第4話
社長とLIME中、面倒だと思ったのか電話がかかってきて、そのまま出たら神妙な声色の社長の声が耳に飛び込んできた。
『あ、おつかれ瑞貴。』
「お疲れ様。」
『LIMEの写真見たけど不気味な封筒だねぇ…。中身白紙だけなんでしょ?』
「うん、何のメッセージ性があるのかもどういう意味なのかもわかんないから気持ち悪くてさ。」
『だよねぇ。うーん…、何か他に変わったことはあった?』
「昨日の話なんだけど、仕事終わって帰ろうとした時にスタジオのインターホンが鳴ってさ。」
『うん。』
「そしたら誰もいないんだよ。スピーカーからもどちら様ですかって聞いても誰も何も答えないの。」
『他には?』
「今のとこそれぐらい。」
『ふむ…。それだけだと正直手の打ちようがないんだよねぇ…。』
「うん、それは分かってる。だからもし何かあった時に言うから、その時に知ってるか知らないかでは動き方も変わってくるじゃん?」
『まぁそうだね。了解、一応気に留めておくよ。類さんは?』
「部屋にいるよ?封筒の中に入ってた白紙を透かして見たりとか、なんか色々やってる。」
『そかそか。じゃあ僕はこれで電話切るけど、何かあったらすぐ連絡してきて。わかったね?』
「うん。じゃあ電話切るね、ありがとう社長。」
『はーい。じゃあね。』
そこで通話は終えて横にいる類の肩に頭を載せた。
「なんか発見あった?」
「ねぇな、ほんとにただの白紙だし封筒自体にも何も細工はなし。ここから何かを発見すんのは無理だ。」
「そっか、やだなぁ。今のとこ被害がないからいいけど、これでおかしなことになったら大変だもん。」
「そうねぇ。まぁおかしな事になったら俺も黙っちゃいないし、ちゃんと瑞貴は守ります。」
「俺男なんだから守るとかそんなん要らないけどな。」
「関係あるかそんなん。俺にしてみりゃ瑞貴はそういう対象なの。」
どこまでも男らしい類にちょっとときめいたが言うと調子に乗るので言わないでおき、その日もまた夜が過ぎていった。
のだが、午前4時半ごろ。何故か目が覚めてしまい、類を起こさないようにもそもそと起き上がってベッドを出てキッチンからアイスコーヒーを淹れてきてパソコンに向かった。
今のところそこまで詰めて仕事をしなくともいいのだが、こんな時間に起きてしまったのでもう仕事しかやることが無い。朝食を手の込んだものにするなら今から仕込みをやれば出来るのだが、朝からそんなガッツリと俺は食べられないのでパス。どうせやるなら晩ご飯の仕込みだ。やらないけど。
パソコンデスクの照明だけをつけて黙々と仕事をしていたらだんだんいい感じに集中してきて、時間を忘れて没頭していたら頭の上に拳が乗った。
「こぉら。」
「ん。あ、見つかった。」
薄暗い中で類が呆れた顔で俺の頭をゴンゴン叩いてくる。
「ゴンゴンしないでよ、口と鼻から脳みそドゥルンて出てくじゃん。」
「出るかよこんくらいで。ったく何してんだよこんな時間に。ふと目ぇ覚ましたらいないから焦って起きてきてみたらパソコンに向かってるし…。まだ5時半だよ?布団戻んなさい。あと1時間は余裕で寝れる。」
「起きた時4時半くらいだったから、もう1時間も経過してたのか…。了解、類が起きたなら戻ります。」
「ん、いい子。」
欠伸をしている類のそれが伝染り、俺も欠伸をしながらベッドに戻った。
「ほれ、寝るぞ。」
右腕を伸ばしてきて腕枕がスタンバイされたので遠慮なくそこに頭を載せてくっついた。
「はーーー、類ぬっくい…。」
「俺は今まで布団に入ってたもん。瑞貴さん冷えすぎ。そもそもこの部屋エアコン効いて無さすぎて寒いんだよ。今1月なのに。」
類に抱きついてそう言ったら、類は類で俺で暖を取るようにぎゅうぎゅう抱きしめて俺の顔中にキスの雨を降らせてくる。
「だって暑いのも暖房も俺は好きじゃないもん…。寒かったら着込めば済むでしょ。暑いよりよっぽど耐えられるよ。」
「逆だわぁ。寒いの耐えれない。暑さはいくらでも耐えるんだけどなー。夏場は夏場でここのクーラー19°Cとかに設定してて北極かと思うくらい極寒だから、わりと俺死にそうになってる。なんだよ19°Cって…。」
「寒いぐらいがいいんだよ、その中でぬっくぬくの毛布にくるまって寝るのが最高に幸せなんだから。」
「だったら温度上げりゃいいのに。」
「そういう問題じゃない。」
寒いのが嫌い、暑いのが嫌い、これは永遠の寒がり暑がりのテーマだし、永遠にこの事で言い争いを続けるテーマでもある。言ってみればきのこたけのこ戦争のようなものだ。一生反り合わない問題を掲げてお互いに言い争いを繰り返すという不毛な戦いなのだ。
結局2度寝出来ないまま6時半になりアラームが鳴った。出勤時間はだいたい9時頃だし、スタジオは家から車で10分圏内なのでわざわざ6時半に起きる必要は全くないのだが、俺が生き急ぐのが嫌いでいつも時間にたっぷり余裕を持たせないと気が済まないタイプなのだ。類がいつもそれについて早すぎるだのもっと寝れるのにだのと文句を言うのだが、俺は類にまで早起きを強要している訳では無いし好きな時間に起きてくればいいと思うのに、俺が起きてキッチンでゴソゴソしていたら気になって眠れないらしく結局手伝いに来てくれるのだ。
「ん、だし巻きできた。類お味噌汁持ってって。」
「はいよー。」
本日の朝食は純和風。白米と焼き魚とだし巻き玉子、昨夜作っていた千切り大根、それと白菜の味噌汁である。だがこれだと類が絶対的に足りないので類のみ焼き魚が2尾、そして白米も大盛りにしている。
「うんま。だし巻きふわっふわ。相変わらず作んの上手いんだよなぁ、だし巻き玉子とかスゲー難しいのに。」
「難しいよね、俺も流石に昔は全然出来なくてこんな綺麗に巻けなかったもん。」
「瑞貴のママンが玉子焼きとかだし巻き凄い上手いもんな、あれを目指せばそりゃ上手くもなるわ。」
「母親が料理上手でよかったよ。じゃなかったら今頃俺も黎斗も透も料理は出来ても不味い料理を量産する事になってた。」
黎斗、というのは俺の双子の弟で『あきと』と読む。透は『とおる』と読む現在19歳の末っ子。母親の身体が元々弱くよく倒れていたため、俺たち三兄弟が買い物や料理、掃除、洗濯から裁縫まで分担してやっていたため三人とも家事が完璧だったりする。ちなみに父親は弁護士をやっているが家事はからっきしで、いつも3人の息子たちからやいのやいのと言われている。
朝食も食べ終わり出勤の準備をし、いざ出勤。
到着して地下駐車場に車を停め2人でスタジオに歩いていくと、入口に何かか置かれているのがわかった。なので目を凝らしてそれを凝視した。
「んん?なにあれ…??」
「え、なに?」
「入口になんか置かれてる。…花?かな?」
「あ、ほんとだ。…なんかめちゃくちゃデッケー籠に入ってね?」
今度はなんだと言うのだ、朝からやれやれと言いながら入口へ向かい、その花籠を見て一言。
「いや、でかいんだよ、サイズが。これ一体いくらかかってんの…。」
「すげぇな、少なくとも数万はしそう。んでこれどうする?中入れるか?」
類にそう聞かれたが、外に置きっぱなしにもしておけないので頷いた。
「こんなとこに置いてたら邪魔だし入れるよ。誰からかわかんないけど玄関に飾っときゃいいでしょ。」
「ん。じゃあ鍵開けて、俺はこれ中に運び入れるから。」
言われるまま入口の鍵を開けてドアを大きく解放し、類が抱えた巨大な花籠を運び入れた。
「…おっも。こんな重たい花持ったことねぇ。」
「籠自体も大きいけど花の量もすんごいもんね…。」
そんな話をしながら2人ともスタジオに入り、飾った花を眺めていたのだが、俺がその中にあった赤い封筒を見つけた。
「あ、赤い封筒発見。」
「え、マジか。」
またか、と2人でため息をつき、俺がその封筒を取った。
「とりあえず先に荷物置きに行こ。そんで休憩室にコレ持ってくから開封しよ。」
「オッケ。」
そこで一旦2人とも荷物を置きに移動して直ぐに休憩室にやってきた。
第4話 完
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