第16話 労いの〇〇
異世界の食材はすごい。
黄色の玉ねぎのような野菜だったり、オレンジ色を基調とした水たまり模様がある人参だったり……。私が知ってる野菜が多いけど、そのすべてが変な色をしている。ぱっと見全部毒があるように見えちゃう。
私のスキルは野菜などを土の中に入れると、急成長させることができる。このことはついこの間、たまたま野菜を蒸し焼きするようの穴の中に滑らせ、気づかず放置してしまった時に気づいた。
結論から言うと、もう食べ物の心配をすることがなくなったのだ。
……と、そんなスキルの便利さをひしひしと感じながら野菜を食べる量だけ成長させる。
「よし」
材料は揃った。
私は今から、いつも頑張って働いてくれているいーちゃんとるぅのためにご飯を作る。
ちなみに自慢じゃないけど、私の料理スキルはスクランブルエッグを作ることができる程度!
「ま、料理なんて勢いでなんとかなるでしょ」
などとコンビニ弁当ばかり食べていて、一人暮らしを始めてから一度も料理を作ってない女子力皆無の花怜は供述しており……。
「大丈夫! 大丈夫!」
なぜが私の中で自信だけあった。
自分で不安を煽るようなことをしてないで早く作らないと二人が帰ってきちゃう。
材料はさっき用意した……異世界の玉ねぎ、異世界のにんじん、異世界のにんにくっぽいやつ、シイタケ、ブルーベリー、そして釣りたての新鮮な魚。
鍋の中に、とりあえずにんにくっぽいやつを入れる。
ぽいだけあって、いい香り……。ちょっと辛そうな香りだけど、これもいいアクセントになると信じてる。
にんにくもどきが黒焦げになったら、次ににんじんを入れる。まるごとじゃなくて、もちろん木製のなんちゃって包丁で三日月みたいに切ってある。
「おぉ〜」
じゅうじゅういい音がする。
ろくに油がなくて焦げ始めてるけど……これもいいアクセントになる? と信じてる。
にんじんに火が通ったっぽいので、次の食材を入れる……ってしたかったけど、この感じで炒めてたら最後には全部丸焦げになりそう。
「ほらぁ!」
もう分けわかんなくなったので、魚以外全部入れた。
あっ、ブルーベリーは最後のトッピングにしようと思ってたんだけど……間違えちゃった。
数分後炒め……。
「意外といい感じなのでは?」
いろんなものを一気に入れて、ただ炒めてるだけなのにピリ辛のいい香りがする。
焦げてる部分もあるけど全体的に見たらいい感じなんじゃ?
とりあえずこの炒め物は完成したので、鍋ごと火のないところに移動させる。
最後に魚なんだけど……。
「どうしよう?」
魚を捌くなんてできないし、かと言って煮込みなんていう高等テクニックはもってないし……。
これ、もう作れる料理一つしかない気が。
「もしかして、これがカレン様の手作り料理なんですか?」
「もちろん」
うきうきでいーちゃんの前に炒め物を出したら、なぜか確認された。
無言で料理を見つめ、私を見て、なにか納得したような顔でまた料理を見つめた。
「え、な、なに?」
「いえ別に。ただあなた様の手料理らしい見た目だと思いまして」
「らしいって……。結構いい感じにできてない? 私、こう見えて初めて本格的に炒め物作ったんだから」
「なるほど」
よし。焦げている部分を裏返していることには気づいてないっぽい。あれを見られたら、絶対呆れた顔される。
「にゃふにゃふにゃふ……」
ちなみにるぅは結局何もせずいつも通りの焼き魚にかぶりついてる。料理しなくても、美味しそうに食べてるから結果的によかったのかもしれない。
「それでは、いただきます」
「どうぞどうぞ」
いーちゃんはどこかおぼつかない手付きで野菜炒めを口に運んだ。
もぐもぐ、と無言で味わって食べてくれてる。
村で食べたオムライスの経験を活かして、味覚の調整は完璧に出来てるはず。
「んっ」
飲み込んだ。
るぅの魚をむしゃむしゃかぶりつく音が際立つほど静かになり、いーちゃんは口を開いた。
「……美味しいと思います」
「でしょでしょ? いやぁ〜やっぱり、丹精込めて作った食べ物は美味しいもんなんだよね〜」
「こんなこと聞くのおかしいと思いますが、カレン様はこの炒め物食べてはいないんですよね?」
「うん。やっぱり一番最初は、働き者のいーちゃんに食べてほしくて」
「なるほど」
よし。と、一息ついたいーちゃんはあっという間に炒め物を全部食べてしまった。
「おいひかったです」
「ありがと!」
まだ口の中に食べ物が残っているというのに、席を立ち滝の方に行ってしまった。
急に全部食べてびっくりしたけど、そっか。私ちゃんと炒め物作れたんだ……。
「あ、まだいーちゃんの皿の上にちょっと残ってるじゃん」
せっかく作ったんだし、一口ぐらい食べてみたいな。
「あむ」
口に入れた途端、ビリビリとする辛味が伝わってきた。あと焦げの苦味も。野菜の味なんて……しない。
こんなものをおいしいっておかしい。
もしかして味覚の調整が間違ってたとか……。
いや、うん。そうじゃない。いーちゃんのおかしかった理由が、これのせいだったんだ。
「気なんて遣わなくていいのに」
自我を持たない人形だったはずのいーちゃんが、他人のことを気遣うことができるようになったことに、親のような目線で成長を感じた花怜だった。
「ぺっ! ぺっ! これは流石に料理の練習しないと。まずすぎる……」
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