


「そうですね、せめて…あれだけはさせないと気が済みません」


な、何だ何だ!?何をするつもりだアンタ達!?俺は影魔法を使って脱出しようとしたが、謎の女性の妨害で発動する事が出来なかった。


「何で逃げるのぉ~?怖い事はしないから大丈夫だよぉ~?」


「言い方が怖いんじゃ、優しい言葉で話してくるから怖さが累乗して『ヤバババーン状態』になってるから!」


「アレをして頂ければ、帰っても良いので?」


お…おぉ…終わったぁー!!えー、ナニコレェ?見た目は清楚なのに中身はド級の変態だった女性とラブホに行ってしまった後悔と同じ恐怖しか感じないんですけどぉー!?いやいや、一旦状況を整理しよう。調査に為にこの洋館に潜入した、住人に見つかりピンチになる、その住人からエライ目に遭おうとしている…おいおい、このままだとバッドエンドの未来しか見えないんですけど!?もしそんな事が起きてみろ、自立心が崩壊すっぞ!?


「君、名前は何て言うの?」


「せ、セイバー・クラニカルです」


「セイバー君、ここでは珍しい名前だね?」


「な、何をするつもりですか!?」


「味見だよ、あ・じ・み・?」


あ…味見?つまり…タダ飯!?あぁ~、サイコーだサイコーだサイコー!


「なので、こっちに来てください?冷めないうちに…」


そう言われ、俺は謎の男性の元へと向かった。




 こ、これは一体何の料理だ?綺麗なライスの上に泥みたいに茶色い液体が掛けられている…しかも、その液体は何か温かい…に、匂いはとても美味しそうに感じるけど…見た目が完全に糞尿その物なんだよな。この料理を初めて見た人からすればゲテモノを食わされているとしか思われ兼ねないぞ?実際、その料理を前にしている俺も「美味しい味のウ○コ」を食べさせられているとしか思えないから…良いなぁ、俺の村では今日も見た目が美味しい料理が出て、それを村の皆で楽しく食べているんだろうな、良いなぁ…恨めしいなぁ…俺と代わってくれねぇかなぁ!!


「早く食べないと『カレーライス』が冷めてしまいますよ?」


「温かいうちが美味しいからね…何で顔が真っ青になってるの!?」


「いや、そりゃ真っ青にもなるでしょ?だって、初めて見る料理を…しかも見た目が完全に糞尿のそれにしか見えない代物を目の前にして顔面蒼白にならない方が不自然ですよ!てか、『カレーライス』?何ですかその料理名?初めて聞いたし、聞いただけで辛そうなイメージしか感じないんですけど!?」


「良いから食べるのだぁ~、食べないなら…マ〇〇ガムテープの刑にするよ?」


「え?何て言った、今アンタ?」


「だから、マ○○ガムテープの刑にするよ?」


「二回言ったわマ〇〇ガムテープ、放送出来る訳ねぇだろそんな卑猥な刑罰なんか!」


「良いから食べるのだぁ~!」


「わ、分かりましたよ…では、一口だけ…」


俺は人生最大の覚悟を以って見た目が完全に糞尿であるそれを食らった。口に入れた時は糞尿の最低な味がすると思っていたが、実際は違った様だ。口の中に流れたのは香辛料の効いた癖になる味だった。


「う…美味い!?こんな糞尿みたいな見た目なのに…想像した数千倍は美味い!」


「一言余計ですけど…(怒)?でも、その言葉が聞けて良かったよ…ね、マスター?」


「ですね…ですが…」


(謎の青年、セイバーの腹に一撃を与える)


「グヘェッ!?」


「本当に一言余計ですね?その減らず口、どう調教してあげましょうか?」


「何で先に殴るんだよ、俺が先に殴ったんならまだ分かるけどただ見た目をディスっただけじゃねぇか!それなのに手を出すなんてアンタ本当に大人か!?」


「大人ですよ、もう数千年も生きている立派な大人ですよ?」


「それが真ならアンタ人間じゃねぇよ、人間は最大でも100年しか生きる事が出来ないんだと教科書に書いてあるんだよ!」


「そう、人間族【ヒューマン】なら…ですね?」


俺がそう綺麗なツッコミを入れると、俺の目の前に居る二人は何かの魔法を…いや、付与している魔法を解除した。すると、二人の頭に獣の耳みたいな物が飛び出し、腰からはふさふさとした大きな尻尾が…女の人は一本、男の人は九本生えてきた。


「あ………その姿は!?」


そう、その姿は紛れもない獣人族【ビースト】だったのだ。いやいや、別にこの世界で獣人族が珍しい事ではないのだけど…俺がこの目で見たのが初めてだったという訳で、たぶん別の町に行けばいっぱい獣人族は居ると思うよ!しかし、今の俺は人間族以外の種族に出会った事が一回も無いのでこんなに驚いている様に見えるだけなのだ。決して、決して人間族以外の種族を「人外」として見ている訳では無い。


「う…うわぁ…」


「何ですか?そんなにジロジロと見られると緊張してしまいます…」


「あぁ、すみません…獣人族を見るのが初めてだったので、つい…」


「獣人族を見るのが初めて…ここから近い町に行けば獣人族なんかたくさん居るけどね?」


「あ、俺…昨日その町に来たばかりなので…」


「見た所…冒険者になりたてと言った所だね?だったら知らないのも仕方ないか…」


「私達の本当の姿の事はどうでも良いんです…それより…」


そう言うと、謎の男の人は俺に顔を近づけてこう問いて来た。


「君は何をしにここに来たのですか?」


「そ、それは…」


「もしかしてぇ~、この館の事について調べに来たのかニャ~?」


「な、何故それが分かったんですか!?」


「あれれぇ~?私はカマを掛けただけなのにぃ~、図星だったのかニャ~?」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…!」


一瞬にして俺の目的がバレてしまった。クソォッ、俺の口がもう少し固ければ…俺がそう悔恨していると、謎の男の人が俺の顔を見てこう言った。


「安心して下さい、別に命を食ってしまう事はしませんよ?」


「え…?」


「おっと、まだ自己紹介がまだでしたね?」


「そういえばそうでしたね」


「私は『サファイアル・レクイエム』、どこにでも居る普通の喫茶店の店長です」


「私は『サルタ・ラウアリア』、この店で働く普通の女の子なのだぁ~!」


「その口調の時点で普通の女の子ではないでしょ、語尾に『ニャ~』や『のだぁ~』とか付けて喋るの恥ずかしいとは思わないんですか?」


「思わないのだぁ~、ここには私とマスターしか居ないし…」


「今は俺も居ますけど、聞いて見てるだけでも『恥』の塊と話してるとしか思えないんで今すぐ止めてくれません?知人として恥ずかしい気持ちしか感じないし…」


(サルタ、セイバーの体を羽交い絞めにする)


「いだだだだだ!?落ち着いてくださいよ、ちょっとディスっただけで兆倍にして返す必要ありませんよね!?てか、こんな事平然とするなんて…貴方何歳ですか!?」


「750歳なのだぁ~!」


「俺の50倍は生きてるな、おい?何ですか、人間族と違って寿命が長いから精神の発達も遅い傾向にあるんですか!?」


「ちなみに私はさっきも言いましたが、数千年は生きていますよ?」


「年上アピールしなくて良いから、てか何で二回も言ったんだよ、言葉の押し売りみたいで気が引けるんですけど!?」


「私の50分の1と言う事は、セイバーはまだ15歳と言う事になるけど…子供だニャ~」


「かなり年取ってるのに心が幼いままの人には一番言われたくない台詞堂々の第一位なんですけど!?逆に言うとまだ15年しか生きていない俺にその点を指摘されてる時点で恥ずかしくはないんですか!?」


「恥ずかしくないのだニャ~」


「だ、ダメだこの人…心が小学生…いや、幼稚園生にも失礼なくらい幼過ぎるよ…」


「まぁまぁ、彼女にはあとからちゃんと躾を付けさせますから…ね?」


「ニニャッ!?」


な、何なんだここは?「謎の洋館」と言ってたからてっきりもっと悍ましい光景が目の前に広がるかと思ったら、何だかごく普通の料理店みたいな微笑ましい光景だったんだけど?このままだと冒険者ギルドに報告し辛くなるんですけど?


「さて、セイバー君の目的も分かりましたし…明日から君にはここで従業員として働いてもらいます」


「………………はい!?」


「だ・か・ら…明日から君にはここで従業員として働いてもらいます」


「二回言わなくても何を言ってるのかは分かるわ、俺が問いたいのは何をどうしたらこの店で働かせる事が出来るかについてだよ!」


「あぁ…そうですね?………私が決めた事が絶対であり、私が首を縦に振ればそれは絶対に覆らない事になります」


「どこぞの鬼の王みたいな事言うんじゃねぇよ、それを『理不尽』って言う事を知らないんですか!?」


「あぁ、もし従わないと言うなら…マ〇〇ガムテープの刑に処しますよ?」


「だから何だよその『マ〇〇ガムテープの刑』って、言葉からして何かとんでもない事を執行する未来しか見えないけど、さっきも言ったがそんな卑猥な刑罰執行出来る訳ねぇだろうが、やるなら画面の外でやれ!」


「では…画面の外でセイバー君を侵しまぁーす!」


「マスター、いつでも準備OKだよ?」


え?……………はぁぁぁぁっ!?まさかこの人達、本当にその「マ〇〇ガムテープの刑」を執行するつもりなの!?いや、ちゃんと画面外でやるから良いんだろうけど…いやいやいやいや、画面の外でもそんな事しちゃいけないよね!?そんな事したら前回同様に落とされるよね、もう二度と同じ過ちは犯さないぞ!俺は両脚にありったけの力を籠めて二人から距離を取った。しかし、俺の動きよりも速いスピードで二人は俺の体を縄で縛った。


「んー!?んんんー!?」


「さてさて、今夜は長い夜になりそうですね?」


「三人で…オールナイトしようね?」


『いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』


その後、俺はこの店で働く事を条件に縄による拘束を解いてもらえました。はぁ…どうなるのかな、俺の冒険者ライフ…

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