開戦1
また雲が出て、太陽は不機嫌そうに、その陰へと姿を隠した。
いつから、そこに居たのだろう。
鬱蒼とした密林の中も、原野を走る騎馬が如く進む彼女たち。
緑旗に金糸で描かれた獅子の軍旗、ミコ・サルウェ軍、陸上機動電撃師団:群緑師団。
人間の足では、休み休み一日という道程も、彼女らの機動力、そして体力ならば半日とかからなかったようだ。
ミリーの隣には、巨大な槌を肩に担いだ女が立っている。
女はニヤ~っと、狼の獣人のくせに、まるでネコ科の猛獣を思い起こさせる獰猛な笑みを浮かべた。
「あんた、しばらく見ないうちに、随分良い面構えになったじゃない。」
内心、彼女は激昂しそうになる己を、その強靭な精神で抑え込んでいた。
ミコ・サルウェではCOKのシステムが反映されているのか、土地にユニットをセットする事によって、アニムの目には様々な資源が生まれてくるように見えている。
しかし、セットされる事によって、ユニットの行動自由が奪われるということは無かった。
その土地にセットされたユニットは、国家行政上は執政官と呼ばれ、貴族という訳ではないが、一応、その土地の主として認知されていた。
彼女は、この度の東から受けた侵略において、もっとも被害を受けた、土地:アエテルヌムのステップの執政官であった。
アエテルヌムのステップでは、敬愛する王、その王の愛する民達の為、広大な大地を活かし、どんどんと開拓を進め、その土地の大半を農耕地、牧畜の為の牧草地としていた。
アエテルヌムのステップは、いずれミコ・サルウェで最も豊かな土地として名を馳せるだろうと言われ、それは彼女の密かな自慢でもあったのだ。
しかし、その様な場所も今は昔、その土地は復興の途にあるとはいえ、焼かれ、殺され、踏み荒らされた。
挙句の果てに、安全のため、余所に預けたはずの友人は大変な目にあっている。
彼女のハラワタはマグマの様に煮えたぎっていた。
これは半分は八つ当たりかもしれない。
防衛線においても、逆侵攻した際にも、群緑師団は数の問題で、前正面に思い切りぶつかる事は叶わなかった。
この怒りを何処にぶつけたらよいのか。
「ここからは、あたし達の仕事だよ。」
ただ
勇壮なドラゴンでさえ、それを抱えて飛ぶことは出来ない長槌。
それをひょいと、まるで筆でも扱う様にくるりと回し掲げると、跳ねる様に歩き、近くにあった巨岩の下部を、勢いつけて思い切り殴りつけた。
------ガギン!!
強烈な金属音と共に、巨岩は地面より離れ飛んでいき、前方の領軍、その隊列の中央に突き刺さった。
最早、彼女の前に質量がどうとか、浮力がどうとかいう、物理法則などというものは全く価値を持たない。
存在が
この一撃で、領軍に10数人の死傷者が出た。
領主軍に見る見る動揺がはしり、隊列は乱れた。
師団長による一撃。
これにより、この戦いはミリー1人の戦いではなく、ミコ・サルウェの戦いへと変わった。
彼女の名はベスティア・ファミリーウルフ。
EOEはカードゲームだが、カード個々だけでなく、時代や地域、国の違う世界観を紡いだ、いくつかのストーリーが存在する。
そのストーリーにおいて、彼女は幾度も登場する主要キャラクターの一人だ。
元々は無類の強さを誇る傭兵団の団長であり、後(のち)にとある王国につかえ、王の右腕と呼ばれた女傑。
現ミコ・サルウェ軍、群緑師団 師団長、戦神のベスティアであった。
※Rベスティア・ファミリーウルフ 土光③ 人間・獣
連続攻撃
10(5+5)/10(5+5)
※UC破城の大槌 ⑤ 装備品⑤
+5/+5
装備したユニットは飛行を失う。薙払を得る。
「おい!てめえら!あたしの分も残しとけよ!」
さっさと手を出した事は棚に上げて、その様に吼えると、ベスティアは獰猛な目を血走らせながら、領主軍に躍り掛かかった。
その声を境に、群緑師団の団員達は次々に隠形を解き、大小様々がミリーを追い抜いていった。
※密林のハンター 土② 獣・猫
味方の獣は隠形を得る。
2/3
ミリーは強靭になった体の御蔭か、すぐに命がどうこうという事は無かった。
しかし、本来は戦いを行えるような状態ではなく、気を解けば身体に無理が来る。
張り詰めた気が解けたのだろう。
腰が抜けたように座り込んだ。
剣を握る手も力が入らず、不確かで、頼りない感触しか感じられない。
その後ろに、覆うような影が差した。
「嬢ちゃん。間に合って良かったでさあ。」
「カミュウさん。」
「嬢ちゃんの友達は、あっしらじゃあビビられちまうんでね。陛下のご指示で赤武の奴らが保護に向かってまさあ。」
「そっか……。良かった。」
「さあ、随分、血を流してるみたいでやすが、嬢ちゃんにも死なれると困るんでね。後は、団長らに任せて引っ込みますよ。ほれ、天白師団(てんびゃくしだん)も来やした。」
ミリーは気付いていなかったが、後方上空を巨大な生物が近づいてきていた。
そして、その後ろには、沢山の鳥や飛龍達が連なっていた。
マイセンを含め、領軍は混乱の
軍を纏めている途中、開拓村から人の回収を命じた者達が、目の前で賊に襲われており、急ぎ救援へと向かっていたのだ。
しかし、それには間に合わず、悔やみながらも、不貞不貞しく仁王立ちで待つ下手人を捕らえ様と軍を進めて居た時、そんな矢先だった。
突然、巨岩が飛来し、戦闘が始まってしまう。
(何が起こっているんだ!?)
戦場は怒号が響いていた。
「おい! なんだ、こいつら人間じゃないぞ! 魔物だ!!」
「ひー!?」
人に獣を足したような者、獣にしか見えないもの。
エルフや巨大な昆虫までいる。
※深淵林の捕食者 土土② 昆虫
隠形
このユニットは飛行ユニットをブロック出来る。
2/3
ベスティア等は例外とし、土属性のユニット達は、個々の力に優れた猛者、というのは少ない。
------では、彼等は弱者なのか?
彼らは、統率の取れた動きをしているわけではない。
-----では、彼らは有象無象か?
そうではない。
ただ
何故か?
彼らは個にして全、全にして個。
彼のそれぞれは、其処にいるだけで、軍団の力を増すのだ。
絆の軍団。
※UC森狼 土土 獣
土属性マナを持つユニットは+1+1の修正を得る
1/2
「くそ!? 早い! 回り込んでくギャー!?」
※
獣のユニットは先制を得る
2/1
「盾を構えろ!」
「そんなバカな!? だめだ! 盾じゃ……ぐぶァ!?」
なんとか、体勢を立て直そうとする者もいたが、象の様な見た目をした獣に、構えた盾、それ諸共踏みつぶされた。
※踏壊獣 土③ 獣
薙払 他の獣ユニットは薙払を持つ
3/3
「ハッハッハ。悪いな、人間。」
(人の言葉を話しただと!?)
「くそ!」
マイセンは、巨大なカマキリの様な見た目の魔獣と、切り結びながら悪態をつく。
(くっ! だが、今はそんな事より……一番やばいのはあの女だ!)
「死に腐れ! 馬鹿どもおおおおお!!」
身の丈を超える長大な槌を振り回し、どのような尽力をしているのか。
彼女は悠々とした槌の一振りで、数人を挽き潰していった。
巨人の槌を装備したベスティアの攻撃力は10。
それが連続攻撃の能力により、20相当になる。
尚且つ、森狼などの相乗効果で30近くまでにのぼるのだ。
この世界でどれほどの意味があるのか分からないが、アニムの視点で言えば、攻撃が通れば、EOEのプレイヤーのライフ20を、一瞬で消し飛ばし、余りがでる能力値。
激しく独楽の様に回転しながら、右へ左へ、巨大な槌を振り回し、敵を薙ぎ払う緑の旋風。
ベスティアはあっと言う間に一人で50人以上の兵士を破壊してしまった。
マイセンも、武によって身を立てただけあり、全くもって弱い、という訳ではないのだ。
カード能力に換算して見るならば、個人で3/3相当くらいの能力はあり、充分に強い、達人クラスの部類である。
しかし、相手は怒れる戦神。
恐らく、彼女を相手にしては、一合とて打ち合う事は敵わないだろう。
1/1だろうが、3/3だろうが、もれなくスプラッターショーの犠牲者だ。
------ズゴン!!
領軍の中央付近が突如、地割れ、地中から雄々しい一本角を生やした、白く巨大な獣が姿を現した。
「見よ! 神無き時代に神と呼ばれた、その意味を!!Uooooo!!」
それは竦み上がりそうな声で吼えた。
途端に途轍もない冷気が、兵士たちの身体を殴打する。
獣の周辺に居た兵士たちは皆、驚愕や恐怖に顔を染めながら、身体を氷の彫像へと変えてしまった。
※R 氷河期の偽神 アイギス 光土水③ 獣
常在戦場 隠形 先制 薙払
光土水:土地を一つ対象とし、それを破壊する
8/7
マイセンは無理を悟り、撤退の号令を出した。
それを皮切りに……いや、そのような事をせずとも戦線は瓦解し、皆、我先にと逃げ出し始めていた。
撤退戦ほど、より兵士を損耗し、兵士たちは次々と打ち倒されていくものである。
しかし、それすらも、常識外な存在の前に、唐突に終わりを迎える事となるのだ。
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