開戦2
------ゴゴゴゴゴゴゴ……。
逃げ惑う兵士を、大きな影が覆った。
上空で何か、巨大な物の風切る音が、地鳴りの様な物として、地上まで届いているのが聞こえた。
耳を塞がねば倒れ込みそうになり、思わずマイセンは足を止めてしまった。
彼の心に、冷たい恐怖と諦観が満ちてくる。
それを必死で振り払い、上空を見上げた。
それは巨大な鯨だ。
パープルグレーで、シロナガスクジラに酷似している見た目。
体長1000メートルを優に超える長大な体躯で、悠然と天空を大海の様に泳ぎ進んでいた。
※UC|雲吞(くもの)み 水水水光光③ 怪獣・鯨
飛行 毎ターン光水を生み出す。
15/15
FT--------空を雄大に浮遊する空鯨の潮吹きは、幻想的で美しい……だが、それ以上に恐ろしかった。
悠久の時を生きる、空鯨。
かつては、その背に都市をまるまる乗せて、天空を回遊していた。
今では、その都市も、鯨の潮吹きが洪水を呼び、押し流されて滅んでしまった。
マイセン、そして兵士たちはその姿に圧倒され、声を挙げる事すらも出来ないでいる。
あまりの強大さに、錯覚でも起こしていたのか。
鯨の進むスピードは、マイセン達の思っていたよりも、倍以上速かった。
このような生物と、どのように戦えというのか。
この鯨にしてみれば、マイセンの持つ剣など、人にとってのバラの棘よりも矮小な、それこそ繊毛(せんもう)の様な存在だろう。
鯨はマイセン達や、シルバの街を無視し、北の空、王都のある方へ飛んで行く。
マイセンの身体はやっと鯨の尾が見える辺りまで、到達した。
しかし、その後ろには、鯨と比べれば、常識を忘れていない範囲とは言え、人と比べるには十分に大きな怪鳥や、飛龍、グリフォンの様な飛行生物達が追従していた。
その中の一つ、マイセンの位置からでは遠目でハッキリとは見えないが、恐らく鳥の羽を背中に生やした翼人か。
その者が隊列を離れて停止し、右手を頭上に掲げ、その右手が光を集め始めた。
※R上昇する光 ゼラス 光光光④ (天白師団 師団長) 鳥・人間
飛行
飛行を持つユニットは+1+1の修正を得る。
ターン終了時、1/1の鳥トークンを生み出す。
5/7
「逃げろ!!」
マイセンの背中を、嫌な予感が駆けあがり、半ば反射的に叫んだ。
次の瞬間には、翼人が右手を頭上から振り下ろす。
すると光の槍が、一本の筋を作り、マイセン達の頭上を通り越して飛んで行った。
領都シルバには盗賊の侵入や、魔物の襲撃を防ぐための備えとして、街の正面に大きく厚い金属の門があった。
出撃の際には、当然、閉じてきたその金属の門へ、その光の槍はそのまま突き刺さり、爆発。
爆風と共に門を、外側から内に向かって吹き飛ばした。
「馬鹿な……。」
マイセンも兵士たちも、その様子を唖然と見るしかなかった。
それでも無意識に、指揮官の思考でも働いたのか、マイセンは、これで街に籠って籠城という事は出来なくなってしまった。
ではどうするのか。
そう、一瞬、冷静に考えた。
しかし、続いて出てきたのは乾いた笑みだった。
(……いや、もう、解っているのだ。)
この襲撃者たちが何者かなど、マイセンは知らない。
しかし、マイセンは、この一連の出来事に、ベンデル王国の滅びを見た。
周りを見ると、ポカンとした表情で立ち尽くす者、絶望に膝をつくもの、大別すると皆、そのどちらかである。
マイセンは、身に着けていた剣と盾を、力なく地面に放り投げた。
------ヴゥオ!!
振られた槌の先端が、マイセンの顔前でピタリと止まった。
幾十もの、人間を壊してきたはずのその槌は、その凶悪な遠心力によって飛ばされたのか、不自然なほど、汚れてはいなかった。
その持ち主へと、マイセンが顔を向けると、思っていた通り、先ほどの女が槌を構えていた。
この者たちが何者なのかは、分からないままである。
自身も粉々にされるのかと思っていた。
しかし、どうやら武器を持たぬ者は襲わないらしい。
「全員投降する。我々の負けだ。」
マイセンはそう告げると、その場にへたり込んだ。
ミコ・サルウェ歴 51年6月
ミコ・サルウェ軍はベンデル王国へ侵攻。
ベンデル王国は突如現れたミコ・サルウェ軍の航空戦力になすすべもなく。
王都は瞬く間に陥落し、降伏する事となった。
これにより、ミコ・サルウェは3つの地方を支配する、東の大国として、今後、世界の歴史に登場する事になった。
ユリン・シェヘラザード「ミコ・サルウェ正史」より
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