昏闇世界
「……ぐっ!」
アニムは、突然、ドサリと地面に放り投げられ、腰を強かに打ち付けた。
何処までも、深く黒い世界。
様々なモノが混ざり合い、粘性があり、何かの子宮のように、クツクツと今も何かが作られているかの様な、暖かい空間。
そんな黒い世界にもかかわらず、暗いと感じるわけでもない。
事実、アニムは男:『時を廻るもの』を、『時を廻るもの』もアニムを、しっかりと目視できていた。
『時を巡るもの』は声に似合わず、若い男だった。
深い黒髪に、切れ長の目を、神経質そうに釣りあげている。
投げられたアニムは、乱暴に扱われる事に文句を言おうとも思ったが、恐らく状況的には助けられた様に思えた。
状況が良く分からない中で、文句を言うのも軽率であり、かと言って感謝をするのも抵抗がある。
結局、アニムは言葉に詰まり、黙って睥睨している男を見上げるだけとなった。
「『混沌』、今まで何をしていた。」
男はアニムの襟首を掴むと、無理やりに引き釣り上げた。
突然、怒りをぶつけられ、アニムは焦りを覚えた。
「いや、ちょっと待ってくれ。さっきの彼女もそうだけど、俺は何にも知らないんだ!!」
アニムは抗議の声を挙げるが、男は気にせず、アニムに怒気をぶつけ続けている。
「お前がいないおかげで!!……!」
アニムは腹の辺りを何かに、押されるような感触を感じた。
しかし、襟首をつかまれている為、下がることは出来ず、視線のみを下へ向ける。
すると、先日の黒い少女が、アニムと『時を廻るもの』の間に割って入ろうとしていた。
(『時を廻るもの』、だめだよ。)
「『産声』」
少女:『産声をきくもの』は『時を廻るもの』を黙ってじっと見つめる。
(……。)
「……っく。解ってる……。」
そういうと、『時を廻るもの』はアニムを離し、ばつが悪そうに『産声をきくもの』から目線を逸らした。
そして、苛立たし気にまたアニムを睨みつけた。
「いいか、『混沌』。なんでも良いから命を増やせ! お前のおかげで、こっちは大変な事になってるんだ!!」
そう一気に捲し立てると、先ほど白磁世界から消えた時と同じように、「時間だ」といって消えてしまった。
わけが分からないまま、放置され続けているアニムとしては、いい加減に我慢の限界に来ていた。
逆上したアニムは、『時を廻るもの』が消えた辺りを怒鳴りつけた。
「ちょっと待て! 時計ウサギかよお前は! どういう事だ!?」
しかし、すでに姿を消した『時を廻るもの』からの返答は無い。
「ん!!」
アニムは苛立たし気に、自らの太ももの上を拳で殴りつける。
(『混沌の種父』。大丈夫だよ。『時を廻るもの』は焦ってる様だけど。貴方は戻ったんだ。)
アニムの頭の中に声が響いた。
「待ってくれ! 何が何だか分からないんだ! 今まで、成り行きでやってきたけど、そもそも何でこんなゲームみたいな事をやらされてるんだ? 君はその答えを知っているのか?」
アニムはこの世界に来てから、ずっと疑問に思っていた事を彼女にぶつけた。
しかし、『産声をきくもの』は困ったような顔をする。
(本当に覚えてないんだね……。でも、ごめんね。今は、これ以上は無理なの。)
「え?」
(大丈夫。今まで通り、世界を生で満た……。)
『産声をきくもの』は明滅し、言い切ることなく消えてしまう。
「えええ?……何なんだよ……?」
アニムは力なく、その場にしゃがみ込み、項垂れた。
「『混沌の種父』おかえり。」
「え?」
一瞬、アニムは『産声をきくもの』が返ってきたのかと思った。
しかし、すぐに違うと気付く。
アニムの目の前には白いダッフルコートと似た衣服に身を包んだ、『産声をきくもの』と全く同じ顔をした少年がいた。
「記憶が無くて大変なんだって? 僕は『消えゆく灯火』だよ。今日は挨拶だけだけど、またよろしくね。」
そういって、彼は笑みを浮かべた。
しかし、その笑みは落ち着いた『産声をきくもの』とは違う、無邪気で、どこか揶揄うような笑みであった。
戸惑うアニムを余所に、彼が何かしたのだろう。
「大丈夫だよ。いずれわかるから・・・・・・多分ね。」
そのまま、アニムの意識は暗転した。
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