第14話 私の第二の人生はこうありたい
まだ完璧に文字を読めないので、料理を注文する時手間取っちゃった。色々あって私はエリカのおすすめを食べることになった。
異世界の料理だ……と、緊張していたのもつかの間。私の前に出されたのは、子供の頃よくお母さんに作ってもらっていたオムライスだった。
とろっととろける半熟の卵の膜に、チキンライスを絡めて食べる。見た目も味もオムライスのそれだった。強いて言うならいーちゃんから私へ味覚が伝わりづらかったので、少し薄味に思えた。
「あ! 食べ終わってる! どうどう? 私のお母さんの料理美味しかったでしょ〜?」
「おいしい」
エリカは小さくガッツポーヅしていたが、別のお客さんに呼ばれ元気な声を出しながらそっちに行ってしまった。
『それで、あなた様はこれからどうやって農作物を合法的に盗むのですか?』
「いや盗まずにもらうんだよ」
『……もしかして騙すんですか?』
「それは後のお楽しみぃ〜」
忙しそうなエリカに一声かけ、店を出た。
相変わらずこの村は店の中以外人の姿が見えない。とりあえず目当てのものがある農作物を育ててる場所に行く。
……だだっ広い畑にぽつんと一人のおばちゃんがいた。何もせず、簡易的な椅子に腰を掛けて畑を眺めている。
「あの」
「……ん」
おばちゃんが面倒くさそうに返事してきた。
「こんにちは」
目の前に立ち、挨拶するとおばちゃんはむわっ! と勢いよく目を見開き、鬼の形相で睨んできた。
「何じゃお主。偉いべっぴんさんじゃの」
『私が美しいというのは事実であって確認されるまでもないです』
「そりゃあ創ったの私だからね」
「?」
あっ。勢い余っておばちゃんの会話と全く関係ない日本語使っちゃった。
「独り言、です」
「……かっかっかっ! わしも独り言ばっか喋ってるから、べっぴんさんの気持ちよぉ〜くわかるぞぉ〜」
「…………」
花怜は突然饒舌に喋り始めたおばちゃんにビックリして言葉が出てこなかった。
「いつも酒ばっか飲んだくれてた夫が先に逝って、寂しいとでも思ってるのかね……」
うん。私とおばちゃんの独り言は全く違うと思う。
『なるほど。あなた様はこの未亡人を利用して農作物をもらおうと思っていたのですね』
いーちゃんが言うとおり、たしかに私は畑にいる人を利用して農作物をもらおうと思ってたけど、まさか利用する人が訳ありおばあちゃんだとは思わなかった。
「寂しいなんて思っておらん! 逆にわしは、あんなゴミクズみたいに家の中で酒ばっかり飲む夫なんて……いなくてせいせいしてるんじゃ……。やっと自由になったんじゃって。……夫も死んで自由になったのかのぉ」
この人のことを利用するなんて、流石に心が痛む。
話を聞く限りこの人はいい人だから、もう利用する必要なんてないんじゃないかな?
いやでも、念の為ありもしない嘘を並べて利用だけすれば後々バレた時のリスクはなくなる。
良心を選ぶのか、リスクを選ぶのか。
第二の人生の私は自分に素直でいたい。
「おばちゃん。頼みがある」
今私が両手に抱えている木箱の中にあるのは、見たことのない異世界の野菜達。
今回のことをいわゆる、結果オーライというやつなんだろう。
『私、まんまと騙されました』
「ふっふふ。創造者でありあなたのお母さんでもある私の考えを読もうとするなんて、一億万年早いんだよ」
『一億万年とはどういう意味なんでしょうか? 一億年だとしたら『万』をつけるはずがないですよね』
拗ねて揚げ足取ろうとしてるなこれ。
「例えだよ例え。私が言いたいことは、いつまでもいーちゃんには私の考えてることなんて読めないってこと」
『おそらく今カレン様はドヤ顔をしています』
「してないよぉ〜だ」
『おそらく今カレン様はドヤ顔をしています』
急にめちゃくちゃ言い当てるじゃん。
「さて。帰ったらまず初めにするのは家庭菜園の準備かな?」
『そうですね。……では帰りの道なので、体の主導権返してもらえますか?』
「……私は思うんだけど。こういう苦痛を味わうのは、交代交代じゃないと平等じゃないと思うんだよね」
その日は肉体的には全く疲れなかったものの、元の体に精神を戻した途端倒れるように寝た。
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