アエテルヌム1


 ミコ・サルウェの西南にある、アエテルヌムのステップ。


 未だ、空気に青みの残る薄明時。

 陽光の元ならば、息をのむほど何処までも続く緑の平地に、ぽつりぽつりとヒトが小さな塊となって集まってきていた。


 その中の一つ。

 ソォール達、蠢くインプ団の6人がいた。

 

 UC蠢くインプ団 闇闇

 蠢くインプ団が場に出た時、1/1のインプトークンを2体場に出す。

                1/1


 FT--------かつて強大な力をもった悪魔も、こうなってしまっては

               一山いくらでドラゴンの餌になる


 インプは体長1m程の小悪魔で、一応、背中には羽が生えてはいた。

 もっとも、退化しており、飛ぶことは出来ない。

 素早さが高く、悪戯が得意。

 しかし、それ以外と言うと、取り立てて、何が出来るという事はなかった。

 

 カードゲームであった頃は、一枚のカードで3枚分のユニットが展開できるのだ。

 レアでこそ無い、超優良カードとして、様々なデッキで使用されていた。

 

 しかし、ゲームの様な短期決戦でもなければ、そもそも敵がいるわけでもない。

 現在、インプ達も一般国民として、ここ、アエテルヌムでのんびりと農業生活を営んでいた。

 

「お~う……ソォール。相変わらず、お前んところは朝から元気だな。」

 彼等インプ達に体長2m弱程、蛇人(へびびと)のミルザが眠そうに話しかけてきた。

 

「カハハハ。うちじゃなくても、ミルザ以外は皆元気だよ。」

「そうか~? そうかもな~。」

 

 ミルザは、頭をふらりふらりと揺すりながら、適当な返しをした。

 

 蛇人は、身体は人間、首から上は変温動物の蛇であり、朝方、すぐには体温が上がりきらず、1時間、2時間と、だいたいは、いつもこの調子だ。

 他のほとんどの蛇人や、似た種族のラミアは、より温暖な港町アルテラに住んでおり、もともとは、ミルザもアルテラに住んでいた。

 

 ただ、アルテラは治安が悪い。

 三日に一度は、何らかのグループが抗争を繰り広げており、実に騒々しいのだ。

 

 終いに、ミルザの住まいが巻き込まれ、全焼したとあっては、それをきっかけに嫌気がさして、彼は引っ越すことにしたのだ。

 

 蛇人は水気の多い土地を好む。

 その条件で穏やかに暮らそうと思えば、フェルム川の流れる大穀倉地帯アエテルヌムか、その南部イロンナの果樹林、陽緑の湿原:ハインホーム、この辺りが選択に上がってきた。

 

 陽緑の湿原はミコ・サルウェでも北東部に位置しており、米所として知られている。

 悪い所ではない。

 ただ、近くには冠雪の山麓:オーラクルがあり、冬場は少々、蛇人には寒さがこたえた。

 

 であればと、西部に位置するアエテルヌムへと移住する事にしたのだ。


「そんな調子で、肥溜めに突っ込まないでくれよ?」

 

 ソォールに悪意があるわけではない。

 ただ、悪魔種のインプが言うと、心配した言葉も揶揄い言葉、悪戯してその様にするぞ。

 という風に、傍からは一見、見えてしまう。

 しかし、ミルザはソォールの意図を、誤らず受け止めた。

 

「大丈夫だ。今日の当番は畑作業じゃなくて、牛の世話だからな~。溜め込みじゃなくて、出来立てほやほや。突っ込んだら暖かいぞ~。」


 ミルザは鋭く見える目をいっそう細め、楽しそうに、とんでもない事をのたまった。

 

 ソォールは苦笑いを浮かべた後、処置なしとでも言うように、呆れて首をふった。

 

 アエテルヌムでは、酪農、養鶏、畑、飼料栽培と、4つの仕事を専門ではなく、輪番制で行っていた。

 もともとは、それぞれの適性が解らない事から、始まったことであった。

 ただ、それが今では、習慣として根付いてしまったのだ。

 飽きっぽい、気まぐれ者の多い土地柄、むしろ、この方が合っていたのかもしれない。

 

 彼等は話をしつつ、牛舎の前でミルザと別れ、今日の作業場へと辿り着いた。


「なあ、今日はトマトとナスになんだっけ?」

 兄弟の一人カーズが、誰ともなしに今日の作業内容の話をふってきた。

「ピーマンって聞いてるけど。ただ、作付けの前に土を返さないといけないだろうな。」

 

 いったん植えた後は、魔法の力で随分と不自然な農業が始まるミコ・サルウェ。

 ただ、意外とそれまでの過程では、手で石を取り除き、雑草を刈り、鍬で土を掘り起こし……と手作業で多くを行っていた。

 また、アニムの入れ知恵によって、連作障害なども考えられており、非常に中途半端にファンタジーな農業であった。

 

「うへ~……俺、掘り起こすの苦手なんだよな……。」

 兄弟の一人、プレイグが顔を顰めた。

 

 体の小さいインプにとっては、土を掘り起こすという作業は、存外に疲れる。

 また、力が弱いため、農具を使うのも不得手としていた。

 

「しょうがないだろ? 魔法でひっくり返しても、しっかり鍬を通さないと、石砂利に気付けない。」

 ソォールは諭すように、プレイグに話した。

 

 ソォール、イル、コマ、プレイグ、カーズ、ポックス。

 蠢くインプ団2枚から召喚された、6人兄弟は、立場も同じ、上下関係も存在しなかった。


 しかし、性格にはそれぞれ違いがある。

 その性格の影響か、気ままなインプのくせに、しっかり者と言われるソォールが、皆のまとめ役になる事が多かった。

 

「ふふふ、プレイグだってトマト煮込みとか、ピーマンの肉詰めは好きでしょ? 頑張らないとね。」

 

 女性インプであるイルが援護をくれた。

 なお、イル、そして、コマが女性体である。

 

「ククク、力仕事は私達じゃあ゛、役に立でないがらね。疲れるげど、単純な体力仕事で少しでも貢献じないど。」

 少し聞き取りにくい、ガラガラ声で話すのは、生まれつき喉と舌に障害を持っているポックスだ。

 

「前のナズは、失敗しでしまっだからね~。私はあんだ渋ナス、初めて食べたよ。」

 

「……そんな事言って。チーズと一緒に焼いたら、皆、バクバク食べてた。」

 

 ぼそぼそと小声でコマが言う。

 ほんのりと口元が笑っているのは、呆れている苦笑いなのか、ポックスを揶揄っているのか。


「おや? ぞうだっけ? バハハ。火を通したナスは、どうしてあんなにも美味しいんだろうね?」

 少し恥ずかし気にした後、ポックスは、誤魔化すように頭を掻いた。

 

「うふふ……本当にそうね。この前のナスは全然売れなくって、困っちゃったから。みんながナス好きで助かったわ。」

「そうだな。」

 

 ポックス、イル、ソォールにはそれ程、苦にならなかったようだ。

 


「俺は暫く、ナスはいいよ……。」

 プレイグはここでも嫌そうな顔をした。

「……プレイグは今日もナスだけ……。」

 そんな彼をコマは、彼を揶揄った。

「え!? なんでだよ!?」

 

 家で料理を担当しているのは、コマとイルの女性陣だ。

 本当にそんな事になっては堪らないと、プレイグは必死になってコマに詰め寄った。

 

 しかし、コマはその様子を面白がって、不敵な笑みを浮かべながらするすると、逃げ回った。

 

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