暁1

 突如、なげくミリーの上空に、黒い光が収束した。

 そして、その中より一本の剣(つるぎ)が姿を現した。


 武骨で飾り気のない、全長は1メートル半ほどの銀の直刀。




 剣は、そのまま勢いよく垂直に落下し、蹲(うずくま)るミリーの首元、その薄皮を切る様に地面へと突き刺さった。





 瞬間、ミリーを中心に、風が爆ぜた。




『uoooooonn!!』




 荒れ狂う竜巻。


 すさまじい勢いで空が雲に覆われ、降り注ぐ落雷。


 辺りの木々をなぎ倒し、家屋を吹き飛ばした。




 暴風の中心地、ミリーの首からドロドロとした黒い光が、溢れだす。

 まるで何かの生命のようなその光は、ドクンドクンと脈動し、ミリーの身体にまとわりつき、その身体を覆い隠していった。


 肩から腕へ、そして胴の方へ。


 やがて、その光はミリーの全身を覆い尽くし、脈動を繰り返しながら卵の様な姿を形作った。


---リーン……リーン……リーン……。

 

 何処で鳴っているのか、暴風の隙間に、小さく鐘を鳴らす音が聞こえる。

 

 卵型の球体は、美しい紫黒色(しこくしょく)を彩り、脈動は徐々に弱まると、ドロドロとした蠢きも収まっていった。


---リーン……リーン……リーン……。

 

 今まで、どこに居たのか、黒いタイトドレスを着た女性が、卵の影から現れた。

 彼女は柔和な表情を浮かべ、両手にハンドベルの様な物を持ち、踊る様にそれを鳴らしている。


---リーン……リーン……リーン……。


楽しそうに、言祝ぐ様に。



---リーン……リーン……リーン……。

 

 ベルが黒く輝きを放ち、煙の様な何かが、ベルから卵へと流れ込み始めた。

 その煙が流れ込むにつれて、卵は水分を失った大地の様に渇き、鮮やかだった紫黒色は黒みを濃(のう)とする。


 やがて、美しさは失われ、その役目を終えたのか、ピキピキとひび割れ始めた。


---ピキリ




 ひびの隙間から、外よりさらに強い風が噴出してきた。




---ピキ、ピキピキ




 中で、暴風が台風の様に渦巻いている様(さま)が解った。


---リリーン……リーン……リリリーン!

 

 凄まじい強風の中、髪すら乱さず、鐘を鳴らし、卵の周りを廻り踊る黒衣の女。

 

 その異様な様は幻想的とは思えない。

 しかし、不思議と神聖さを感じた。



---バキバキバキバリーン




 彼方此方、ひびの隙間から吹く、強烈な風が、殻を次々と吹き飛ばしていく。

 すると、ついに中のモノが姿を現そうとした。

 


 黒衣の女は「ふふふふ」と上品な笑みを浮かべて、周りの空気に同化する様に、溶け消えてしまった。

 

 もう鐘の音は聞こえない。

 ただ、風の逆巻く音と、激しい落雷の音だけが、地鳴る様に響いていた。

 



 黒衣の女も、卵も、何処かへ消え去った世界。

 残されたのは身長160cmほどの女だ。


 長い金髪を風に靡かせ、青いプレートアーマーにレギンス、先ほどの銀の剣を腰に履いていた。


 そして、ミリーには大きすぎて付けられなかった手袋を、彼女はピタリとはめていた。




 彼女は嵐の化身。


 風は止むどころか、さらに激しさを増し、落雷と暴風は、寵児の誕生を祝福する様に激しく荒れ狂っていた。




  ?嵐の妖精騎士(テンペストスプライト) ミリアリア・ラピリス  妖精・騎士


  飛行 先制


                               6(3+3)/7(4+3)



 


 ※R悪斬の剣 ③ 装備コスト③


   +3/+3   


  装備しているユニットは闇の呪文の対象にならない




 FT--------悪斬の天使アルテナは、神よりその剣を受け取ると、まず始めに自らの首を切り裂いた。




 ミリーはゆっくりと立ち上がった。

 自らに起きた事を、ミリーは曖昧にではあるが、理解していた。


 右手を見て、続いて左手を見る、それから新しい力を慣らすように、手のひらを大きく開き、力強く握りしめた。

 

 身体の中では、未だにドクンドクンと、心臓とは、別の何かが脈打つのを感じる。


「すーーー……ふうーー……。」

 

 脈打つ何かが、身体の外へ出て行かないように、なだめ、流れる血潮になじませる感触で、ミリーは目をつむり、深く……深く……息を吸い、それからゆっくり吐き出し、目を開けた。

 

 強風も、雷雨も、いまだに続いていた。

 ミリーが見渡すと、辺りにあった家々は半壊したり、中には全壊して、バラバラに何処かへ飛んで行ってしまった物もある。

 かつての村の光景が幻となって、ミリーの脳裏を走り過ぎていった。

  

 ミリーは一瞬、顔を悲し気に歪めた後、キリリと顔を引き締めた。

 

 目を閉じて、耳を澄ませる。


 そして、再び目を開けた時、瞳はらんらんと輝き、全身から紫電が吹きあがった。

 ミリーは大きく成長した翅を、忙しく羽ばたかせた。

 


 


「おばあちゃん、もう少し待っててね。」


『uoooooonn!!』


 風が咆哮するなか、彼女はそうつぶやき、空高く飛び立つと突風と共にすさまじい勢いで、北の空へと飛び立っていった。


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