第11話 夢のマイホームを建てる



 私が創り出した自我がある人形から聞くに、彼女は突然人の体のようになって自我を持ったらしい。何故人形から変化したのか、結局わからなかった。

 もともと人形を大量生産して人手を増やす予定だったけどそれは中止。思い描いていた、私が動かなくても色んなものが揃っていく夢の生活は夢のまま終わってしまった。


 だが、人形1号(仮)ことはよく働いてくれている。初めて自我を持って数日経った今では、何も言わなくても私のご飯を作ってくれたり、私の洗濯物を洗ってくれている。一人のときより一日でやるべきことが格段と少なくなったので、精神的にも楽になった。


 いーちゃんのおかげで、やりたいことがようやくできる。


「よし」


 椅子を作って、我が家を見上げた。


 私はこれから家を新しく創ろうと思ってる。

 現状細かくどんな感じにするのかあまり決まってないけど、色んな用途に応じて使える部屋がほしいな〜とは決まってる。……いーちゃんの部屋もつくらないと。


 ――そう、これから創るのは一軒家。


 マンションかアパートしか住んだことのない私にとって、一軒家というのは夢のまた夢のような存在。

 一人暮らしして、お金が溜まったらいつかほしいなと思っていたマイホームを持つことになるなんて……。


「嬉しっ」


 さてさて。住んだことがなく、参考になるものがない一軒家をどうやって創るか……。


 大黒柱いうものがあるのは知ってる。あと、木をくっつけたいときは両方にデコボコを作ってそこに嵌めていく、というもの知ってる。

 常識的? なことを知ってるのならなんとかなるよね?

 

「これでいいのかな?」


 スキルのおかげですぐ家の枠組みができた。

 ちょっと遠くから見ると……うん。これ完全に正方形だわ。家の間取りは楽なんだけど、これじゃあ見栄えが良くない。

 何を持って見栄えが良くなるのかわからないけど、ベランダはほしいかな。あと屋上。


「逆に歪になった気がするんだけど」

 

 もうわかんないや。

 スキルですぐ取り壊したりできることだし、とりあえず仮で建ててみてその後に様子をみよっかな。


 花怜が再び作業に取り掛かろうとした時。

 バキッという音と同時に、家の枠組みが次々と壊れていった。

 砂埃が晴れたときには、家の残骸しか残ってなかった。


「環境破壊です! 環境破壊です!」


 後ろの木陰でずっと見守っていたいーちゃんから抗議運動のような声が聞こえてきた。スキルで木材を斬り薪にすると、つまんなくなったのか静かになって釣りをしに戻った。


「ふぅ」


 一息つき、再び家に必要な木材を調達する。

 

 素人だし絶対失敗すると思ってたから、そこまでガッカリしなんだけど……何が原因だったんだろう?

 接合部はピッタリハマってたはずだし、枠組みのバランスも良かった。


「大黒柱……」


 どういう構造にするのか夢中になってて、大黒柱のこと完全に忘れてた。


 さっきまで大黒柱のこと知ってるんだし、建築なんて余裕でしょって思ってたのになんで忘れてとんだろう。バカ? バカなの私? 


「いや私、もともとバカだった」


 高校の期末テストで20点を取ったのに、なんでバカじゃないと思ってたんだろ。


「ははは。はは……」

 

 乾いた笑い声しかでない。

 バカはバカらしく考えながら家を建てるのではなく、まずを創ることにした。


 模型を何度も壊し寝たり、納得した形にならなかったので1から創り直して寝たり、家の形が決まったのでもとの大きさで家を建てようとしたら柱の太さが足りなくて全壊したり……。


 色々あったが、一週間まるまる使って枠組みとその外枠を創ることができた。


「すんげぇ〜」


 テラスがあってベンチがあって、広いリビングがあって……。

 見た目はお金持ちの別荘みたい。

 まだ床とか、部屋の仕切りとか、扉をどうするか? とか色々やることは残ってるけどようやく一段落ついた。


「おー! すごいです」

 

 猫ちゃんと一緒に家の近くに作ったハンモックの上で寛いでいると、いーちゃんが私のもとに来てわざとらしく驚いてきた。


 こういう時に、あんたさっき昼食食べるとき一緒になって見てたよね? と言うのは野暮ってやつなんだろう。


「でしょ? 私初めて家なんて建てたんだけど、意外といい感じじゃない?」


「はい。私は家というものを直接見たことがありませんが、心が完璧だと言ってます」


「ありがと」


 まだ生まれて間もないのに私のことを励ますなんて、この娘は天才か?


「では、後は私にお任せください」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、これはスキルでしか進まないからね……」


「いえ。床の嵌め込みなど、力が必要な作業ありますよね?」


 多分いーちゃんは、私が木の繊維を使って木材を嵌め込んでいるとは思ってないんだ思う。

 真剣な瞳を向けられると「力作業はないからいいよ」なんて言えない。

 

「じゃあお願いしようかな」 


 かくして私達は二人の力を合わせて、マイホームを手に入れた。

 扉は技術の関係上、横にスライドする形になったけどこれもこれでいい。ちゃんと床があって、何も気にすることなくゴロゴロできて。

 とりあえず家が完成した。


「カレン様。床抜けました」


「もっと強度があるやつにしないと……」


 まだまだ改良の余地はあるけど。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る