開拓村アンオール1

 アンオールの村、村長宅。

 ラウラの母、ミファナは村の会合に出席していた。

 

 現在、村が置かれている状況は、非常に悪い。

 この村を捨て、どこかへ逃げていくべきか、逃げるというのならばどこへ行くのか。

 他の村も同じような物ではないだろうか。

 では、留まるのか。

 滅ぶ以外、道は無いのではないか。

 もともと、貴族の都合に振り回される事に慣れたベンデル王国の国民は、自由意志という物が希薄であった。

 残念ながら、同じような発言がぐるぐると回るだけで、何か決まるというでもない。


 ほとんどの村人は、諦めているのだ。

 

 開拓村と言われるアンオールだが、開拓村と言われている村は、実際のところ、国中に沢山あるのだ。

 

 開拓に失敗すれば野垂れ死ぬ。

 成功すれば、その領主貴族の物となり、高い税を払い、その日、その日のギリギリの生が保証された。

 ミファナの口からため息が零れた。

 

 なんの為に生きているのだろうか? 

 ラウラを育てるため?

 私の可愛いラウラも、大人になれば、私の様になるのだろうか……。

 戦争というのならば、失敗して、こんな国など滅んでしまえばよいのに。

 

 考えれば考えるほど、ミファナの目から生気が失われる。

 ミファナは首を振り、正気を取り戻そうとした。

 

(私が、しっかりしないと……。)

 

 その時、外からミファナを呼ぶ、ラウラの声が聞こえた。


 ミファナは集会を中座して外へ出た。

 すると、少し慌てた様子の愛娘がいて、こちらに走ってきていた。

 

 「お母さん 、こっち来て!!」

 「どうしたの? 母さん、まだ集まりの途中なのよ。」


 娘の話を聞くと「妖精が沢山の食べ物をくれた」と言い始めた。

 妖精と言えば、ミファナも幼い頃、寝物語で聞いたことがある。

 (実在するのかしら……いえ、何を……そんなわけないでしょ・・・もしかして、私より先にラウラの方が……。)

 

 愛娘がおかしくなってしまったのかと、ミファナの目頭に涙が溜まっていく。 


「……ううう……ラウラ……ごめんなさいね……。もっと良い国で産んであげられなく……。大丈夫だからね……。貴女がおかしくなっても、母さんが守るからね……。」

 

 何やら壮絶な勘違いを始める母に、ラウラは焦った。  

「違う違う違う!! 何いってるのよ! お母さん、ちゃんと聞いて!」

「大丈夫だからね……。」 

「もーーー!!! ミリー!? 何してるの!? 早く来て!」」

 

 

 ラウラは、きっ、と眉を寄せると見ればすぐに分かるのにと、少しイラついた調子で、遠く、自分の家の方を見て誰かを呼んだ。

 すると、おっかなびっくりといった風に、ミリーが顔を出し、こちらに飛んできた。

 

(え?……飛んでる?)

 

 身長50cmほどの可愛らしい少女。

 背中には半透明の翅が生えている。

 その翅は陽光を反射して、キラキラと輝いていた


 ミファナの心が綺麗かは兎も角、確かにミファナが聴いた、寝物語に出てくる妖精の姿と同じものだ。

(そんな……、本当に妖精?少しおどおどしている様に見えるけど、大人が苦手なのかしら……?)

 

「こ、こ、こ、こんにちは!私、ミリーっていいます!」

「え……、ええ、私は、ラウラの母、ミファナよ……本当に妖精なの……?」

 ミファナは少々戸惑いながら、半信半疑といった風に尋ねた。


「うん! ……私は港町のスプライト! 種族は妖精種になるよ! ・・・です」

 ミファナの予想は正しく、元来、ビビりで内弁慶なミリーは、初対面の大人相手だと、緊張して言葉が怪しくなってしまった。

  

「港町のスプライト?」


 何処かに港町があっただろうか?と不思議がるミファナ。


 その時。

「あああーーー!! 妖精さんだ!?」

 今年6歳。

 村で一番年少であるサラトナが、勢いよく此方に走ってきた。

 

 ラウラ同様、母が会合に参加しており、家で留守番をしていたが、ミファナ達の声を聞いて、家から出てきたのであろう。

 

 まっすぐにミリーの元へ走ってきたサラトナ。

「ねえ、妖精さん! 私、サラトナ! 妖精さんは何処から来たの!?」

 

 流石のミリーも6歳の子供相手に、ビビりは発動しない様だ。

 

「こんにちは、サラトナ! 私はミリーだよ。」

 ミリーは南の森を指さし、

「あの森のずっ~と先から来たんだよ。」

 と言った。

 

「へぇ~!! すごい! すごい!」


 きゃっきゃっと、無邪気に喜ぶサラトナ。


 ミファナが、またミリーに声をかけた。

「それで、ミリーちゃんはどうしてこの村に来たのかしら?」

 

 途端、ミリーはまた、少しもじもじとし始める。


「あ、そうだった。この村の事を色々、教えてほしいな~と思って。」


ミファナは眉を下げて少し悩んだ


「う~ん……とりあえず、長老に合わせるわ。こちらにいらっしゃい。」 

しかし、流石に自分で決めていい事では無いと思い直し、長老の指示を仰ぐことにした。

 

 

 

 

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