4.狐とステボと前科持ち(1)
「あ
という声が思わず出たが、痛みなど気にしていられない。すぐに顔を上げて着流し姿の青年を目で追う。
「ウイナ、サイネ!」
「任せるのじゃ!」
「お任せなのです!」
女の子たちが青年に返事をし、向かい合って互いの両手の平を合わせる。
「【神楽舞台】!」
二人が可愛らしい声で元気よく唱える。と、砂浜に神宮などで目にする舞台が生じた。
「な、何だありゃ」
呆気に取られている間に、三人が舞台に跳び乗る。
青年が横笛を吹き始める。その篠笛に似た和の音色が辺りに響き渡るや
片足で二度跳ねて、両足で着地。半回転して同じことを繰り返す。場を動かずにケンケンパをしているような感じだ。
いや、しかしあれは……。
三人とも淡い金髪なのは置いておくとして、頭頂部の左右に狐を思わせる耳があり、尻にもやはり狐のような、ぽってりした膨らみのある尻尾が生えているのはどういうことなのか。
「コスプレ、じゃなさそうっすね」
「うん。諸々説明できないことが起きてるよ。会社に連絡したいんだけど」
「何言ってんすか。それどころじゃないっすよ」
俺が状況に混乱しているうちに、海から巨大な黒い塊が持ち上がる。
その歪な球状の黒塊はまるで吸い上げられるようにして上空に向かい伸びていき、か細い糸のようになって消失した。
「あー! リンドウ、また出たのじゃ!
「はぁ⁉ 今終わったばっかりやんか!」
「そ、そんなことウイナに言われても困るのじゃ」
「凹むなや! 機嫌直してくれ! ええい次から次へと出くさりよってからに! サイネ! 今度はどこや!」
「レンゲ山なのです! 中腹に反応があるのです!」
「国境付近やないか! ミヤ様来てくれるんかいな⁉」
「来てもらえなかったら、一家総動員して散らすしかないのです!」
「ええい! 渡り人もおんのに! いくらわしが天才術師やいうてもやな、なんぼなんでも限度があるやろ!」
リンドウと呼ばれた青年が不機嫌そうな顔をこちらに向ける。
「ぬあああ! おいそこの二人! 迎え来させるから、そこでおとなしゅうしとってくれや! 絶対に動くんやないで! これ振りやないからな!」
リンドウは、ウイナとサイネを手招きして呼び寄せると、即座に抱えて地面に沈むように一瞬で姿を消した。
「消えた」
「消えましたね」
「うわ、何かもう、何なんだこれ、あり得ないって」
「そっすね……ステータスオープン」
俺が頭を抱えた直後、不意にカタセ君が謎の言葉を呟く。
何言ってんの? と思ったが、カタセ君の顔に驚愕と喜色めいたものが浮かぶ。
「ど、どしたの?」
「ど、どうしたもこうしたも、見えないんですか⁉」
「な、何が?」
「これですよ、これ!」
カタセ君が興奮した様子で目の前を指差す。俺には何も見えず困惑する。首を傾げて渋面を作って見せると、カタセ君が思いついたような素振りを見せた。
「そうだ、そうっすよ! カガミさんも言えばいいんすよ!」
「え、何を?」
「ステータスオープンって!」
詰め寄られて、少しばかり恐怖を感じる。
嘘を言っているようには見えないが……。
俺が羞恥心で言い淀んでいると、カタセ君が小声でブツブツ言いながら空中で指先を動かし始めた。
怖いな、おい!
どう見てもストレスでおかしくなったようにしか見えない。不安になって色々と心配している間に、カタセ君が真面目な顔で呟いた。
「これでどうっすか、ね」
直後、カタセ君の顔の前にA四サイズほどの薄く透明な板が現れた。
それを見て俺は言葉を失う。
「見えます?」
「え、あ、ああ、うん。見えるね。何か、硬いフィルムか、薄いアクリル板っぽいものが、ハッキリ見えてる」
「ああ、良かった。ちょっと触ってみたら、タブレット端末みたいに操作できたんすよ。項目ごとにオンオフ切り替えられるみたいですね」
「そ、そうなんだ。凄いね、よく気づいたね、これに」
「いやー、状況的にあり得ないことが起こりまくってるんで、まさかなーと思いながら言ってみた感じですね。そしたらホントに出たんでビックリしました。カガミさんも早く出してみてくださいよ、ほら、ほら」
「あ、うん、分かった。ス、ステータスオープン」
目の前にステータスボードが現れる。名前、年齢、性別、種族と続き、その下に能力値が載っている。その中で気になる点がいくつか。
「これ年齢が違うね。それと種族が人族ホウライってなってるけど何だろ?」
「表示されてる年齢は実年齢より上っすか?」
「いや、下。十九歳って」
「それなら見た目通りっすね。俺の表示は二十二歳で合ってますし、カガミさんも合ってると思いますよ。やっぱ若返ったんですって」
若返った?
俺は自分の顔や体に触れて確認する。目視でも確認するが、確かに肌の張りと潤いが違う気がする。今更だが首や腰も痛くないことに気づく。
「えー⁉ なんで若返ったんだろ⁉」
カタセ君は「さぁ?」と一言。まるで興味がなさそうに流して言葉を続けた。
「で、えっと、ホウライですね。俺も同じこと書いてあるなぁ。んー、多分、種族の後ろにあるのは出身国名とかじゃないっすかね?」
「いや、それだと日本って書かれてるでしょ」
「そうじゃなくて、今俺たちのいる国の名前ってことですよ。最初に立った土地の出身になるとか。それか、こっちだと日本のことをホウライって呼ぶとか」
なるほど。まぁ、日本が
いやあり得ないだろう。何を納得しかかっているのか。
俺は頭を抱える。なんなんだこの状況は。
「そうね。そうかもね。しかしカタセ君は順応性が高いんだね」
「え、そうですかね? まぁ、ゲーマーなんで、こういうのだけは順応早いかもしれないっすね。てかこれ、おかしいんですよね。ライフの数値がないんですよ」
「ライフって生命力のこと?」
「はい、
確かにそういう表示はない。
「魂格は、表示位置からしてレベルっぽいね。んー、ライフの値がないのもそうだけど、この巧力っていうのは何だろうね?」
「手先の器用さじゃないすかね。手先だけかは分からないですけど」
「どういうこと?」
「指先を巧に使えるってことは、それだけ脳を上手く使えてるってことだと思うんで、総合的に体を上手く使えるってこともあるかなーって」
そういうことか。と俺は頷く。
「確かに、動体視力とか精密性に関する項目もないね。結構ざっくりしてる。巧力に含まれてるって考えても良さそうだね」
「多分ですよ。多分」
俺はふと思いつく。
「ライフ表示だけどさ、なくて良かったんじゃないかな?」
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