ep3
薄暗い神殿の中に一人、顔立ちの鋭い男が、中央の台座を前にして跪き、祈りをささげている。
その台座には、無貌無形の存在を、無理やり象ったのだろうか?
グロテスクな、かろうじて四肢の様な、人の形をした様な、曖昧な姿をした像が祭られていた。
男の着る衣装は、薄桃でヒラヒラとし、日本人ならば袴を連想するような出で立ちである。
あまり、この世界で見られる姿ではない。
------たったったった。
男と同じ服を着た、別の男が早足で現れた。
此方は、先ほどの男よりも幾分、柔和な顔立ちをしている。
「カバス、スカリオンが潰されたようだ。」
事実に比べると、やや過剰な言い方。
男の声は、さばけていたが、そこには確かに焦りの念が籠められていた。
「ふん。スカリオン? ああ、あの東の気狂いどもか? 我々は天使様を信仰するとか言ってたが、天使様は守ってくれなかったのかよ?」
カバスと呼ばれた男は、一つ鼻で笑うと、顔を歪め、嘲笑の笑みを深めた。
「深更(しんこう)が戻った。」
「!? まて、ヴォイド、何故だ!? 早すぎる。まだ『色のない獣』は起きんぞ!」
途端に、カバスは焦った表情を浮かべ、自らがヴォイドと呼んだ男へ詰め寄った。
「白日の姫の仕業だ。……獣はおろか、我々は巫女すら手に入れていない。それどころか、あの大陸に対する影響力も皆無……。」
「くそ! スカリオンのせいだろうが!」
近くに置いてあった水差しを、カバスは苛立たし気に蹴りつけた。
------カーン、バシャーン。
床に水が、静かに、炎が広大な原野を燃え広がるかの如く広がっていく。
それが、とある者の仕業を思い起こさせ、カバスもヴォイドも、眉を顰め、その広がる水を睨みつけた。
しばらく、沈黙が、場を支配した。
先に、口火を切ったのはヴォイドだった。
「何にせよ。我々は動き出さねばならなくなった。私はやることをやる。……終わらぬ日を求めて。」
そういって、ヴォイドは来た時と同じように、早足で去っていった。
カバスはギラリと、その鋭い目で、ヴォイドの後姿を見やると、同じように
「終わらぬ日を求めて。」と告げた。
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